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史上最強の錬金術師の弟子  作者: クラゲん
1/3

錬金術師の弟子、山を降りる。

────錬金術。


 誰しもその言葉は聞いたことがあるだろう。


 昔々のその昔、今は亡き歴史に埋もれた技術だ。


 『火』『気』『土』『水』を四大元素と呼び、それらを用いて卑金属から貴金属、果ては生き物や空気までをも錬成しようというモノ。


 そんな、忘れられた過去の遺産を扱い操った伝説の男が居た。


 その名を『デーフィー=ティオ』と言う。彼はその技術をある者に託し、生涯を閉じた。その者もまた『ティオ』の名を継いで、この世界に生きているという───




「はー、こんな風に改変されてるのか」


 俺は手に持っている本を閉じて感慨深くため息を吐く。


 本の表紙には『空想伝記』と書かれている。この本にはあることないことが詰め込まれているのだが……


「父さん、死んだことになってるよ」

「ふむ、まあ、肉体なんて関係あるまい。外面なぞ所詮は視覚的情報に過ぎぬ。大切なのは精神、つまりは心じゃ」

「そうだね、その姿だと説得力凄い」


 お父さんである『デーフィー=ティオ』はモフモフの毛玉の姿でそう言う。


「肉体的な寿命が来たから『ケサランパサラン』にまでなる必要あったの?もっと便利な肉体(からだ)があったんじゃ?」

「あのときは急を用しとったからの。それにこの肉体は軽い上に食事も必要とせん。便利なもんじゃ」


 ふわふわと上下するお父さん。まあ、当人が良いなら良いんだろう。俺はやるなら人型がいいなぁ。美味しいもの食べるの大好き。


「人間とケサランパサランの錬金なんて、お父さん以外やったことないだろうね」

「ううむ、もう現代に残っとる錬金術師もおるまい。そうじゃろうなぁ」

「俺まだお父さん以外に会ったことないけど、本当にみんな錬金術を知らないの?」

「うむ。その代わり『魔法』というものを扱うようじゃ。残念ながら、ワシらにその気はないがのう」


 魔法。本で読んだことがある。この世界の事象に介入し、現実をねじ曲げる理らしい。俺にはよくわからない。


「まっ、そのために今日からお(ぼう)を学校に通わせようってことじゃ」

「うん。良いのかなぁ?魔法使えないのに、第一魔法学園だっけ?そんな学校に行かなきゃならないんだよね」

「なんとかなるじゃろ。実力至上主義らしいし、お坊が頑張りゃ大丈夫じゃ」

「うん、分かった」


 俺は背中に用意したリュックを背負って立ち上がる。ふと考える。このボロボロな小屋を見るのも今日で最後。帰ってくるのは卒業した3年後。

 生まれた頃からお父さんしか居なかったし、出生についても詳しく教えてくれなかったけれど、お父さんには感謝してる。山の下に降りてみたいってのも思ってたしね。


「ありがとう、お父さん」

「なんじゃ、急に 」

「この15年間、ずっとお世話になったよ」

「……子供の世話をするのは親として当然の義務じゃ。お坊、こっちに来い」


 疑問に思いながらお父さんに近付くと、ふわふわの頭を俺の頭に擦り付けてくる。


「お父さんはずっとお坊の味方じゃ。何かあったら思い出せ。錬金術師は理を覆す。どんな時も諦めず、どんな状況でも覆せるくらい強くなれ」

「───うん!」


 涙腺が刺激されている。もう少しで涙が出てきそうだ。ちょっと気恥ずかしいな。


「行ってくる!」

「気を付けるんじゃぞ」

「お父さんも!」

「うむ。元気での」


 ぴょんぴょんと跳ねるお父さんに手を振り、家を飛び出る。もう振り返らない。これから俺の新しい人生が始まるんだ。第一魔法学園、どんなところなんだろう!楽しみだ!!


 俺は寂しさを誤魔化すように走って山を降りる。道中の薬草などはしっかりと拾っておく。この山は凄い、植物の成長がとても早い。数日でもう薬草が生え変わってしまう。

 山を降りきる頃にはポケットに一杯の薬草だ、ふふ、これで怪我しても大丈夫だね!



ーーーーーーーーーー


 山を降り、野山を走ると時期に巨大な町が見えてくる。


「あれが『王都』か、デカいな……」


 遠目からでも外壁と城の大きさが分かる。何十メートルだろうか?

 これは急いで行くしかない!


 もちろん道中で何か錬金術の素材になりそうな物は拾いつつ、王都へと走っていく。





 しばらく走り、やっと着いた。錬金術師とかいう、もうインドア感ある名前からして分かるように俺には体力がない。もう息も絶え絶えだ。


「はぁ……はぁ……すげぇ…」

 

 息を整えながらも目の前の門を見上げる。外壁とならんで建てられた門は最早視界に入りきらない。


「はいはい、次の方は…む、少年か」

「は、はい! 始めまして!」

「うん、元気でよろしい。始めまして、どこから来たんだい?

親は?」

「どこから? えっと、あの……見えるかな? ギリギリ見えるくらいだと思うんだけど。ほら、あの山から来たんだ。お父さんそこに」


 ここからでもなんとか見える俺の居た山を指差すと、衛兵さんは一瞬目を丸くし、そのあと笑いだした。


「ははは、冗談が好きなのかい? まぁ、無理に詮索するようなことはしないけど、一応必要なことだからね。はい、この魔力水晶に魔力を込めてごらん」

「まりょく、すいしょう?」

「まさか知らないのか?」

「うん」


 二回目の驚いたような、呆れたような顔をする衛兵さん。この『まりょくすいしょう』とやらは話から察するに身分を証明するための物のようだけれど……


「えっと、すいません、俺魔力ないんですよ」

「は?……あまりそういう冗談は止めたほうがいい。亜人に間違われるかもしれないぞ?」

「えっと……」

「君は亜人じゃないだろう?」

「はい。正真正銘人間です」

「本当に極稀に人間でも魔力のない子が生まれると聞いたことはあるが……難儀なものだな」

「はぁ。すいません」


 何が悪いわけでもないけれど、なぜか無意識に謝る俺。ううん、こうも同情の視線を送られるとなんか歯痒いというか……


「まあ、よし! 通って良いよ。ほんとは確認しないといけないけれど、君は悪そうな子には見えないし、魔力がなければ暴れることも無いだろうしな。特に、この『魔力要塞』と呼ばれる王都ではね」

「通って良いの? ありがとう! 衛兵さん!」


 なんかよく分からないけど通してくれるらしい。よし!優しい衛兵さんにはプレゼントを送ろう!


「衛兵さんこれ、良かったら使って」

「む?これは?」

「回復薬。病気とかもこれで一瞬にして治すことが出来るよ!」

「ははは、良いのかい? じゃあ、貰っておこうかな」


 衛兵さんはどうやら信じてないみたいだ。でも良いんだ。一方的な俺の好意だからね。


「あ、最後に聞きたいんだけど衛兵さん。第一魔法学園ってどっちにいけば良いの?」

「もしかして、入学生かい?」

「うん。正確には今日が試験日らしいんだけど」

「あの有名な学園に入るなんて凄いじゃないか!? やっぱり魔法が使えないなんて嘘だったんだな? 全く! 大人をからかっちゃダメだぞ?」

「えっ。いや、入ると決まったわけじゃ」

「第一魔法学園ならこの大通りをずっと真っ直ぐ行ったら見えてくるよ! あれほどでかい学園もそうないからね」

「あ、ありがとう衛兵さん」

「ははは、こちらこそ」


 衛兵さんに手を振り別れると、王都へと足を踏み入れる。

入ってからわかる、なんて活気に溢れてるんだろうか。右をみても左をみても人、人、人、初めて山から降りたけど、本当に人間は一杯いるんだ。


「邪魔よ」

「おっと……ごめんなさい」

「……」

「えぇ……無視?」


 見たこともない景色に唖然としていると後ろから鋭い声が飛んできた。道を開けると、紅に輝く髪の少女が堂々と道の真ん中を歩いていった。途中にいる他の人たちもその少女の顔を見た瞬間横に逸れていく。


 と、隣に男の二人組がヒソヒソと話をしているのが耳に入った。


「なんだありゃ?」

「おいおい、知らないのか? あれはリーデフェルト家のご令嬢だ。血の気が多いって有名だぞ」

「リーデフェルト家ねぇ、お高く止まりやがって」

「バカ! 聞こえるぞ!」


 どうやら有名な子らしい。あの感じはもしかしてお父さんが言っていた貴族?っぽい。勘だけど、多分そう。錬金術師の勘は鋭い。


「って俺も行かなきゃ!」


 急いで衛兵さんに教わった道を走る。真っ直ぐいけば見えてくるらしい。学園というのはそんなに大きいものなのか。


ーーーーーーーーーー



 た、確かに大きい。なんて大きさだろう。

多分、俺の家の何百倍の面積あるんじゃないか?


 目の前に広がる景色はやはり想像を絶する物だった。往々として立つ校門は横幅20メートル近くあるんじゃないだろうか。豪華でずっしりとしたその建ち構えは巨人でも入るのかってくらいの威圧感がある。


「試験受注者はこちらへどうぞ~」

「あ、あっちか!」


 王都に入ったときと同様に見とれていると、遠くから声が掛かった。危ない危ない、またさっきみたいに後ろから声が掛けられるかもしれない。


「すいません、これ受験票です」

「はい確かに」


 眼鏡を掛けた女の人は机に置かれた紙に何かを記入し、手を動かしながら聞いてくる。


「どちらのランクを受けますか?」

「えっ、そんなのあるんですか」

「…………えぇ、当然です」

「で、ですよねぇ」


 驚愕の表情を浮かべ、数秒間時間が止まった。しばらくすると返答が帰ってきたが、女の人の表情は訝しげである。


「まぁ、大概の人はSランクです。最悪Sランクに入れなくても、AやBに入れられたりするので」

「すいません、じゃあそれで」

「はい」


 気を使ってくれたみたいだ。ありがたい。女の人は紙を書き終えると、数字の書かれた紙を渡される。


「はい、受験票と一緒にこれを持っていてください。試験で必要となります。待合室はあちらの棟の一階、Sクラスルームでお待ち下さい」

「ありがとうございます」


 なにもわからない俺だけど、こんな風に優しく教えてくれたら分かりやすい。ありがたいことだ、これから先も同じような人ばかりなら良いのに。





 案内された部屋につき、ドアを開けると中にはたくさんの人が入っていた。若干ムワッとしている。


「えぇと…座っとけば良いのかな?」


 ある人はただ座り、またある人は友達と騒いでいたり、またまたある人は眠っていたりしている。先ほど渡された紙の数字通りの席があったのでそこに座る。


「ふぅ、ここまで来るのにも一苦労だ」

「ねぇねぇ君も試験を受けに来たんだよね? ボクはユリス! よろしくね!」

「あっ。えっと……」

「あっはは、ごめんごめん! 急すぎてビックリしちゃったよね。脅かすつもりはなかったんだ。一人で寂しかったからさ、隣の席の人が来たら話しかけようと思ってたんだ」

「あはは、そうなんだね」


 突然話しかけられたと思い、横を見るとかなりの美少年がそこに居た。気さくに話しかけられ、一瞬呆気にとられたけれど、すぐに持ち直す。


 まつげ長いし、鼻筋もキレイに整っている。ぱっちり二重に艶やかなショートの青髪!爽やか系のイケメンってやつかな?


「君の名前は?」

「俺はデーフェク=ティオ、よろしく」

「よろしくね! ボクの得意魔法は水魔法なんだ! 君は?」

「水魔法使えるんだ! 凄いね、俺は魔法なんて使えないから」

「冗談やめなよ! 魔法を使えない人なんて見たことないよ? 手の内は見せないってことなのかなっ?」

「同じ反応だ」


 衛兵さんと同じように笑うユリス。そんなに魔法が使えないのがおかしいんだろうか?別に魔法が使えなくたって、錬金術もそれなりに便利だ。むすっ。


「あ、そろそろ時間だよ」

「うん」


 ガラガラッとドアが開き、外からムキムキのお兄さんが現れる。


「いよぉし! みんな集まってるな!? 遅刻者は不合格と見なすぞ!」


 どうやらあれが先生というモノらしい。俺たちにこの世界の常識、知識、基礎的な能力をつけてくれる云わば師匠のような存在だとお父さんが言っていた。


「すいません、遅れました」

「なにっ!? まあいい! ギリギリセーフということにしてやる! 早く座れ!」

「はい」


 と、ギリギリになってドアが開き、また別の人が入ってくる。あれは……さっきの赤髪の少女だ!相変わらず堂々とした歩き方をしている。


「もう良いか!? もういいな! よし、じゃあお前らついてこい! 早速試験開始だ!」

「「「「はい!」」」」


 先生を先頭に教室から出ていく。やっと受験が始まるぞ!いったい何をするのか、楽しみだ!






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