影と太陽とカグツチ 下
三部構成の二部目ですが、正直、ここからでも読めると思います。陰と太陽とカグツチ はここが本編みたいなものになってしまいました。
うっぷ、吐きそう・・・。街の中の整備された道路を走っているときにはあまり目立たなかったアルフレッドの運転も、ぐちゃぐちゃのダートみたいな道では凶器だな。
そう、俺は今どこかわからない山中にいる。二人はここだというが・・・どう見ても何もない。しかし、俺はすぐに感づいた。これは結界だ、外界からの視認を拒絶する結界。確かに、そこに何かがあるのはわかるしかし、いくら目を凝らしてもその何かを視認することはできなかった。
「そんなに、目を凝らしても見えるはずないわよ。ここは、契約をしたものにしか視認できないの」
「契約?何と」
「この、学園とよ」
「が、学園!?」
が、学園だと。親父、どういうつもりだ。俺をこんなところに呼び出したかと思えば、学園だと・・・今更俺に勉強でもしろと言うつもりか。
と、そんな道端の茂みの前で立ち往生している俺の前に
「お、親父!?」
「やっと、来たか。待ちくたびれたぞ」
茂みの中から、親父が不敵に笑いながら姿を表した。その親父の手にはなにかの紙が握られていた。色からして、ただのコピー用紙ではない。羊皮紙か?
「どういうことだ親父!なんで、俺をこんなところに!」
「まぁ、話はあとだ。とりあえず中入るぞ」
「ん?」
「契約の儀式だ」
親父はそう言うと、持っていた羊皮紙を俺の方に放り投げてきた。それは、ひらひらと浮遊し俺の目の前で静止した。そして、高級そうな羽ペンが羊皮紙の中に書かれた幾何学模様から飛び出してきた。
魔法の器具だ。余計にきな臭い。
「それに、名前を書け。とりあえずは、それで中に入れる」
「・・・ん」
「思慮深いやつだな〜。いいから、早く書けよ。めんどくさい!」
「ケッ、ほんとになんでもないんだろうな」
「俺を信用しろって」
信用できないんだよな、このクソ親父。今まで何度この手で騙されたことか・・・。でもまあ、今回はサデーニャの目もあるし、あまりぐずるのもダサいか。
「あぁ〜、もう!わかったよ、書けばいいんだろ書けば!」
俺は、羊皮紙になぐり書きで自分の名前を書いた。羽ペンから手を離した瞬間、俺の足元に幾何学模様が現れ、光出す。そして、機械的な音声が流れ始めた。
『認証 九条裕也 19歳・魔力容量 0・血清遺伝術式 なし・得意体質 神殺し 設定完了。契約が完了しました。ようこそ、グレゴリア魔法学園へ』
グレゴリア魔法学園・・・、その音声が鳴り止み顔を、今まで茂みだった方へ向けるとそこには立派な城壁と西欧風のとてつもなく大きな建築物があった。
「ククク、やっぱ、魔力は無いか!まぁ、もとはただの人間だもんな」
「ま、魔力?何の話だよ親父」
「今、言われたろ。魔力容量0って。やっぱお前センスねぇよ」
「うるせ、俺は魔法なんて使わなくても戦えてる」
「だろうな、だって俺も魔法使えないし」
さらっと、言うなッ!
でも確かに、今まで親父が魔法を使ったところは見たことがない。家も、魔法の世界のはずなのに、ガスだし。光熱費かさむんだよな。
「そんな、俺から戦い方を教わってんだ。魔法なんて使えるようになるわきゃね〜な」
でも、だとしたらおかしいぞ。なんで、魔法が使えるはずもない俺をこんな、魔法学園なんてところに連れてきてるんだ。魔法が使えないのにこんな学校で学ぶことなんて。
「ん〜、お前今、ここで学ぶことなんて無いって思ってるな。まぁ、その点も含めて話てやるからついて来い」
親父は親指を立て学園の方を刺して言った。そして、豪華な装飾のはどこされた門をくぐって学園の中へと入って行った。
そんな、俺達の会話を聞いていたサデーニャが俺の肩を叩き、言う。
「早く、行こ」
「ああ、そうだな」
そして、俺は言われるがまま門をくぐり学園の中に入っていった。
校門から入って少し歩くと校舎の入り口らしきところが見えてきた。校舎はたしかに大きい、しかしそれは上に伸びる時計塔だけだった。それ以外はあまり大きくはなかった。外から見たときは大きく見えたが割とこじんまりとしているんだな。
「以外に小さいんだな」
俺は、サデーニャに言う。
「ここは第一校舎。その他に第二、第三校舎、それに実験塔と実戦用ドームもあるからかなり大きいのよ。端的に言うと東京ドーム4個分くらい」
でた、いまいち縮尺のわからないものの例え方だ。テレビとかでよく見たな。でもなんとなく、かなりでかい事はわかった。
「この学園、生徒数だけなら世界で一二を争うんですよ。魔法学園なんてここくらいしか無いですか」
アルフレッドが補足を入れる。
そんなに規模がでかい学校なのか。その全てがきっと魔法関連の曲者ばかりなのだろう。末恐ろしい限りだ。
そんな他愛のない会話をしながら、親父についていく俺達は学長室とい書いてある扉の前についた。
「ここだ」
「だろうな、学校に来てまずどこに行くといえば、まずはここだろうな」
「物わかりがいいな。それじゃ、入るぞ」
そう言うと親父は、扉を軽くノックすると応答を聞かないで扉を開けた。
「連れてきたぜ、ロイゼン」
「少しは、礼儀というものをわきまえたらどうなんだ、フェンリル」
親父の後ろについて、室内に入るとそこには椅子に腰をかける白髪の老人がいた。その老人は俺を見ると微笑みながら言った。
「君が、九条裕也くんか。話は聞いているよ。そこは座ってくれたまえ」
「は、はぁ」
俺は、言われるがままに部屋の中央のソファーに腰掛けた。超低反発のソファーは俺を飲み込まんばかりに包み込んだ。このまま寝たい。
俺が座ると、老人は俺の後ろに立っていたサデーニャとアルフレッドに目を向けて言った。
「なぜ、君たち二人もいるのかね?今は春休みのはずだろう」
「たまたま、九条裕也さんと知り合いだったので、偶然にも今日彼とショッピングに興じていた次第です。そして、彼に頼まれここまで彼を連れてきたというわけです。」
「そうか、九条くんをここまで連れてきてくれてありがとう」
「そこで、一つお願いなのですが」
「なんだね?」
「この場に、私も同席させていただけないでしょうかもちろんアルフレッドも」
「うむ、いいだろう。二人の同席を許可しよう」
「ありがとうございます」
サデーニャはお辞儀をすると入ってすぐの壁の前に立った。アルフレッドもその隣に立った。
俺は、老人に聞いた。
「あの。俺はなぜここに呼ばれたのでしょうか?」
それを聞き、老人は頭を抱えてため息を付いた。俺なんか言ったか?
「フェンリル。お前また何も伝えてないのか?」
「ああ、そのほうが面白そうだろ。ククク」
「お前ってやつは」
老人は親父に向かって文句の一つでも言ってやりたいような顔をしていたが諦めたようにまた深くため息を付いた。そして、俺に向き直り、話始める。
「私の名前は、ロイゼン・ホーク。ここの学長をしている。君を呼んだのは他でもない、君にこの学園に入学してもらいたい。君のお父さんとは古い付き合いでね、彼が養子をとったと聞いたときは驚いたよ。でも、同時に期待もした。彼が、フェンリルが認めた人間はどのようなものなのか?とね」
「俺は、別になんでもないですよ。ただの人間です。その証拠に俺に魔力はない。ここで学べることもない」
「裕也くん一つ言わせてもらおう。フェンリルの力を宿した時点で君はもう人間ではない。化け物だ、他の人間からすれば君も、君が殺している狂神も同じ異端にすぎない。それは、生まれながらにして体に魔力を宿してしまった我々も同じなんだよ。ここは、生徒数が多いがそのほとんどがこの異端なる力の制で迫害を受けた子供達ばかりだ。世界は、不純だよ。いろいろなものが混じり合って形成されている。しかし、人間はその不純を正そうとして人々をふるいにかける。悲しい話だよ、外見も、心も同じだと言うのに持って生まれた力のせいで普通には生きられない。この学校ではそのような子供達を保護し、教育を施し人間社会で普通に生きていけるように育てることが目的だ。もちろん、望むものにはこちら側、異端側で生きていく方法も教える」
学長は、とても悲しい目で話した。そうか、俺は、途中で神殺しの力を得たからそんな思いはしたことはなかったのか。
「・・・君が今後、どのように生きていくかは君が決めることだ。だが、決める前に両側の中間に存在するこの学園を見てから決めてみてはくれないか」
学園、聞いたところから薄々感づいてはいた。でも・・・俺は、学校というものが嫌いなんだ。
「少し、考えさせてください」
俺は、無愛想にそう言うと、席を立ちその部屋をあとにした。
「クジョー・・・」
「ごめん、またいつかデートの続きをしよう」
「またいつかって何よ!クジョー!」
「ごめん」
サデーニャの言葉に空返事で返し、俺はただ歩いた、ただ歩き続けた。
歩幅はいつしかどんどんと大きくなった。俺は走っていた。校門を抜け、車の来た路を走った、ただ走った。そうすれば、今この心にあるモヤモヤとした気持ちが拭えるのではないかと思ったのだ。だが、走れば走るほど、俺が、人ではないことを思い知らされるようだった。一瞬で風景が飛んでいく、走りゆく車を追い越し、風になった。この速度に慣れたはずだった、でも今ならわかる。俺は、きっとどこかで自分を人間だと思っていたんだ。でもそれを直球で否定されたのがショックだったんだ。
弱いな、俺は・・・ほんとに弱い。狂神を殺して、殺して、殺して。強くなっている気でいただけだったんだ。
気づくと俺は、昼間のショッピングモールの前にいた。
俺は、なんとなくショッピングモールの中に入った。吹き抜けになっている広間の舞台の前のベンチに腰を掛け、ただぼーっと、舞台の上を見る。そこにヒーローの姿はない。明かりの消えた舞台の上はとても寂しく見えた。
「寂しいもんだな」
「そうですね、ヒーローショーは強い余韻を残しますよね」
俺の隣に、烈が腰を掛けた。ここに着いた時からなんとなくこいつの気配を察知していたのであまり驚ろかなかった。
俺は、無意識こいつに会いに来たのかもしれない。そんな、ことを思ってしまうほど俺の心は疲弊していた。
「どうしたんですか?昼間話したときより元気なさそうですよ」
「なぁ、烈」
「なんです?」
俺は、なんとなく会って数時間も話してないこいつになら話してもいいかなと思ってしまった。いや、会って数時間も話してないから話していいと思ったのかもしれない。
「お前、学校行ってるか」
「ええ、行ってますよ。でもどうして?」
「俺さ、色々あって高校を中退みたいなことしてさ。でも、それ自体に悔いがあるわけじゃなかったんだ。それどころか、学校は行ってたときからあんまり好きじゃなくてさ、でも、今になって解かんなくなっちまって、俺はなんで学校が嫌いだったのかが。・・・お前は、学校を楽しいと思うか?」
「俺の学校は、少し変な感じだからあまり参考にならないと思うけど・・・。そうだね、楽しいと思うよ。いろんな人がいて、いろんな考え方を持ってる。ぶつかることもあるけど、それも含めての、学校生活だと思うよ」
俺は、何を求めてこんな質問をしたんだろう。烈の答えに俺は何も得られずにいた。
俺は、強い孤独感に襲われた。どこかで、烈のことを自分と同じだと思いこんでいた。それはきっと昼間、烈に同じような匂いがすると、言われたからだろうか。
しかし、それはやはり勘違いだ。学校の話をするときの烈はものすごく輝いて見えた。同じ場所にいるのに天と地の差があるかのように・・・。いや、もっとだな。天に照らされ、できる影ほど遠く離れていた。
俺と、こいつは正反対だ。
「お前、俺と自分がにた匂いがすると言ってたけどそりゃかんちがッ、んぐッ!?」
烈が、俺言葉を遮るように口をふさいだ。
何だ!?
「シッ、何か、来る」
何か?・・・
俺は、精神を集中してあたりを探る。
ツッーーーーーーーーーーッ!!なぜ、俺は今まで気づかなかったんだ!このショッピングモールには、数十を超える狂神の気配が在った。店の明かりが明るすぎて出てこれない様子だが、たしかにいる。これは、まずい。このままじゃ何人もの死者が・・・。
バチンッ
「こ、これは!?」
「停電!?くっそ、はめられたのか!?」
店中の明かりが一斉に消えた。外はもう太陽が沈み月が出ている。吹き抜けのここですら上のガラス張りの天井から月のほのかな明かりが差し込むばかりだ。
「これじゃ、狂神の独壇場。この暗闇じゃ、一般人は逃げることもままならない!」
烈の、焦った声が聞こえる。確かに暗闇に慣れている俺ですら、あの明るい室内から一転してこの暗闇だ目がなれるまで少し時間がかかる。
運が悪い?この停電は、不慮な事故?・・・こんなタイミングで?いや、違う。これは、『R』の手下どもの実験か?確証はない、だが普段大量発生はしにくいはずの狂神の大量発生それもこのショッピングモールに集中している。これは、まずい。
店内が暗転してから1分ほど立った頃、
「きゃーーーーー」
1つ目の断末魔。それを皮切りに、次々と店内に響き渡る。地獄だここは。
「クッソ、殺しても殺しても切りがねぇ!この店が広すぎる。端から端までなんて手が及ばねぇぞ!」
襲いくる、狂神を切り裂きながら俺は烈に言う。
「根本から、どうにかしないと。・・・ブレイカーを見てきます!それから、逃げ遅れた人がいないか見てきます。持ちこたえてください!」
烈が、負傷した一般人を手当しながら言った。
俺達は、吹き抜けの広間に陣を取り、一般人をかばうように戦っていた。一般人に狂神は見えない。それゆえに、ここにいる一般人は、俺たちをどう思っているのだろうか?どこかで、我慢の限界がきて、勝手に動き出すかもしれない。目に見えないものというのは、恐怖の対象であるが、なにもされなければそこに存在はないと同義だ。
「いや、ブレイカーを見に行くのは無駄だろう。ここまでのことが偶然で片付くはずもない。完全に計画の一部で、ブレイカーどころか、非常電源に切り替わらないあたり主電源自体を破壊しているだろうな」
「計画!?一体誰の?」
「俺は、以前に狂神を人工的に作り出すことを研究している連中と戦った。奴らは、固有の結界と、研究所を有している。どうやら、このショッピングモールも結界に閉じ込められたようだ」
俺は、吹き抜けのガラス張りの天井を見上げながら言った。
先程まで、月明かりの差し込んでいた天井は、漆黒の闇に包まれ月明かりすらも通さないほどに暗くなっっていた。これじゃ、外にも出られない。
それを、見て烈も険しい顔をしながら口を開いた。
「みたいですね。つまり、その狂神崇拝といったところでしょうか。その連中の中に魔導者関連の人間も・・・」
「いるだろうな、ほぼ確実に。この結界を解くには、術者本人もしくは結界の依代を破壊する他無いな」
でも、このままじゃ防戦一方になる、なにか手を打たないと。
「なんだ?狂神の動きが・・・止まった」
「なんでしょう、嫌な予感がします」
暗闇から、絶え間なく襲いかかってきていた狂神の攻撃がやんだ。どうなっているんだ?なぜ攻撃をやめる。このまま押し切れたはずだ。やはり、遊ばれている。
ーーーーーー
ショッピングモールの停電。その暗闇に紛れるように二人の人間が影から現れた警備室いきなりの停電に現場は騒然としている中での出来事で警備員たちも脳みそが追い付いていない様子だ。一人は小柄で黒っぽいコートのフードを深くかぶり、もう一人は大柄で髪を後ろで結び、ズボンのポッケトに手を突っ込んでいた。二人の顔には無字の真っ白なお面がつけられていた。
「な、なんだ君たちは!?いったいどこから!?」
「うるさい」
女声の小柄の方が、警備員に向かって言い放つ。
刹那
ザシュッ
警備員の首が跳ね飛ばされた。
「お前には、戦闘能力は無いんだ。あまり前に出るな」
「心配ない、私にはお前がいるだろう」
もうひとりの大柄の男が影から刀を出して警備員の首を跳ね飛ばしたのだ。
「うるさい。いいから、計画を実行するぞ」
「わかってるよ。それじゃ、実験の第二フェーズだ」
小柄の方がそう言うと、両手を前に突き出した。すると目の前に青白く光るキーボードのようなものと、モニターのようなものが複数個現れた。
「さてさてさ〜て。まずは、狂神を一箇所に集めて〜。核を融合して」
「クソメガネから、人が狂神の研究結果が届いたんだろ?なぜ、それを引き継がない」
「ん〜、嫌いなんだよね。だって、私達は人間だよ。あいつの研究は狂神を人間にするみたいな研究なんだもん。人間が人間を作るのってなんかおかしいじゃん」
「俺にはわからないな。俺達は、人間じゃない。ただの怪物だ」
「人間だよ。誰がなんと言おうとね・・・」
小柄の方の声には怒りが籠もっているようだ。先程までの軽口とは声色が明らかに違う。
「悪かった」
「いいよ、別に。わざとじゃないってわかってるし」
少しの沈黙。それを切り裂くように小柄のほうが口を開く。
「これで、よしっと」
「終わったか?」
「終わった。あとは、外で高みの見物かな」
「意外と、あっさりと終わったな」
「まだ、私達の動きに気づけてないんでしょ。あの強情な神たちが協力なんてそう簡単にするとは思えないしね」
小柄の方はモニターとキーボードを消すと立ち上がり、その場に魔法で門を開いた。
「暗闇は、影がなくなるから面倒だな」
「闇と、影は別物だからね。仕方ないよ。でも魔法が使えないあんたと、戦えない私の欠点を補い合った私達は最強だってことじゃない」
「そうかもな」
そう言うと、二人は門の光の中に消えていった。
ーーーーーー
「何だ?狂神が一箇所に集まり始めたぞ」
俺は、感覚を鋭敏にし周囲に潜む狂神の、出す音や、振動に意識を集中させる。
暗闇で蠢く狂神の群れ。さっきまでバラバラだった狂神の群れが一箇所に集まり始めるのが見えた。
何をしようとしている?くそ、まるでわからない。
「烈、お前には狂神が見えているか?」
「いえ、まるで見えません。逆になぜ裕也は暗闇から現れる狂神に的確に攻撃を当てられるんですか?」
「色々あるんだ、でも、このままじゃまずいな。何か・・・」
俺が、狂神の動きに注意しながら打開策を考えていると後ろからある一人の声が聞こえた。
「くそ、電波が圏外!?さっきまで普通に使えてたのに!」
「・・・ッ!それだッ!」
「へ?」
そうだ、携帯!それの画面の光を一点に集中させればある程度の光にはなる。狂神への対抗策。いや、そこまでの効果はないか。だが、明るくなれば烈も戦闘に参加できる。それだけでやる価値はあるのではないか。
「皆さん、携帯をライトモードにして周りを照らしてもらえませんか!」
「そんなことより、今はここから出るのが先ではないのか!!」
「出られないんですよッ!、今ここから出ることはできない!」
「なぜっ!」
男性客の一人の怒号が店中に響き渡る。
く、言ったて分からない。分かるはずがない。どうする、このままじゃ間違いなくこの人たちは勝手に動く。そうしたら一瞬で狂神の餌食だ。どうすれば・・・、そんな説得に困り果てる俺の横から烈が男性に語り掛ける。
「光は人間の心を落ち着かせる効果があるんですよ。だから、今はいったん落ち着いて皆さん突然のことで気が立っているだけです。とにかく、今は僕たちに任せてくれませんか。必ずあなた達を生きてここから出しますから」
「う、本当にそれで助かるんだな」
「最善は尽くします」
「わかった」
「お願いします。みなさんも!どうか僕らに力を貸してください!」
そんな、烈の献身的な説得でお客さんの携帯の明かりがどんどん灯っていく。
黙っていた俺に烈が優しく声をかけてくる。
「みんな、不安なんだ。僕たちの焦りは声色から伝わってしまう。だから、僕たちはあくまで冷静にこの戦況の打開策を考えないと」
「ありがとう、烈。助かった」
「いいよ、これで。僕も戦闘に参加できる」
烈が、立ち上がり構える。俺も、一歩前に踏み込み構える。狂神が動き出した。
「な、何だこれは!?」
「さっきより、格段に大きい!こんな狂神見たこと無い!」
暗闇から携帯の光で照らし出されたのは優に10メートルを超える狂神の姿だった。左右非対称の巨碗と奇形の頭部。形は人間でも他の動物でもない。文字通りの化け物の姿がそこにはあった。
「とにかく、この人たちを守らないと」
「烈、お前今どのくらい戦える」
「持って1~2分。本気は30秒も出せそうにないね」
「なら、お前はここにいる人たちをいったん違う場所に避難させるんだ!」
「でも、それじゃ裕也が一人で!」
「まともに戦えないやつがいたら、足手まといだ!今は自分にできることをしろ。もし、俺がやられたときは、お前が戦う番だ」
「・・・わかった、死ぬなよ」
「わかってるさ」
そういうと、烈はくるりと後ろを向いて客たちに移動を促し始める。相変わらず迅速な行動だ、皆も烈の誘導に素直に従っている。きっとあいつには人々を先導する才能があるのだろう。
「律儀だな、クソ野郎。一般人がいなくなるのを見ていてくれるなんてよ。・・・、言ってもわからんか。お前が何を考えてるかはわからねぇ、けど俺はお前をぶっ殺さなきゃならねんだ!出し惜しみは無しだ」
俺は、烈たちの光が見えなくなるのを待って。狂神に向き直る。
烈は、切り札になりうる?いや、まだ未知数だ。切り札というより、最後の砦だな。俺が落ちたら全員死ぬといっても過言じゃない。俺が、見ず知らずの人間の命を握ってるてのは、どうもしっくりこないな。俺の戦う意味があいまいだからだろうか?
俺にはサデーニャみたいな、守りたものがあるわけでもないし、烈みたいに夢があるわけでもない。俺は何がしたいんだ?・・・いや、今はそんなことどうでもいい、狂神は殺すべき敵。これだけでいい、戦う理由なんて。
俺は、頭を振り、関係のない葛藤を振り払う。そして詠いだす。
「神殺しの刃フェンリルの血を継ぎしものが命じる。眼前の狂いし神を裁くためその鎖を解き放ち我の力を開放せよ『解鎖』!!」
俺がそう詠うと、身体から鎖がほどけ落ちるように床に落ちる。その瞬間、俺の短髪の黒髪は白くなり、腰まで伸びた。そして、白いオオカミの耳としっぽが生えてくる。
この形態は、フェンリルの力を最大限開放できる代わりに、役5分しか持たない。つまりタイムリミットは5分!
「行くぞ、クソ野郎」
俺は低い声でそういうと、床を蹴り前に飛び出した。一瞬で狂神の頭部付近まで飛び上がり、奇形の頭部に一発!拳を叩き込んだ。そして、俺は身をひるがえし、もう一発!首元に打ち込む。・・・しかし、俺の拳はその熱い肉壁にはじかれほとんどダメージが入っていない!?
ドゴッ!!
「グハッ!」
拳を叩き込んだ後の俺の隙に合わせ、狂神が拳を俺の真横から打ち込んできた。俺の身長ほどある拳は、俺の右半身の骨をほとんど折り俺を吹き飛ばした。
俺は、床を転がり壁にたたきつけられる。俺は、血反吐を吐き出し、狂神を見る。笑っている。笑っている。俺を吹き飛ばし笑っていやがる。口の端を上げ、声を上げて俺をののしっていやがる。だが、立てない。足に力が入らない。
どういうことだ?俺の拳が効いてない?なぜ?俺の神殺しの力は、触れただけで神の力を根本から否定する力。つまり、あの狂神には神聖が宿っていない?神じゃない?なら俺には、こいつを殺せない。・・・親父、フェンリルから教わった戦い方は、相手が神であること前提の戦い方だ。神殺しの力を適切に相手に叩き込む、数の攻撃を主としている。つまり打撃力はない。
試案を巡らす俺は狂神の体の表面が動いているのが見えた。そこには人間の顔のような盛り上がりが、口のようなものをパクパクと動かし何かを言っているかのようだった。そう、この狂神は、食らった人間の体を自らの体の表面に皮膚のように這わせていたのだ。
こいつっ!体の表面が人間なら、神殺しも効かないのは納得できる。だが、許せる所業じゃない!
だが、・・・ならどうする、『残影』で、斬撃による攻撃ならどうだ?いやダメだ、あの肉壁に阻まれて、ナイフもまともに刺さらない。・・・無理だ。俺にはこいつを殺せない。勝てない、負ける。俺も、烈も、一般人も、みんな死ぬ。・・・それは、ダメだ!戦わないと、守らないと、俺が戦わないと。・・・・・・・・・・・・なぜ?その理由は?俺が、命を懸けて赤の他人を守る理由はなんだ。
「グフッ!?、ぐ、グギャ!」
俺は、狂神に蹴り飛ばされた。痛みはもうない、痛覚も死んだか。俺はもう死んだな。
高速で、吹き飛ばされる俺にある人間の姿がが写った。
「れ・・・つ?」
「裕也!」
俺は、壁にたたきつけられた。どうやら俺は烈たち、一般人のほうに飛ばされたようだ。烈が俺に何かを語りかけてくるが、何を言っているかわからない。なんだよ?そんな悲しそうな顔してんじゃねぇよ。昨日会ったばっかの俺なんか置いて早く逃げろよ。
「れ・・・つ。早く・・・逃げろ」
「喋んなっ!もう喋んな。体の半分はいかれてる。よくこれで生きていられるな」
「逃げろ・・・」
「喋んなって!・・・動かすのも危ない。どうすれば・・・」
烈が、俺を見て顔をしかめる。そんな烈の後ろから一般人が続々と近づいてくる。そしてその全員が口を抑え嗚咽を漏らす。
そして、口々に一般人たちは不安を漏らし始める。
「お、おい。何が起こっているんだ?」
「このまま、ここにいて大丈夫なのか?・・・このひと、ものすごい速さで吹き飛ばされてきたみたいだったけど」
「お、おい。天井、ひび入ってないか?」
「嘘だろ、崩れるのかよ!」
「生き埋めはごめんだぞ!」
「やっぱり外に出たほうが・・・」
「でも、外には出られないんじゃ・・・」
「あの、変な兄ちゃんたちの言ってたことだろ!信用してられっか!俺は一人でも外に出る・・・ぜ!?」
外に出ようとした、一人の客の動きが止まった、すると、客の頭が180度回転して、後ろの客のほうを向いた。瞳と口から血を流し、男性客は、その場に倒れ伏す。
「き、きゃーーーーー!」
「何が起こっているんだ!?」
狂神の腕がのび、客の頭をつまみねじったのだ。客の悲鳴、それを聞いたからか店中に低い声の笑いがこだまする。
『ふ、ふふふふふふ。どこに行く気だ~?俺を一人にしないでくれよ~。さみしいんだよ~。もっと殺させろよ~』
「な、なんだ、あれ!?」
「ば、化け物」
喋れる、狂神。こいつも人間の一部を依り代にしているのか!しかし、なぜ一般人に、急に狂神が見えるようになったんだ?
「この、狂神。喋れるのか!いったいどうなっている!?これが、裕也の言っていた研究?・・・そうか、感覚外からの干渉によって、一般人の感覚に割り込んだのか」
感覚外からの干渉。狂神は実際、見えていないわけではなく、人間の脳が無意識的にその存在を抹消、無視している。しかし、そこに言葉という形で人間に干渉したというのか!?これは、想像以上に不味い。人間は臆病だ、初めて見た化け物への恐怖心は計り知れない。・・・暴動がおこるぞ。
俺は、そんなところで気を失った。
ーーーーーー
「まずい。これは」
俺、小暮烈の目の前で、一般客の恐怖が爆発した。あるものは、叫びチラシまたある者は絶望で言葉を失った。
そんな姿を見て不敵に笑うものが一人。そう、あの喋る狂神である。
『ふははは、いいぞ。もっと泣け!喚け!それでこそころし甲斐があるというものだッ!!』
そういうと、狂神は腕を振り上げ、一般客の一人に向かって振り下ろした。一般客はよけようとすらしない。もう絶望しているのだ。そして、その拳は・・・
バキッ
俺の、クロスさせた腕のに当たり止まる。完全に折れた。二本とも逝った。だが!
「これ以上!誰も死なせない!」
「あ、あんた!?」
「何やってんだ!早く立って逃げろ!」
「でも、もう何にもそいつに殺されたんだろ?あんたの友達だって、死にかけてる。俺たちは、もう」
弱音を吐くな、他人の痛みを背負える男が本物のヒーローだ。
「俺を、信じろ・・・」
「へ?」
「俺をッッ!!信じろーーーーーーーッ!!いいか、あんたら!聞け!あきらめんな!あきらめんのは、まだ早いだろ!あきらめるんなら、死ぬほど努力してからにしろ!助かろうとする努力もしないやつにあきらめる資格なんてない!だから、俺を!俺を信じる努力をしろッ!!」
燃えろ
トクン
命を燃やせ
ドクン
俺は、ヒーローだッ!!!!
『烈、ここにいる人間の貴方への思いが伝わりますか?』
俺の頭に、きれいな女性の声が響く。
「ああ、聞こえる。俺に最後の希望を見出すものの声が」
『ええ、これなら。私の力を』
「完全に引き出せる!・・・行くよ、カグツチ」
『ええ、まいりましょう。神へと至りましょう』
カグツチがそう言うと、俺の胸の真ん中に炎がともる。暖かく、力強い炎。その炎は狂神の拳を弾き飛ばし俺の体を包み込む。そして、赤いヒーロースーツを形作っていく。赤いスーツに黄色の胸当てそして白い手袋に青いゴーグルの入ったヘルメット。俺の一番信頼する、熱い戦士。そう、
「安心しろ!今、君たちの命の安全は確約された!俺の名は、太陽戦士!フレイムガイッ!!」
俺は、テレビの特撮、そして、ずっとあの舞台で近くから眺めていた、フレイムガイの決めポーズを決めた。片手を目の高さで耳の横。もう片方を胸の下で拳を握る。
俺の、姿に一瞬ざわついたが、そのざわつきをかき消すかのように一人の笑いが響き渡る。
『ふ、ふははははははは!なんだ、その姿は?ふざけているのか。そんなもので、本当に俺と張り合えるとでも思っているのか?だとしたら傑作だな』
「張り合う?ふざけるな、俺はお前を叩き潰す。いや、フレイムガイはそんなこと言わないな。俺がお前を、太陽の力で土に返すんだ」
『大口をたたくのはいいが、それは実力で示さなきゃなッ!!』
狂神は小主を振り上げ俺に殴りかかってくる。・・・俺は、その拳を片手で止める。少し、床に足が食い込んだが、先ほど折れていたはずの腕はもう治っている。変身するときにカグツチがなおしてくれた。もちろん俺の命で。
『んな!?なぜ!なぜ止められる』
「今の俺は、さっきまでの俺とは別物だぜ。いま、俺の体は神と同化して神そのものみたいなもんだなめんなよッ!!」
俺は、止めた拳にそのまま炎を纏わせた拳を叩き込む。狂神は体ごと後ろに吹っ飛んだが、体勢を立て直し、床に着地する。しかしその体に片腕はない。先ほどの俺の一撃で吹き飛んだようだ。
『な、俺の体がこんなにも簡単に』
「止まってんじゃねぇぞ!いったろ!土に返すって」
俺は、力強く床を蹴り勢いよく前に飛び出る。そして狂神の、腹、足、胸、腕、顔面。すべてを高速で連打する。
『が、がは』
「これで、終わりだ。『太陽の正義』」
俺がそういうと、俺の拳が纏っていた炎がより一層大きくなる。それはまるで小さな太陽のように明るく、そして正義に満ちていた。俺の拳であたりは昼間のように明るく照らされる。
俺が、拳を狂神にたたきつける寸前、狂神がにたぁっと笑う。
次の瞬間、狂神の体が盛り上がり、人間の顔が浮き上がった、意思なく口をパクパクさせる人間の顔。そうか、こいつは。こういうやつか。
「つらかったな。俺が、いま土に返してやるからな。死ね。クソやろう」
『ぐ、ぐボラァ!』
俺は、人間の顔状の盛り上がりごと、狂神の腹を貫いた。俺の炎が狂神の体を燃やし尽くし、最後の最後に人間の骸骨が一つ落ちて砕けた。
終わった。すべてこれで、みんな解放される。・・・はずだった。しかし、一向に結界が解ける気配がない。あの狂神が結界の依り代じゃなかったのか!?
終わってない、何も・・・。終わっちゃいないてことか。
ーーーーーー
「ありゃ、京ちゃん死んじゃった」
「どうする、逃げるか?」
「う~ん、正直。データは取り終わってるし。帰ってもいいとは思うよ。でもあちらさんがさ」
「帰すわけ、ねぇだろ。お前らとっ捕まえて何がしたいのか吐かせてやる」
「帰してくれそうにないか・・・仕方ない。やろうか、フェンリル」
「望むところだぜ、仮面の兄ちゃん」
初めまして、こんにちは。神奈 りんです。この度はこの小説に目を通していただきありがとうございます。今回は少し、歯切れの悪いところで終わってしまいましたね。裕也はどうなってしまうのでしょうか。
さて、今回も。設定の説明を。まず、烈君の能力ですが。これは本編で、たぶん説明が入ると思いますが、ここで説明してしまいますね。彼の能力は、他人からの信頼を自らの生命エネルギー、つまり、命に変換することができる力です。ですから、彼は、一般客に自分を信じるように言ったんですね。
次に、カグツチについて。この神様は。日本神話の神様ですね。この神様はイザナギとイザナミの子供なのですが、生まれるときイザナミさんにやけどを負わせ殺してしまったせいで、イザナギさまに殺されたという逸話が残っている、少し可哀そうな神様です。死んだはずのカグツチがなぜ、烈君の中に宿っているのか、それはまた別の機会にお話しすることとしましょう。
それでは、本題。彼女の言っていた。神に至るとは、一時的に烈君とカグツチが同化し烈君に神の力が宿るといことです。しかし、神というのは無限を生きるもの、一時的とはいえその生命の消費は著しい、つまり、生命を作り出すことのできる烈君にしかできない荒業ということですね。
そして、最後。フェンリルと対峙していた仮面の二人。この二人が今回の事件の現況です。いったい何を考えているのか。次回で分かるのでしょうか。次回の話は時間的には少し戻り、二人がショッピングモールから出たあたりからのお話です。お楽しみいただけると幸いです。
最後に、この度初めてこの小説に目を通していただいた方に、前話が4本ほどあるのでそちらにも目を通してみていただけると幸いです。
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