入試試験②
「よし! お前らの実力は大体分かった! 今年は思っていたより質がいい! さっきのは命中精度を確かめたが、次は威力だ!」
全ての受験生が撃ち終えたあと、先生が大きな声で指示を出す。威力かー、だったらさっきよりもいい点数が出せそうだなぁ。
「試験方法は簡単だ、俺に撃ってこい」
ザワッ
と、周りが騒ぐ。今、あの先生は魔法を受けると言ったのだ。当たり前だが、人間は丈夫ではない。魔法が発達しているからと言って、それは変わらないはずだ。
燃えれば死ぬし、溺れれば死ぬし、血を吐き続ければ死ぬ。だが、先生はまるで気にも止めないようだった。
「ん? ほら、早く来い。誰からでもいいぞ」
「先生! いくらなんでもそれは危険すぎるんじゃありませんか!?」
眼鏡をかけた優等生みたいな男子が声をかける。
「心配するな」
「しかし!」
「二度言わせるな」
「……はい」
先生のオーラが変わる。誰も寄せ付けないような、近付くのも恐ろしいほどのオーラだ。
「言っておくが、この場にいるお前ら全員が束になって掛かってきたところで、俺は3分掛からず処理できる」
緊張感が走る。誰一人、反論しようとはしない。それもそのはずだ、その立ち振舞いに一分の隙もなく、納得せざるを得ない程の説得力がある。誰も言い返すことなんて────
「私は、そうは思いません」
「ん? 君は、先程のアリサ=フィールズ=リーデフェルト君か」
「あなたがどれ程強くとも、私は負けません。他の雑魚どもはその通りかもしれませんが」
「だったら、撃ち込んでこい。すべて受け止めてやる」
アリサが手を上げ、前に出る。凄いな、誰一人動くことすら出来なかったあの瞬間に。
「我が家名はリーデフェルト。吾に流れる血は王の血筋。放たれるは王が威厳、総てをもろともに燃やし尽くせ。炎の聖霊よ、我に流れる血を捧げよう。『煉獄』」
長い詠唱が唱えられた。それは魔法の術式を並べていく。幾重にも重ねられたその術式はいつしか一つの巨大な竜のように成っていた。
「ほぉ…リーデフェルト家の特異魔法か」
「避けないと、死にますよ」
「求むは鉄壁、防ぐは彼方の怒り。我が魔力に従いて顕現せよ『土竜壁』」
ドォォォォォォォォォオッッッッ!!
耳を塞ぐような音が響き渡る。それはまるで巨大な怪物の鳴き声のようだった。例えるならそう、竜の轟。あまりの威力に砂が舞い上がり二人の姿が見えなくなっていく。
「嘘……なんて威力……」
隣のユリスが声を漏らす。凄いな、あれをなんの媒体もなしに使うなんて、俺には無理だ。
しばらくして、砂ぼこりが静まっていく。先にアリサの方の姿が見えてきた。膝に手をついて息を整えている
「はぁっ……はぁっ…………これなら…っ!?」
「ふぅー、危ない危ない、もう少しで貫通するところだった!」
先生は手で額を拭いながら、砂煙から出てくる。どこにも傷などは見えず、多少服が汚れてるくらいだった。
「嘘だろ……? 今のを守りきったのか?」
「これが…第一魔法学園の教師の実力なの……?」
「とんでもねぇ!」
周りがザワつく。流石都会だ、俺も今のは受け止められるか分からない。
「うん! 君、良いよ! 伸び代がある!」
「……ありがとう…ございます」
「よし! 次!」
アリサはここからでも分かるくらいに悔しそうだった。全力の一撃だったのだろう、口元に力が入っている。
「おい、お前行けよ」
「嫌だよ、さっきの見たあとに行くなんて……」
「あれを止められるとか、どうすればいいんだよ……」
「僕、もう諦めようかな」
みんなに若干の戸惑いが見えるようになってきた。うん、確かにさっきのは驚いた。けど、俺も負けてられない!
「先生! つぎ、いいですか!?」
「おっ! いいぞ! かかってこい!」
「はい!」
先生は笑顔で対応してくれる。隣のユリスから頑張って!と声が聞こえた。うん、頑張るよ!
立ち上がって先生の前まで移動し、ポケットから石ころを取り出す。
「君はさっき的を壊した子だね?」
「はい! あ、弁償とかあります……?」
「いいや! むしろ楽しみだ! さっきのリーデフェルト君みたいに楽しませてくれ!」
「出来るといいですけど……やってみます!」
うーん……どうしようかなぁ。ちょっとさっきの煉獄?に比べたら小さいし、迫力もないけど……
俺はポケットからまち針を取り出す。そして、それを指に軽く刺す。
「お? ティオ君、君は何をしようとしてるんだ?」
「今から撃つんで用意しておいてください」
「一体何を───」
指から血が滴る。それを石ころに塗り、決まり文句を口に出す。
「『錬成』」
ボォッと手が燃え上がる。
「お、おい……さっきの的を壊したやつが、また変なことしてるぞ?」
「どうせ無理だよ、さっきより凄い魔法が使えるヤツがこんなところにいるわけがない」
「アイツ、手燃えてないか?」
石ころが耐えてくれると良いんだけど……
「『四重走火』」
「っ!?」
石ころを投げつけると、石ころが炎の塊に変わる。そして四つに分裂すると、四方向から先生を襲う。
「これは……っ!我を守り勝利へ導け!『鉄壁解放』!」
ドンッドンッドンッッッ!!
鈍い爆発音が響く。しかし、先生はギリギリで耐えきったようだ。
「ふぅ、これまた良い威力じゃないか…よし! つぎ───」
ドンッ!
先生の背後に現れた火の玉が炎の柱を立てる。
そう、四重走火は4つの火の玉を飛ばす、さっき考えた技なのだが…最後の火の玉だけ、さっき付着させた血で風を起こしベクトル変化を誘発させたのだ。
「あの、先生? 大丈夫ですか?」
炎の柱が徐々に小さくなっていき、先生の姿が見えた。あっ、黒くなってる……
「ギリギリ魔法で防壁を張ったが…ゴホッ! いつの間に後方に魔法を撃っていたんだ?」
「いや、撃ったのはさっきの魔法だけですよ」
「そんなことはあり得ない! 一度に複数火の玉を飛ばして、一つだけ方向を変えるなんて、宮廷魔法師ですら出来るかどうかだ!」
へぇ、そうなのか。まぁ、実際魔法じゃないからね。錬金術だから。
「あれだけ高密度の魔法を連射出来るとは…よし! お前も合格ラインだ! つぎ!」
先生はすぐに切り替え、笑顔になる。
その後、少しずつ他の受験生たちも先生に魔法を撃ち込んでいく。残念ながら、アリサより強い魔法は見なかったけど、どれも凄い魔法でビックリだった。やっぱり魔法って便利だなぁ。
「いよぉし! お前らの実力は分かった! 最後は実際に君たちで模擬戦を行ってもらう!」
「「「「はぁ……はぁ……はぁ…」」」」
さっき全力で魔法撃ったため、ほとんどの人は魔力切れを起こしているのか、息が荒い。魔法はスタミナを使うんだね。
逆に先生は息を一つも切らしていない。殆どの魔法を魔力で作った防壁で受け止めていたのに、疲労が全く見えない。凄い。
「君たちが好きなように戦ってくれ! ただし全員俺の目の前で戦うように。危険と思ったら即座に止めに入るからな。ルールは相手に降参と言わせるか、続行不可能だと俺に思わせるまでだ。始め!」
先生が早口に説明を終わる。なるほど、とりあえず一人誰かと戦えば良いんだよな?
「さて、じゃあ誰と戦おうか───」
「ねぇ」
と、立ち上がろうとした瞬間、後ろから刺すような鋭い声が聞こえてきた。
「私と、戦いましょう」
「アリサ=フィールズ=リーデフェルト……さん」
紅色の髪を揺らして、仁王立ちで俺を睨むアリサ=フィールズ=リーデフェルトが、そこに立っていた。