7. お前の顔だけは、忘れない
檻の中に入れられてから、長い時間が経った。
どれくらいの時間が経ったのかは分からないし、興味もない。ただ、どこかに運ばれ、またしばらくそこに滞在し、そしてまたどこかに運ばれるという生活が続いた。
ここでの環境は最悪で、檻に入れられている間は、ほとんど動くこともできないし、歩くのもトイレに行くときだけ。奴隷商の魔法なのか、脱走することは、どうしても叶わなかった。建物や車の外に出ようとすると、何か透明の壁のようなものにぶつかるのだ。
それに、ご飯も食べれない。いや、ご飯の様なものはあるんだ。ただそれは液体で、そこら辺の雑草と腐った卵と、あと何かを混ぜたような味がした。それを定期的に、コップに入れた状態で、出される。たぶんこれはプロテインの類いか何かで、ほとんど運動していないのに俺の腹筋はシックスパックになったし、足にはかなり筋肉がついた。
客は性根の腐った奴ばかりだった。俺らを挑発し、まるで物のように扱う。叩いたり殴ったりしている奴もいたし、笑ってくる奴もいた。
特にあいつは忘れない。多数の女を従えてきた、勇者だと名乗る金髪碧眼のあの男は。あいつは俺の檻まで来てひとしきり笑ったあと、こう言ったんだ。
「俺に買って欲しければ、3階回ってワンと言え」
言う気なんてなかった。ただ、自分が売れ残っているのは分かっていたし、それに奴隷商の人間に指図されれば、するしかない。だって俺の命の全ては、あの奴隷商の手の上にある。
だから、そうした。プライドなんてとっくの昔に捨てさせられた。
「いや、まじでするのかよ。買うわけねぇじゃん。可愛くもないのに」
彼はそう、笑って吐き捨てた。
惨めだった。この上なく自分が惨めで仕方なかった。
ただ泣いたら、今までの自分と、そして嘲笑を浮かべる彼らに負ける気がして、それだけはできなかった。
彼は、唇を噛み締めて見上げてくる俺を見て、また笑ったあと、帰っていった。
ーーその日からだっただろうか。俺の表情が消えたのは。