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フェンリルの息子になりました!


 人間には、生きるということに意味をつける義務がある。

 意味のない命には価値がない。ただ無駄な時間を浪費する行為に他ならない。漫画や小説で「生きる」や「命」に対する考え方を押し付けてくる。だが死にたいと思うことは、決して悪いことではない。そいつはきっと生きる意味を見つけられなかったのだろう。

 かくいう俺も、生きる意味を見つけられないでいる。


 俺 九条裕也くじょうゆうや17歳 には家族がいない。物心つく前に両親が他界し、その後母方の祖母に引き取られた。祖父はもう他界しており、俺は祖母と二人で、喧嘩などもなく幸せに暮らしていた。

 そんな祖母も去年の夏他界し、俺にはついに、保険金と少しの貯金、一人で住むには広すぎる家だけが残った。いつかこの貯金もなくなる、大学には行けないだろうし、高校に通う理由もなくなった。生きるためにこれから働かなくてはいけない。生きる意味がないのに?そんなことを考えながらただ高校に行き、コンビニ飯を食って寝る生活を送っていた。

 

 雨降る帰り道、いつも通りコンビニで弁当を買い家に向かう。

 そんな、俺の目の前に。いかにも異様な風貌をした男の姿が目に入った。雨の中傘もささずに電柱に寄りかかり。黒いローブを羽織った男。そんないかにも触れてはいけなさそうな男が俺の家の前に座り込んでいた。

 決して、かかわりたくはない。が、あんなものが家の前にいられちゃ気分が悪い。どいてもらおう。


「なあ、あんた。ここ俺の家なんだ。どいてくれないか」

   

 俺は男に、極力優しく話しかけた。

 男は、顔を上げ俺を見ると。ふっと、笑いながら口を開いた。


「あ、ああ。悪いな坊主。今どけるよ・・・」


 ふらりと立ち上がった男の下には小さな血だまりができていた。足を震わせて立ち上がる男がガクリとバランスを崩す。俺は、とっさに男をささえた。


「あんた大丈夫か?・・・ケガしてるみたいだし」

「わりぃ、な坊主。仕事にちっと失敗してな。だがすぐ治るっ。がはっ」


 男は血反吐を吐き出し、力なく俯いた。

 おいおい、やめてくれよこんなところで、救急車呼ばなきゃな。とりあえず、救急者が来るまで家に・・・。


 男を、玄関に寝かせ携帯を取り出し、110番に電話を掛けようとした時だった。男が目を覚まし、息を切らしながら口元に人差し指を持っていき、震えた声で言った


「人は、呼ばなくていい。それより、俺のズボンについてる瓶があるだろう。その中の液体を温めてきてくれ。それで十分だ」

「あ?わかった、おとなしくしてろよ」

「クク、動けねーつうの」


 俺は男のズボンについいていた緑色の液体の入った瓶を抜いて、鍋で温めた。マグカップに移し玄関の男のもとにもっていった。


「重ね重ね悪いな、坊主」

  

 男は壁伝いに体を起こすと、カップの中の液体を飲み干した。その瞬間男の体が緑色のあたたかな光に包まれた。


「く~、不味い!!相変わらず、フェニックス産の回復薬はまずいな!」

「ま、まじか!?あんた傷は、どうした?」

「ん?治ったんだよ治った、あの液体は温めると効力を持つマジックアイテムだったのだ~」

「だったのだ~・・・じゃねえよ!そんなの信じられるか!」

「信じられる、られないじゃない。真実なんだよ」


 男はそういうと、ひざをポンとたたき立ち上がった、俺のほうを向き男は俺に質問した


「坊主、親御さんは仕事中か?」

「親ならとっくに死んだよ」

「そうか・・・悪いことを聞いたな」

「物心つく前に死んだ、顔も知らない親なんだ気にしなくていいよ」

「そうか・・・」


 男は、はっと何かを思い出したかのようにポッケトに手を突っ込みゴソゴソと中をあさりだした。何かを見つけたのかポケットから手を出すと小さな紙きれを俺に手渡してきた。


「なんだよ、これ?」

「お礼だ、受け取れ坊主。お前が、ほんっとうに死にたいとき、もしくは死にたくないとき使え。きっと助けてくれると思うぜ」


 死にたいときって、どういう意味だよ。まあ、お守り的なものだろうか、さっきの回復薬を見た後だとうさん臭さも薄れる。


「ありがたくもらっておくよ」

「おお、もとっけ、もとっけ。それじゃ俺はいくよ。少しの時間ではあたったが助かった。ありがとな坊主・・・だが一つ」

 

 男は指を一本立て言った。


「人を助けることには覚悟がいる、覚悟なき人助けは時に自分を滅ぼすぞ」

「なんだよそれ」

「いつか、わかるさ・・・じゃあな坊主」


 そういうと男はローブを羽織りなおして。歩き出した。


「もう、あんなことにはなるなよ。オッサン」

「俺を誰だと思っていやがる、神殺しの刃フェンリル様だぞ」

「ふっ、中二病かよ」


 まばゆい光が雲の隙間から差し込み、俺の目をくらませた。

 雨が止んだか。ふと男のほうを見ようとしたが、そこに男の姿はもうなかった。


 俺は玄関のドアを閉め男の使ったマグカップに少し残った液体を舌に垂らしてみた。ちょっとした興味本位だった。


「まっず・・・」



 それから、一週間がたったくらいの帰り道。線路内での変死体の発見により起こった電車の遅延に巻き込まれた俺はいつもより4時間も遅く帰路についていた。

  

「ったく、歩いたほうが早かったか。結局4時間も待たされちまった」


 日も完全に落ち。街灯の光を頼りに歩いていく。変死体が見つかったのもこの近くらしく、いつもの道が暗さも相まって一層不気味に見えた。

 俺は、ふと聞こえてきた、奇怪な音に足を止めた。聞いたことなどない、ただそれはいい気分のする音ではなかった。ふと足元を見ると。音のするほうから赤い、てらてらした液体が流れてきていた。

 

「うわっ!?」


 俺は思わず声を上げてしまった。不味い、なんだかわからないが、これは不味い。そう思った瞬間、目の前の暗闇に二つの赤い光がゆらりと現れた。その光は少しずつ近づいてくる。街灯の光がその二つの赤光の正体を映し出した。

 黒光りする毛皮を持った犬型の「何か」。背中から犬ではない何かの足が生え口には人間のものであろう腕を銜えていた。その「何か」は俺を視認すると加えていた腕を吐き捨て。襲い掛かってきた。

  

 不味い、不味い不味い!!このままじゃ殺される。とにかくに逃げねえと。俺はただひたすらにその場から逃げ出した。

 俺は、必死に逃げ回っている間に行き止まりにぶち当たっていた。


「なんで、なんで俺なんだよ!なんで俺が死ななくちゃいけないんだ!」


 そんな、悲痛な叫びは犬型の「何か」には届くはずもなく、その「何か」はじりじりと距離を詰めてくる。

 クッソ、あれ・・・なんで、生きたいんだっけ。生きる意味、そんなものあったけ。いや、ないな、そうか俺は今まで何をしたかったわからなかったけど、俺は・・・


「死にたかったんだ」


 刹那 俺のポケットからまぶしい光があふれだした。それは勝手にポケットから飛び出したかと思うと、空中に不思議な幾何学きかがく模様を描き始めた。それは人ひとり通れるくらいの円になると


「こっちだ!!坊主!」


 その、どこかで聞いた声と同時に円に引きずり込まれた。


「お前もだ!」


 まぶしい光に目がくらみ思わず閉じた目を開けるとそこは見たこともない湖の真ん中だった。空を埋め尽くさんばかりの巨大な月の光が湖に映りあたりを照らしていた。

 視線を空から下に向けるとそこには黒いローブを着た男が、あの犬型の「何か」と対峙していた。


「やっと見つけたぜ、クズ野郎」


 グルグルと低い音をのどで鳴らす「何か」は男に襲い掛かった。男は大きく後ろに飛び水面をけって前に飛び出した。ローブの中から小さい刃物を四本取り出し前方に投げる。しかし、そのすべてがよけられてしまった。その瞬間、男が平手を前に突き出し


「『残影シャドウオブスナイプ』!!」


 そう叫んで拳を握りしめた。 瞬間、「何か」の体に傷ができ血しぶきが上がった。

 グガーッ!! 犬型の「何か」は叫びをあげ、より一層眼光を強くした。


「どうしたよ、痛いのか?そうだよな、そんな姿になっちまっても元は生物なんだしな。・・・安心しな今解放してやる。・・・神殺しの刃フェンリルが命じる。眼前の狂いし神を裁くためその鎖を解き放ち我の力を開放せよ。『解鎖アンチェイン』ッ!!」


 男がそういうとローブの中から鎖が落ちてきた。すると今まで短髪の黒髪だった男の髪はみるみる伸びていき腰まで届いたとき月明かりに照らされ白髪へと変わった。

 萎縮いしゅくしていた犬型の「何か」は恐怖を振り切り男にとびかかった。


「『餓狼ウルフズクロック』」


 そう静かに、つぶやいた男は両手を開き、指を組んだ。

刹那 犬型の何かは、前と後ろで真っ二つに切り裂かれた。「何か」は白い光に代わり夜空へと溶けていった。

 す、すごい。その言葉しか出てこなかった。一瞬の出来事であり、決して理解できることではなかった。しかし、その人並外れた動きがその男が人間ではないということはっきりさせた。


「久しぶりだな、坊主」


 振り向き近づいてくる男の髪は、すでに黒の短髪に戻っていた。

 男は、俺の目の前に立ち口を開いた。


「で、どっちで。俺を呼んだんだ?」

「どっちって、」

「だから、死にたくなったのか、生きたくなったのかだよ。まさかこんなに、早くにお前に呼ばれるとは思ってなかったし、あの野郎を連れてるとも思わなかった。・・・正直驚いたぜ。なぜ、お前が襲われたのかは分からねえが、これも何かの縁だろう」


 俺は、死にたいと願ったんだ。


「俺には生きる意味がない、生きている理由がないんだ」

 

 俺は、男に正直な気持ち告げた。それを聞いた男はくすくすと笑いだした。


「生きる意味?生きてる理由?そんなの、死んだときに考えるもんだ。死んだとき、あ~、俺はあれのために、あれがあったから生きていたんだって。振り返った時初めて見つけられるもんだ。無理に探すもんじゃねえ」


 ぽつりと、俺の足元で湖の水が波紋を作っていた。それが流れ出る自分の涙だと気づくのにそう時間はいらなかった。


「初めてだ、人の言葉に涙を流したのは。そうか、俺は生きていていいんだな」

「何言ってやがる、この世に死んでいい人間なんていやしないさ」


 男は、ふっと、息を吐くと俺に再度質問した。


「お前は俺にどうしてほしい?どのみち、あの野郎を見られた以上、あっちの世界には返せねえ。お前が死にてえって言うんなら一思いに殺してやる。だが、もし生きたいって言うんなら、そうだな、俺の養子にしてやらんこともない」


 俺は、涙をぬぐうと男の顔を見つめて言った。


「俺は生きたい!生きる意味を見つけるために」

「そうか、ならお前は今日からフェンリルの息子という肩書を背負うことになるな。重いぞ~この肩書は」

「重たいのは勘弁していただきたいね」

「弱気になるなよ、俺の義息子むすこだろ。自信を持てって!ところでお前名前は?」

「俺は、九条裕也だ」

「そうか、俺は・・・オリガン。オリガン・ホワイトだ。これからよろしくな義息子むすこよ」

「ああ、よろしく頼むよ」


 この夜を境に、俺は血なまぐさい死と隣り合わせの世界に身を置くとはみじんも思っていなかったといえばうそになるかもしれないが。俺はこの時の選択を後悔したことはない。



 


 初めまして、神奈りんと申します。今回はこの作品を読んでいただき誠にありがとおうござい、ます。

 この作品は主人公である九条裕也には特別な力はないんですね。 今後この主人公がどのように強くなっていくのか楽しみにしていただけると幸いです。

 今回の話は、本編への前座ですのでもしつまらなかった。と思ってしまってもぜひ次の話も読んでいただきたいです。そちらではかなり主人公が強くなっている予定です。


 今後とも、神奈りんをよろしくお願いいたします。 

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