19. 満月の夜
「私の名前はな、オリヴィアだ。今からゴブリン退治に行くんだけど、いかんせん数が足りなくて……えっと、西にある山の洞窟に行くんだけど」
俺達は結局早めの昼ご飯を食べたあと、そう名乗る赤髪の女達に着いていった。彼女達のパーティは、戦士が二人と神官という組み合わせでバランスが悪いらしく、魔法使いと剣士にあたる俺達に頼んできたのだそうだ。
ゴブリンも雑魚っちゃ雑魚だが、今回の件はとにかく数が多いらしい。
「聖、ハーレム状態だね〜」
つんつんと俺をつつきながら翡翠が言う。まぁな、と答えてそのまま歩くと、軽く頬を膨らませた。翡翠は本当に十六歳なんだろうか。
「あ、着きました!」
神官らしいメガネをかけた女が声を上げた。確かに、目の前には鬱々とした雰囲気の洞窟。
ふと隣でごそごそと動く気配がしたので見てみれば、翡翠がフードロープを着ていた。そっか。暗くなったら翡翠の体は光るんだ。
「あたしが先頭で行く。貴方たちは、最後についてきて」
オリヴィアがそう言い、俺達は頷いた。
洞窟の中は思ったより暗く、松明がなきゃ何も見えないような状況だった。
ただ、俺は後ろを歩く翡翠の灯りで、かなり明るく見えてると思う。
「ねぇ、なんか明るくない?」
「そうですね」
しばらく歩いていると目の前の二人がヒソヒソと話し出した。
それに気づいたのか、オリヴィアが振り返り、そして俺達を見て鬼のような形相をする。
「発光人間!」
オリヴィアが叫ぶと、あとの二人も驚いたようにこちらを見た。
「あんた達、騙していたのね! 発光人間と一緒に歩かせるなんて! とっとと帰って!」
つられるように、もう一人の戦士が、そう言う。
翡翠から、白夜族の人達は迫害されていたと聞いていたけれど、こういう事だったのか。予想以上に、差別されているらしい。
「早く帰れ!」
翡翠は俯いたままだ。
こうなってしまっては、どうしようもない。これは、俺の経験則だ。
「帰るぞ」
翡翠に声をかけ、彼女の手を引っ張って歩く。
「ごめんね」
翡翠がやっと声を発したのは、ゴブリンのいる洞窟のあった山を下りきる頃ーーもう日も落ちた頃だった。
震える声で何度もごめんなさい、と謝り、何度も涙を流す。
「あんなに言われるとは思ってなくて、嫌そうな顔はされても、せめて一緒に行かせてくれると思ってた」
「ごめんなさい。私のせいで、お金もらえなくて」
肩を震わせて泣く翡翠の頭に、そっと手を置くと、彼女は、涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、俺のことを見上げた。
案外身長、低いんだよな。
「大丈夫。俺は何も気にしてない。ーーそれに、俺は何があっても翡翠の味方だ。翡翠は優しくて強いっていうのは、まだ出会って二日しか経ってないけど、それも十分分かったし、あと、翡翠は俺の主人だ」
な? と翡翠の頭を撫でる。翡翠はうん、と頷き、涙を拭った。それから、俺の顔を見てふふっと笑う。
「聖が笑ってるとこ、初めて見た。だってずっと、表情変わらないんだもん」
そう言う翡翠に、自分の顔に少し意識を寄せてみると、確かに普段より口角が上がっている気がする。
「そうかな」
「そうだよ。ずっと無表情のままだったよ」
二人でくすくす笑う。
「なぁ、翡翠。これから二人で冒険しよう」
「そうだね」
星の瞬く夜空には、翡翠と同じくらい輝く、満月が浮かんでいた。




