20. 事件
翡翠と出会ってから、半年が経った。
俺らは互いに小さなアパートを借り(さすがに年頃の男女二人、恋人でもないのに同じ屋根の下はやばい)、地道にクエストをこなして報酬をもらい、生活していた。
ちなみに俺のスキルは二十増えた。筋トレを頑張って、『跳躍』と『スピード』を手に入れ、あとは、翡翠に手伝ってもらってどうにか増やした。
そうそう、結局あのギルドは追放になって、別の街の、色々な人種が入り組んだ感じの場所で生活している。
俺の部屋の窓からでも、大通りを覗けば獣人にエルフ、ドワーフやその他様々な生物が歩いているのを見ることができる。
「ねぇ、聖。ちょっと話があるんだけど」
今日のクエストの後に、俺の部屋で休んでいた翡翠が、何となく外を眺めていた俺の後ろから、顔を覗き込んできた。
「あ、うん」
翡翠によれば、俺の表情筋は半年でだいぶ柔らかくなったらしく、言われてみれば、俺は今も驚いたような顔をしている。前は、こんな頻繁に表情を変えることなんてなかった。
「今日、熊五郎さんから手紙がきたの」
「熊五郎さん……」
どうやら翡翠はまだ、熊五郎さんとだけ手紙で連絡を取っているらしい。この世界に電話や携帯なんて文明の利器は存在しないから、大変だろう。
「アダチネ様が逃げた」
「逃げた!?」
意外すぎる事実に思わず声が裏返る。
「それで、村では革命が起きかけてる。銀朱の政治が随分横暴だったみたいで」
「銀朱っていうのは?」
「私の弟よ。それで、今の村長」
「弟……」
「まぁこれも分かってたことだったんだけど。さすがにアダチネ様が逃げるなんて思わなかったけどね。だけど、そろそろ戻らなきゃ村が危ない。明日には帰るわよ」
「突然だな〜」
「仕方ないじゃん」
不満そうに口を尖らせる翡翠を後目に、俺は準備をした。なんだかんだ言って持ち物は少ないから、すぐに用意を終えることができるだろう。
「これで大丈夫か」
目の前にはお金やこの世界の保険証のようなものなどが入った大きなリュックサックといくつかの武器。これが俺の、全財産だ。
「あ、うん! ばっちり」
次は、翡翠の家に寄り、荷物を取るらしい。まぁつまりこの部屋にもう用はないわけだ。オーナーに挨拶だけでも、しなきゃならないし……
玄関から出ようとドアに手をその時、何度もノックする音が聞こえた。
「どちら様ですか?」
尋ねると、相手は間髪入れず答えてきた。
「私はオリヴィア・ミラーというものだ。どんな邪悪なモンスターでも倒すことができるという冒険者は、そなたか」
翡翠と顔を見合わせた。




