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1. 枯れ木爺さんと異世界転生

「あの、起きてくれませんかぁ?」


  可愛らしい声とともにツンツンと頬をつつかれ、俺の意識は覚醒した。

 ……あれ? 俺死んだんじゃなかったっけ?


「あの、起きてくれないと困るんですぅ」


  可愛らしい、ちょっと滑舌の悪い萌え声がまた聞こえてきた。

  もし俺が本当に死んだんだとしたら、これは死後の世界ってやつなんだろうか。

  俺は異世界転生もののラノベを読みまくっていたので、この展開には見覚えがあった。

  しかも、この声は絶対可愛いロリっ子の女神だ。絶対そうだ。しかも、ほっぺたつんつんされちゃったし。重度のシスコンを患っている俺には分かる。





  ぐへへ、とにやけながら期待を膨らませ目を開いた俺の目の前にいたのは、ヨボヨボの枯れ木みたいになった爺さんだった。





「あ、起きましたかぁ? あの、色々伝えたいことがあるんで、そこの椅子に座って下さぁい」


  枯れ木爺さんがまた声を発し、事態を理解するのに、数秒の時間を要した。


  なんというミスマッチ! え、こんなことって有り得るのか? あっても良いのか?

  珍種の動物を見るような目でしばらく爺さんを見つめていると、彼はこてん、と可愛らしく首を傾げた。

  一瞬生き生きと輝いた俺の目が、すぐに死んだ魚の目になる。


「あ、分かりました。そこの椅子ですね」


  真顔で傍に置いてあった椅子に座ると、爺さんは嬉しそうににこっと笑った。


「私は、神様なんですぅ」

「なんとなく分かります」


  え、ほんとぉ? と嬉しそうに頬に手を当てた爺さんを、脳内で可愛い女の子に変換する。うん、女の子だったら可愛いな。


「一つ言わなきゃいけない事があって。ショックを受けるかもしれないですけど、あなたはさっき死にましたぁ」

「あ、それは知ってます。ところで、俺が助けようとしてた男の子は?」

  「生きてますよ。あなたが助けなければ、間違いなく死んでいましたね」


 周りから見れば、ロリ声を発する爺さんと若者という謎すぎる取り合わせのまま、俺たちの話は進んだ。

 

  曰く、俺は死ぬ前に善行を詰んだので、自我を保ったまま異世界に転生できるらしい。その際、何か特別なスキルをつけるので、そのスキルを使って異世界ライフを楽しんで欲しいとのことだった。


「それで、そのスキルなんですけど、この中から選んでもらいますぅ」


  目の前に出された画用紙と厚紙でつくられた箱に、俺は仰天した。これは、あれだ。あの、小学生のときよくやったお楽しみ会に出てくる箱によく似ている。なんというか……すごい手作り感。

  お礼を言って、中に手を入れると、吸い付くように一枚の紙が手に当たった。


「それでいいですか?」


  首を傾げる爺さんに、俺は頷いた。この紙には、運命を感じる。


「じゃ、またそこの椅子に座って。今から、転生してもらいますからねぇ。あ、紙に書いてあるのは見ないでねぇ」


  ウインクした爺さんに従い、椅子に座ると、眩い光に包まれる。


「グッドラック!」


  なんだかんだで親切だった爺さんに、手を振り、俺は目を瞑った。




 *

  目を開けると、そこは森の中だった。しかも今は夜らしく、結構怖い。爺さんには、もうちょっと場所と時間を考えてほしかったな。


  「はてさて? 一体俺が引き当てたのはどんなスキルなんだ?」


  呟くと、目の前に画面が表示された。異世界転生系のアニメとかマンガでよく見るやつだ。


「ダークホース、かぁ。けど特に何も書いてないなぁ。どれどれ、へぇ、影の魔法が使えるんだ。いや、使えない? よく分からないな。……それ以上は何も書いてないか」


  俺は画面を閉じると、煌々と輝く満月を見つめた。


  「今日から、楽しい異世界生活の始まりかぁ」


  俺は、にっこりと笑った。


 ーーこれが、地獄の入り口になるとも知らずに。

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