5. 最悪な展開
村の出口である門を潜り抜けてから、あの画面上のマップで山の位置を確認する。どうやら昨日の夜ずっといた森を少し抜けたところにあるらしい。
ギルドのお姉さんが言っていた通り、今は本当に初級モンスターの数が少ないようだ。もう一時間近く森を歩いているのに、モンスターの類には全く出会わなかった。
今まで読んだラノベでは、近くの森に行けば、大抵スライムやその他の雑魚モンスターがいることになっていたが、ここではそういうわけではないらしい。結構面倒臭いところに来てしまったのかもしれないな、とため息をつく。
野を超え草原を抜け、たまにある謎の落とし穴なんかに引っかかりそうになりながらしばらく歩くと、クエストの地であるレイニードロップ山脈についた。……なんかファンシーな名前だな。
俺の今の装備品は短剣だけ。ギルドのお姉さん曰く俺はスキルが高いみたいだから、いけるっちゃいけるんだろうけど、そのスキルの内容だけにすごく不安だ。どうやら共闘する相手がいないと使えないみたいだったし。
というわけで、先程からここらの山の中を散策しまくっているのだが、同じような冒険者に全く会わない。一体みんなどこでクエストやってるんだ。俺が、あのお姉さんに騙されているという可能性もなきにしもあらずだけど、初対面の人に嘘をつくなんて、向こうにはなんの得もないから、それはないだろうな。ということは、みんなもっとレベルが高いのか、はたまたあまり活動していないのか……
「しゃーないな。行くしかないか」
うじうじ考えた挙句、俺は腹を括った。どうにも不安が残るけど、天界から貰ったスキルなわけだし、何かしら役に立つだろう。
覚悟を決めると、クエストの場所である山の奥にある洞窟へと足を進めた。俺は、前世からポジティブシンキングだという点に関しては、ずっと定評のある男だったから、考えるのは諦めることにしたのだ。
足に絡まりそうな蔦に剣を振るいつつ、彼らの巣にゆっくりゆっくり近づいていく。ここで大人数に奇襲なんかかけられたらたまったもんじゃない。一応、クエストの内容が書いてある紙には、捕まえる対象の一団は五人程度って書いてあったんだけど。
近づくにつれて緊張のせいか手が震えだした。何しろこれが初めてのクエストになるんだ。レベルはまだ一。スキルもどれだけ役立つか未知数。ともなれば、そこら辺にいる動物でさえ、中級モンスターくらいに思えてくる。
おそらく奴らのアジトだろうと思われる洞穴の前に立ち、しばらく悩む。やっぱりやめようか。それとも続けようか。五分ほど考えた後、もうクエストを引き受けてしまったから、どうしようもないと判断した。
少年漫画の主人公みたいになんかかっこいいことを叫んで乗り込みたかったが、そんな度胸は俺にはない。普通に怖いし。
中は、真っ暗で、ほとんど灯りは見えなかった。これじゃ俺のスキルも役に立たないし、やっぱり帰ろうと納得して、踵を返す。
そしてそのまま二、三歩歩いた後、背中に強い衝撃を感じた。
「なんだァ。冒険者か。単身で乗り込むとはァ、度胸があるじゃァないか」
「僕達ついに、クエストになったんですね。いやぁ、感慨深い」
「弱っちそうだけどな」
「ここに来るくらいだから、そこそこ強いんじゃない?」
「いや、今のもかわしきれていなかったから、弱いんでしょう」
年齢や喋り方が全然違う五人の声が聞こえてきた。おそらく、今回の捕縛対象である山賊だろう。
俺は深呼吸をすると、とりあえず短剣を振り回した。だって、少しでも当たりさえすれば、どうにかなるかもしれないじゃん?なんか俺、圧倒的に不利そうだけど。命くらいは、助かるかもしれない。
そうこうして剣を振り回していると、しばらく何もしてこなかった彼らのうち一人がとうとう手を出してきた。探検を弾かれ、首に手刀を入れられる。
「これは酷い。もはやここまで弱いとなると、クエストとして貼り出されるのも、少々気分を害しますねぇ」
「どうするこの子? なんだか殺すのも可哀想だわ」
「奴隷として売ったらいいんじゃないかァ。多少の金になるだろ」
「それいいわね」
俺をどうするかという話題で盛り上がる彼らの声と、畜生、という自分の呟きを最後に、俺は気を失った。