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FanTaSy  作者: 冬雅
第1章
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2

下校時間を知らせるチャイムが校内に響き渡ったと同時に、ガタガタと椅子を引く音や荷物を纏め始める音が色んなところから聞こえてきた。

かく言う私たちも、荷物をまとめ早々に帰り支度を始める。

帰り支度と言っても、ユウメは帰宅部だが、ヨウは女子バスケ部の部員であるため、放課後は部活動がある。

いつものように先に帰ってるね、と振り向きながらヨウに言いかけた言葉を咄嗟に飲み込んだ。

「ん?何?」

何も言わず振り向いたまま固まるユウメの目線を追うと、ヨウの後ろにはダイチが立っていた。

「やぁ、ユウメちゃん。今日僕と一緒に帰らない?」

音もなく……もしくは周りのガタガタ音に掻き消され、音もなく現れたように見えたのかは分からないが、突然現れたダイチに大して驚きもせず、ヨウはダイチとユウメの顔を交互に見た。

「ユウメ、知り合い?」

「うん、今日知り合ったの。隣のクラスなんだって」

「ダイチっていうんだぁ。よろしくねぇ」

相変わらずのマイペースな声に、笑顔で自己紹介をする。それに対して「ヨウよ」と少し素っ気なく返事を返し、

「それじゃあ私、部活行くから!」

と足早に教室を出ていった。どうやら急いでいたらしい。

そんな彼女の対応に表情ひとつ変えず、背中を見送ったダイチはさて、とユウメをもう一度みやる。

「これからユウの部活見に行かない?」

「陸上部?」

そぉ☆とダイチは声を弾ませて言う。

「お昼休みのこと、もう少し説明しなきゃかなあと思って」

成程。確かに知りたい。

あの時は急展開過ぎて、浮かんだ疑問が声に出るまでに時間がかかったが、ある程度時間のたった今なら少し冷静になって聞けることもあるだろう。

「うん、いいよ」

ユウメが頷くと、「んじゃあ行こっかぁ」と2人で教室をあとにした。



✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩



この学校の校舎は、左側に高等部、右側に大学部があり、2つの学部をガラス張りの渡り廊下が繋いでいる。

その高等部の建物の横にある高等部専用の大きなグラウンドの真ん中では野球部、サッカー部が練習を始めていた。そのグラウンドを横目に、校舎裏へ繋がる道を奥へと進んでいくと、学年の入り交じった見慣れた女子生徒の壁が見えてきた。

「わあ、今日も大人気だねぇ」

相変わらずのマイペースな声にユウメは「あはは」と苦笑した。

その先には、フェンスに囲まれた陸上部が練習する陸上トラックがある。勿論、この生徒の壁は陸上部を見に来た訳では無いということは、初めて部活の練習風景を見に来たユウメでも容易にわかる。

「知ってる?このフェンス、ユウを見に来る女の子たちが陸上トラックまで入ってきちゃうことが毎日のようにあったから、学校側が設置してくれたんだってぇ」

そりゃ、学校期待のエースですからね。そんな事で練習潰されるなんてたまったもんじゃない。

生徒の壁がある方へ行こうとするユウメの手を、ダイチは掴んで制止する。

「あれ?見に行かないの?」

「僕達はこっち。あの壁じゃユウメちゃん見えないでしょ?」

……確かに。160cmくらいの自分の身長では背伸びしてもかろうじて見えるかなくらいの高さの壁である。

自分より10cm以上は大きいであろうダイチであれば普通に見えるかもしれないけど……。

そんなユウメの手を引き、ダイチはフェンスの周りをぐるりとまわり、反対側にある少し高い丘の上に止まる。

「ここ、部員の休憩スポットだから女の子たちは立ち入り禁止になってるんだぁ」

ニコニコ笑顔のまま言う。あの、私も女の子なんですけど。

「部員の休憩スポットに、私達が入っていいの?」

「僕は特別。それから、僕と一緒に来たからユウメちゃんも特別」

どうやらダイチは、ここに入る許可を得ているようだ。その許可を得た人と一緒に来た自分も、おそらく許可を得たことになるらしい。

フェンスの向かい側にいる生徒の壁から一斉に視線が向けられていることに気づかないふりをして、練習している風景を改めて見る。

自分が部活動に入ってなかったから中々練習風景を見に来ることは無かった。ただ一度だけ、10歳離れた兄がこの学校の陸上部で、ユウのように期待のエースとされていた当時、親に連れられて練習風景を見に来たことがあった。

(そんなお兄ちゃんも、もう死んじゃったけど……)

不慮の事故。

卒業式を終え、教室で友人と別れ、当時付き合っていた彼女と帰る途中、校舎内で階段から突き落とされたそうだ。

2人とも打ちどころが悪く、即死だったそうだ。

「……ウメちゃん……ユウメちゃん?」

ハッとなって隣を見ると、ダイチが心配そうにユウメの顔を覗いていた。

「大丈夫?」

「ご、ごめん。なんでもないよ」

ユウメはにっこり笑い返すと、改めてまた練習風景を見る。

たしかに当時はこんなフェンスはなかったように思う。

そしてその奥では、見慣れた幼馴染がこちらに気付きもせず練習に打ち込んでいた。

「さっきの話だけど」

唐突にダイチが話を切り出す。

おそらくさっきの話とは、昼休みの件の事だろう。

「人間界がどうこうって話?」

「そう。この学校に魔物が来てとか、真核が云々とか、その事を知るのは【剣士】って呼ばれる人達だけであって、他の生徒や職員は知らないんだぁ」

ダイチは続けて、

「ユウメちゃんは剣士の力を持ってるって言うの知ってたから、ああやって僕が目の前で切ったけど、もしお友達もいたら僕たち魔物にやられてたねぇ」

緊張感の欠片も感じない声音で言う。

あの場にヨウちゃんが居なくてよかった……と心の底で安堵する。

「その【剣士】っていうのはどんな人の事なの?」

ユウメの問いかけにダイチが「うーん」と顎に手を当てて考える素振りを見せる。

「凄〜く難しい話をすると、人間には血の他にもう1つ別の力が身体に流れているの」

ダイチの説明だと、人間には血の他にもうひとつ【宝石の力】と呼ばれるモノが流れているのだと言う。

普通の人間が血と宝石の力の割合が同じなのに対して、剣士は血は普通の人間と同じ量なのに対し、宝石の力はその何十倍も多く持っているのだそうだ。

生まれながらにその力を持つ者もいれば、後天性的に力に目覚める者もいる。

「ユウメちゃんは後者のパターンだねぇ」

「え、私にも力があるの?」

「うん」

ダイチは頷くと、自身の鞄を指でトントンと優しく叩いた。

「出ておいで、ウルフ」

ダイチの声に反応するように鞄の中で何かがモゾモゾと動きだし、ゆっくりと鞄の隙間から頭を出した。

「あ、ダイチの肩にいた……」

「そう。この子はウルフ、僕の妖精なの」

出ておいで、と手のひらを出すと、小さな妖精が鞄からゆっくり出てきた。

ふわふわと浮いてダイチの手のひらに座ると、その可愛らしい顔にかけられた眼鏡をくいっと直し、

「初めまして、僕はウルフ。よろしくお願いします」と丁寧に一礼した。

慌てて「こちらこそ!」と軽くお辞儀をすると、

「ウルフったらそんなに堅苦しくしたらユウメちゃんがびっくりしちゃうでしょぉ?」

「ダイチはマイペースすぎるんだよ」

「そう?」

「そうだよ」

ウルフと言い合いを始めた。どうやら負けたのはダイチの方らしい。

「僕たち妖精が見える人は、剣士になる権利を持つものとしてその役目を全うしなければならない。そう世界はできているんです」

ダイチの代わりにウルフが説明を始めた。

「ダイチにはルビーの力、ユウにはエメラルドの力。他にもサファイア、パール、アメジストもありますが、ユウメさんにはダイヤモンドの力が流れているのです」

「他に持ってことは、その力を持つ剣士も居るってこと?」

「居るよぉ、この学校に」

ダイチが頷く。

「他の剣士はまた今度紹介するねぇ」と話を区切り、丘の下を見やる。つられて視線を向けると、話に夢中で気付かなかったが、どうやら休憩時間になったらしい。ユウが1人歩いてくるのが見えた。

「お疲れ様、ユウ〜」

「ん」

短く返事をしてダイチの横に座ると、持っていたタオルで汗を拭き、500ミリの半分くらい入っていたペットボトルの中身を飲み干した。

「なんでお前も来てるんだ?」

「俺が呼んだの。昼休みの件、もう少し話そうかなあと思って」

あぁ、とユウは納得し、どこまで話したかをウルフから聞くと「ちなみに俺達も後天性。俺は小5の時から、ダイチは中学生の時から剣士をしている」という補足情報をくれた。

そんな小さい時から、そんな難しいこと考え、理解し、剣士をしてきたのか。

頭の良いユウならば何となく理解できた。

「因みにユウのお姫様って言うのは、宝石の力の関係性からダイチが勝手にそう呼んでるんだ」

ウルフはちらっとユウを見ると、わかりやすくため息をついて

「剣士の中で1番力の強いダイヤモンドを守るのが他の宝石の力を持つ剣士の役目だが、その中でエメラルドは特別ダイヤモンドと相性がいい。同じように、ルビーはパールと、サファイアはアメジストと相性がいいんだ」

「相性っていうのは、力の波長が同じもののことを言うんだ。剣士は体内にある宝石の力がある一定基準を下回ると生死に関わる。普段は体内で作られ続けて一定の基準を保つけど、剣士としてその力を使えば勿論身体からは無くなっていく」

力を生成できる量は限られている。消費量が多ければ勿論体内で生成されているとはいえ追いつけはしない。

そんな有事の際、力を分け与えることが出来るのがその相性のいい力同士の関係性なのだという。

「関係性の生物学的なことをいえば、輸血と血液型の関係みたいな感じかなぁ?」

ダイチの締めくくりに、誰も頷きも否定もしない。

何となくそんな感じ、ということだろう。

「エメラルドの剣士は一番強いダイヤモンドと相性がいいから、エメラルドを騎士、ダイヤモンドを主と見立てて【エメラルドのお姫様】って呼ばれるんだよ」

「なるほど……」

ウルフの締めくくりで言うエメラルドのお姫様。つまりはユウのお姫様と自分が呼ばれるのはそういう事だったのか。

「ちなみにユウメちゃんが剣士の力を持っているって言うのも、ダイヤモンドだから他の剣士もみんな分かるんだけど、他の剣士なら相性がいいもの同士でしかわかんないんだよぉ」

「じゃあユウは、私が目覚めてない時に剣士に目覚めたってことは……」

「俺は妖精が見えたからそう認識した、って事だな」

「じゃあユウにも妖精がいるの?」

「ああ。今はどこにいるか知らないけど」

ユウの言葉に首をかしげながらダイチを見ると、肩をくすめて

「ユウの妖精、マルクは授業の時はウルフみたいに鞄の中に居るんだけど、部活になるとちょうちょと遊ぶんだ!とか言ってどこかに行っちゃうんだぁ」

「……それで何度迷子になったことか」

再び大きなため息をつくと、何かを思い出したかのようにユウは「そういえば」とユウメを見た。

「お前の妖精は何処にいる?」

「私の妖精?」

「お前、ウルフが見えるんだろ?力に目覚めたってことなら、どこかにお前の妖精が居るはずだ」

ユウの言葉に「あ」と小さく声を上げる。

確かにそういうことになるが、今のところウルフ以外の妖精が見えていない。

「ユウメが力に目覚めたのは高1の二学期からだが、俺やダイチ、他の剣士もお前の妖精をまだ見ていない」

「そんな前から私剣士だったの!?」

「うん、そうだよぉ。でもおかしいねぇ、普通なら剣士の力に目覚めたら妖精が近くにいるはずなんだけど……」

あれれぇとダイチは首を傾げた。

ユウもつられたように首を傾げる。



そんな中でウルフがぽつり、

「もしかしたら、恥ずかしがり屋さんだから、夢の中で見つけて欲しいのかもね」

そう呟いたのは恐らく誰の耳にも届いていないだろう。

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