入試試験
とても広い部屋に連れてこられた。壁や床は木製で、かなり質の良い材木が使われてるようだ。どこを触っても湿気を良いぐらいに帯びていて、耐久性も抜群だろう。
「ここはこの学園の体育館だ! 君たちの選ばれた者たちだけがこの空間を自由に扱えるようになる! 今日は君たちの実力を図るため、あそこにある的に魔法を打ち込んでもらう!」
「せんせーい、あそこってどこですかー?」
「まぁ待て、このボタンを押すことで───」
男子の一人が先生に疑問を投げ掛ける。その質問はもっともだ。見えるところに的なんてない。あるのはただの壁だ。
先生はおもむろにポケットからスイッチのような物を取り出してボタンを押す。
すると、ゴゴゴと地鳴りがして木の壁が横に開いていく。
「嘘だろっ!?」
「これが第一魔法学園の体育館か…」
「どうなってるんだ……?」
ざわざわと周りが騒がしくなる。壁が完全に退けると、遠くに的のような物が見える。
が、遠すぎる。何メートルあるんだ?50メートル以上の距離だ。それとは正反対に的は1mもないだろう。
「この学園に入るにはこれくらいの的は百発百中になってもらわなければならない! しかし新入生になるかもしれない君たちに最初からここまで求めることはない! 3回チャンスをやる、そのうち1回でも当ててみろ」
先生が力強く説明していく。この学園にどういう風潮があるのかは知らないけど、本気を出すことに代わりはないよね!
「命中精度、威力、詠唱時間の三つの観点を見せてもらう。方法は問わないぞ、どんな魔法でも良い。まずはそうだな……さっき遅刻してきた君だ、名前は何という?」
「はい、『アリサ=フィールズ=リーデフェルト』と言います」
「あのリーデフェルト家のご令嬢ね、こりゃ将来有望なもんだ」
「はぁ、そういうのいいんで」
「あぁ悪い、じゃ君の番号は何番だ?」
「いただいた紙の数字は301番です」
「じゃー300番台のやつから打っていけ! そこにある線を越えなければならどこら打ってもいいぞ!」
300番台、俺のは511番。まだまだ出番はないようだ。
数十人の受験生たちが一斉に横にならび、魔法を打ち込んでいく。だが、ほとんどの人たちは当たるどころか届いてすらいない。
「こんなの無理に決まってるだろ!」
「難しすぎる……」
「くそ! こんな試験聞いてねえよ!」
殆どの受験生は口々に怨嗟の声を浮かばせる。まあ、俺も急でびっくりはしたよね。
というか、先生は仁王立ちで見てるだけだけど、どの生徒が当ててどの生徒が外してるのかちゃんと分かってるんだろうか?
「よし! 当たった!」
「ふぅ、こんなのは当然の結果だ」
的に当てた少数の受験生たちは余裕そうだ。が、そこでも別格の子が居た。
「ねね、ティオくん、あの子見てみて」
「あ、ユリス。あの子っていうと……さっきのリーデフェルト家の人だよね」
「そうそう! 上流階級の貴族にはミドルネームを名乗れるっていうけど、本物は始めてみたよ」
「アリサだっけ」
「それはファーストネーム。ミドルネームはフィールズだったね。それより、来るよ」
「おぉ」
アリサは紅色の髪を一つかき撫でると、呪文を詠唱し出す。三言聞き取れるか聞き取れないくらいの声で呟くと、アリサの目の前に魔法式が現れる。
他の人たちは全員、魔法を唱えるだけで魔法式を浮かべた人は居なかった。あれはどうやるんだろう?
「ほぉ、もうすでに魔法式を操るか」
さっきまで黙っていた先生が呟く。アリサの前には細かい数字や文字が羅列した円形の術式が浮かんでいる。
「『走火』」
今度はしっかり聞き取れた。ファイアワークスとアリサが唱えると、魔法式から三つの火の玉が飛び出す。
それは最初は不規則に動いていたが、段々と一つに収縮していく。三つが二つに、二つが一つに重なるようにして合体すると、大きく安定した火の玉になる。
ボンッ!
遠くの的のど真ん中に火の玉が着弾する。アリサは既に自分の場所にもどって座っていた。結果は分かりきっていたのだろう。ものすごい自信だ。
「おいおい…あれがリーデフェルト家かよ」
「流石の貴族様だよな。俺たちだって負けてられねぇよ!」
「あぁ!」
それを見た受験生たちは臆することもなく、むしろやる気に溢れだした。
「うん、今年はやる気にある生徒が多くて嬉しいぞ!」
先生もこれには笑顔を浮かべる。
「凄いね、リーデフェルトさん」
「うん、魔法って凄いな」
「他人事みたいに言うね、ボクたちももうすぐだよ?」
「あ、もう400番台が始まった」
その後も受験生たちは悪戦苦闘しながらも、なんとか当てていく人が段々と増えていった。
「よし! 500番台、行け!」
先生の声が掛かり、俺たちが動き出す。
「よし、ボクらも行こう」
「おう、ユリスは水魔法か」
「うん、見てて、絶対当てるから!」
舌でペロリと唇をなめると、ユリスは詠唱を開始する。
「水を操りし精霊よ、我が魔力に応え、その力を現界せよ『水波動』!
」
「おぉ!水の刃が飛んでいった!」
ユリスの手からいくつもの水刃が放たれる。それは方向としてはでたらめだが、的に何発か的中している。なるほど、数打ちゃ当たる戦法か。
「君の番だよ、ティオくん」
「いよし! やっとか!」
待ちくたびれたよ! みんながあんな風に魔法を使うから俺も良いところ見せようと思っちゃうじゃんか!
「まずは……『母材』となるものを。この際石ころでいいか。『付加材料』としては…火でいいよね」
髪を一本抜いて、錬金術を行う。等価交換だ。髪の毛を手に持って母材の石ころを握り締める。
「あの、ティオくん? 何してるの?」
「待って、今魔法を作ってるから」
「はい?」
「あそこの受験生、なにしてんだ? 石を持ってるぞ?」
「まさか石ころを投げるとか言うんじゃないだろうな?」
「まさか、50メートル先に石ころを投げるとか、そんな筋力あるわけないだろ」
「『錬成』」
握りしめた髪の毛が燃えだし、手を包む。
「ちょっ! ティオくん!? 手! 燃えてるよ!?」
「良いから見てろって」
錬成終了。出来た出来た。
「よっし! 行け! 『走火』!」
右手に持った石ころを投げると、手から離れた瞬間に炎に変わって三つに分裂する。
さっき見た光景だ。的に向かう途中で合体していき、収束していく。ボォォンッ!!と爆音が鳴る。的の真ん中に当たったけど……的に穴が空いちゃった。
「やった! 上手くいった! けど、これで良いのかな?」
「────はっ! てぃ、ティオくん!? 今のなに!?」
「ま、魔法?」
「なんで疑問系なの!? 絶対おかしいよね!? 詠唱した!? リーデフェルトさんよりも威力凄いよ!? …………あ」
ユリスが後ろを機械みたいに振り替える。ギギギって音が聞こえてきそうだ。
「…………なに?」
明らかに期限を悪そうにしている。ユリスにつれられて殆どの受験生がアリサの方を見ると、アリサは俺のことを睨み付ける。えぇ、俺なにかした?
「あ、あはは、ごめん。座ろっか?」
「うん」
ユリスが無理に作り笑いを浮かべて戻っていく。後ろから着いていくけど、周りからの視線がいたい。なんでこんなに注目されてるの?