12. 俺はもうわんちゃんじゃない
瞼の裏のオレンジ色に、うっすらと目を開く。ぼやけた景色の中に、大きな夕日と、アップで写る翡翠の顔が見えた。
「えっと、大丈夫!?」
翡翠がそう呼びかける。ゆっくりと頷くと、安堵したような表情を見せた。どうやら、無事この世界に戻ってこれたらしい。
先程天国で見せられた映像を思い出す。
そういえば、あの男は……?
彼女の腕の中でゆっくりと体を起こすと、その男は夕日を背にたっていた。何しろ顔が良い。それだけで様になっている。腹の立つやつだ。
「お、起きたか。わんちゃん。ごめんな、練習で使ってた弓の矢が当たっちゃったんだ」
金髪碧眼がニヤリと口角を上げて言った。
「発光人間と一緒にいるなんて……お前も堕ちたなぁ。いや、奴隷だったもんな。元からそうか!」
彼が何か喋る度に周りの女達は笑ったり、彼の腕に縋りついたりする。爆ぜろ、リア充どもめ。
それよりも、気になるワードが彼の口から出てきた。"発光人間"だ。そういえば、翡翠と奴隷商の会話の中でもこの言葉は出てきていたなぁ、などと思い出す。どうやら翡翠はその"発光人間"にあたる種族らしく、翡翠を見ると、彼女は目を背けていた。
「すまないが、俺はもうわんちゃんじゃないんだよ」
どちらにしろ俺と翡翠を馬鹿にしているのに違いはない。俺は翡翠の腕からそっと出ると、彼の向かいに立った。
「今はもう狼ってところかな」
「へぇ、それは面白いな」
「信じられないなら今から戦う? 決闘でもいいよ」
「お前みたいな初心者と、決闘なんてできないな。せめて……喧嘩くらいか?」
「何でもいいよ。試したいことがあるんだ。……そうだな。どちらかが軽傷とは言えない傷を負うまで。互いのことは殺さない。そうしよう」
「分かった」
金髪が剣を抜いた。
「いいぞ。どこからでもかかってこい。受け止める」
「偉そうなな口聞きやがって」
金髪が走り出した。どうやら剣で切りつけるつもりのようだ。
俺はすっと息を吸うと、あの神様の言葉を思い出した。今、近くには翡翠がいる。となれば、ダークホースは使えるはず。
金髪が笑う声が聞こえた。きっと、俺が少しも動かないから、馬鹿にしてるんだろう。
つくづく腹の立つ奴だ。
ゆっくりと目を瞑る。
想像しろ。できるだけ正確に。
まず、俺は金髪のいる場所が分かるんだ。それで、あいつが切りつけようとしたところには壁が現れて、剣から身を守ってくれる。
「ダークホース!」
カッと目を見開いた。




