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盗癖

インスピレーション、オマージュ、リスペクト

などとこの世は便利な言葉に溢れている。

あと引用も正しい意味でなく使われる場合が多い気がする。

何が書きたいかって言うと、要すると

盗みについての話なわけです。

パクるとも言う。


中本という盗癖のある女子が居た。

自分や、自分の同級生ではないし、田中さん(仮名)の関係者でもないが

とにかく居た。ということにして話を進める。

この中本という子はとてもずる賢くて

小学校の頃に、色んなものを盗んだのだが

分からないようにやる。

給食費なんてのは、話が大きくなるから当然盗まない。

鉛筆とか半分くらいになった消しゴムをそれとなく盗む。

ランドセルに幾つもキーホルダーをつけてきた子の

ものを分からないように一つだけ拝借する。

友達の家に行ったときに、さりげなく小物を持って帰る。

何て感じで、目立たずに盗んで自分の盗癖を満たしていた。

持って帰ったものは、自分で使ったり

押入れの奥の段ボールにまとめてコレクションにしたりして

時折出して、「戦利品」として眺めて楽しんでいた。


そんなある日、中本の眉毛が両方とも禿げた。

母親に泣きついて、とにかく病院で診てもらったら原因不明という。

精神科にも行ったが、原因が分からない。

中本はその日から眉毛を書いて学校に通うようになった。

表向きは善人で通っている彼女なので

病気だという一応の理由を悪いように言うクラスメイトも居なかった。

眉毛のことで自分が微妙に目立っていることを自覚した

中本は盗むのをやめた。


それから時は過ぎ

中学のころ。

原因不明の眉毛脱毛もすっかり治り、一時期は潜んでいた

中本の盗癖がまた、中二のころに激しくなった。

彼女は、ばれないように様々なものを盗み続けた。

鉛筆や消しゴムは当たり前で

眼鏡の背後に回して体育の時に落下しないようにするストッパー

男子がカバンに隠していたエロ雑誌やエロ漫画

トイレに設置してある備品のトイレットペーパー

生理用ナプキンなんてものまで盗んだ。

ばれないもの、盗まれても言い出せないようなものを

中本は選んで、絶妙なタイミングで盗んだので

彼女の押し入れのコレクションは日に日に溜まっていった。


そんなある日、彼女が朝起きると

右足首に痣ができてた。気にせずに学校に行って

部活などしていると、その痣は少しずつ膨らんでこぶし大の瘤になり

とうとう彼女は、救急車で病院に搬送されることになった。

痣は原因不明だった。何日か入院しても、その痣は治らなかったが

それ以上膨れることもなく、彼女はそれから杖を突いて

日常生活を送ることになった。

小学校の時と同じく、目立ってさらに身軽に動けなくなった彼女の

盗癖は鳴りを潜めた。


高校に合格したころには、痣は無くなっており

中本は前と同じように歩けるようになっていた。

高一の夏の、ある時、彼女は、ふと隣のどんくさい男子のクラスメートの

席に放り出されたままになっている消しゴムを

盗める絶好のタイミングが訪れたことを悟った。

しかし、なぜか、手を出す気にはなれなかった。

さすがにその頃には、彼女も盗癖と奇病が何らかの関係があると気づいていた。

中本は平然とした顔で、その日を過ごして

自分の盗み好きという趣向を心の奥底に封印することにした。


そのまま無事に大学も出て、社会人となり

ある時、時間を持て余した中本は、ネットで何か遊んでみようと思い立った。

彼女は盗むのが好きだったことをふと思い出して

何かをそっくりそのまま、真似てみようと思った。

絵や音楽は得意ではない。ならば字だ。

小説などどうだろうか。自分の好きな作家の文体をまねて

彼女は数時間で、勢いよく一万時ほどの短編をかき上げ、読んでみて消した。

つまらない。とてもじゃないが読ませるレベルにない。

何かないだろうかと思いながら、素人小説サイトを検索して漁ると

つまらなくはないが、受けていない小説が山とある。

彼女はそれらの気に入った断片を拾い集めて

組み立ててみることにした。


結果を言うと悪くないものができた。

さっそくサイトに投稿してみると、多少の評価も付いた。

彼女は何となくつまらないなと思った。

スリルが無い。最近、別れた彼氏もつまらないやつだった。

誰かの真似しかできない軽薄なやつだった。

中本は、子供の頃の、自分の完璧な盗癖をふと思い出した。

そして、代償らしきことがあったことはすっかり忘れていた。


彼女はそれから他人の作品を盗み続けることを始めた。

分からないように少しずつ、自分のもののような顔をして

出していく。人気のあるものもないものも

自分の気に入った作品やシーンは全てまるっきり盗んで

登場人物の名前や、微細な設定を変えて自分のものとした。

仕事から帰って、その作業をするときだけが

彼女の至福の時だった。

そして、それらはそれなりに受け入れられて

サイトのシステム次第では、多少の金にすらなった。


その後

それほどかからずに、中本は死にかけた。

夜道で襲われて、ナイフでわき腹を刺された。

逃げた男は未だに見つからない。

そして、入院した病院ではさらに癌であると宣告されて、肝を冷やしたが

良性のもので手術で治った。

さらに、退院後には精神障害を発症して

時折、会話がおかしくなりだして、休職した。


「それらが盗作の代償なのか分からない。

 けれど確かに創作から離れてから、私は確かに正気に戻ってきていると思う」

というようなことを

彼女はデイケアで出来た友達に語ったそうだ。



という創作でした。

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