1個80円です。
「ハァー。また会いたいなぁ」夏が終わると人恋しくなる。私は幸子。高校2年生。身長160センチ。体重は秘密。最近、独自のダイエット法で少し痩せた。私は考え事をしながら歩いていた。
今から3日前の話。友達の友香とペットショップに行って子犬を見に行った時の事だ。
「可愛いね、友香はどの犬が好き?」と私はコリー犬の子犬に手を振りながら言った。
「私はゴールデンレトリバーだよ。幸子は?」友香はコリー犬にピースを見せたり手招きをしていた。
「シェトランド・シープドッグだよ」と私は言った。
「あんまり聞いたことがないなぁ。ねぇ幸子、ここのペットショップにいるか探してみようか?」と友香は言いながら歩き出した。
二人で店内を歩き回り探してみたが残念ながらいなかった。
「幸子、いなかったね」
「友香、しかたないよ」
私と友香はコリー犬の前に戻ると「バイバイ」と言って店を出た。
「じゃあ友香、また明日ね。帰ったら電話する」
「オッケー、待っているよ。幸子、気を付けて帰りなさいよ。小学生みたいにあっちこっち寄り道したりボンヤリして歩いたらダメだよ」
「友香、子供扱いしないでよ。じゃあね、友香、バイバイキ~ン」
「幸子、バイバイキ~ン」
私は歩きながら空を見上げた。夕陽が綺麗な秋の空。カバンにトンボが止まった。私はカバンを持ち上げてトンボの顔を観察した。やっぱりだ。トンボのメガネは水色じゃないと思う。茶色のサングラスと同じ色に見える。
私はトンボに息を吹き掛けた。トンボは慌てて東へ飛び去った。
私は商店街のコロッケ屋さんの前に立ち止まった。
美味しそうなカボチャコロッケを発見してしまった。『出来立てホヤホヤのカボチャコロッケが特に、今、熱い。1個80円です。お買い求めは御早めに』と小さな画用紙に赤いマジックで書いてあった。
「へいらっしゃい。お嬢ちゃん、カボチャコロッケ、めちゃくちゃ美味しいよ~う!」と頭にハチマキを巻いたオジさんが大きな声で言った。
私は財布から200円を出してカボチャコロッケを2つ買った。
私はカボチャコロッケが入った紙袋を大事に持って近くのベンチに座った。
私は笑顔を浮かべてカボチャコロッケを1個取り出して食べようとした。
「あちゃちゃちゃちゃ、あちょちょい、あっちゃち、あっちぃ~~~~~」私はカボチャコロッケを落としそうになった。
「あっ、ヤバい!」
私は左手でカボチャコロッケを受け止めた。
「あちゃちちちい、あつついついつい、あちゃちゃちゃ、あつ~い」私は急いで紙袋に入れた。
「凄い熱すぎるわ。こんなに熱いカボチャコロッケは初めてかもしれないわ」私はカボチャコロッケに息を吹きかけて冷ますことにしたが肺活量が無いのですぐに止めた。
しょうがない。しばらく、夕焼けにたそがれながらカボチャコロッケが冷めるのを待つことにした。
「あのー、すみません、大丈夫ですか?」
突然後ろから声がしたので私は立ち上がった。
「えっ!?」
私は驚いた。声の主は隣のクラスにいる片想いの男の子だった。
川ノ上優介くん。
私は頭が真っ白になった。
「あれ? 君、何処かで見たなぁ。うちの学校だよね? 手、大丈夫?」優介くんの優しい声に私は泣きそうになっていた。
「は、は、は、はい。手は大丈夫ですし、わたくしは大体、あなた様と同じ母校なんでございますよ」私は自分の口を軽く押さえた。緊張にも程があるよ。私がこんな意味不明な貴族みたいな言葉で喋るなんて全く信じられなかった。
「カボチャコロッケ、美味しそうだねぇ。僕も買ってこよう」優介くんはコロッケ屋さんに行こうとした。
「優介くん、待って。あのう、ふた、ふた、ふた、ふた、2つ買ったので1つプレゼントします。どうぞ食べてください!」私は2つ入りのカボチャコロッケの紙袋を差し出した。
「悪いよ。気持ちだけ受け取っとくよ。どうもありがとう」優介くんは再びコロッケ屋さんに向かおうとしたので私は肩を押さえて引き留めた。
「遠慮なさらずに、さあ食べてください」私は紙袋を優介くんの胸元に当てた。
「じゃあ、ありがたく1つ頂きます」優介くんはカボチャコロッケを取り出した。
「あちゃちゃちゃちょーい! ちょーいちょーい! あちぇちぇちぇちぇちぇちぇ、あつつつつつつーう! あつ、熱いわい! こんなに熱いカボチャコロッケは初めてかもしれないわい」と優介くんは私と同じ事を言ってカボチャコロッケを両手で交互に投げて冷まそうとした。
終