木
アマチュアの物書きをしていて申し訳ないのだが
草木の名前にはトンと無頓着である。
子供のころ、もっと、自然に興味を持って調べたりしていれば
花言葉などを利用したりした、良い文章も書けたかと思うのだが
まあ、今更、無いものねだりである。
そんな自分が、家族と共に弟の友達の葬式に出た時の話だ。
まだ彼は若かった、二十歳で、前途洋々だったが
電車に轢かれて死んだ。
友人代表の弔辞は弟が読んだ。
葬式は日が暮れる前に厳かに執り行われた。
その葬式場は近くに、大きなグラウンドを二つ持っているのだが
その北の方に、運転する自分が
家族を待つ時間つぶしか何かでブラブラと行って待っていた時だ。
その片隅に、不気味な"木"が一本立っていた。
季節がいつだったか分からないが、それほど寒くは無かった時期だったと思う。
その"木"は薄汚れた紫とくたびれた緑という
何とも言えない色合いの葉っぱを大量に茂らせていて
まるで、存在すること自体を嫌悪するかのような
異様な雰囲気だったのを覚えている。
自分は、特に何も考えずに
チラッとその"木"を見上げた。
その瞬間、確かに見たのだ。
大量に茂った葉っぱの中からこちらを見下ろす。
真っ白な呆けたような人の顔、顔、顔。
一瞬唖然としたが、次の瞬間には元の葉っぱだけに戻っていて
何事もなかったかのように
また存在していた。
気味が悪いので、二度とそのグラウンドに近寄ることは無かったが
未だにその"木"については覚えている。
あれを何という木というのかは、不勉強な自分には一生分からないだろうが
その不気味な存在だけは頭の中にずっと残り続けるだろう。
という、創作怪談でした。