3話 チュートリアルでお金もらえるなんて思ってた?
皆が忘れたころに突然やってくる~
俺とアリスは無事にテミスの地に降り立った。まわりを見渡しても全く人の気配がなく、見晴らしのいい草原がずっと続いているだけだった。で、俺たちは今どんな状態かというと……そう一文無しである。
「行き当たりばったりでいったいどうするんだよ?俺たち金もなにも持ってないんだぜ!?」
「まあまあ、一応僕はこの世界の神様なんだから。どうにかなるって!」
人を転生させるときに空中に放り出すような神様にどうにかなるって言われても説得力がないんだが……。取りあえずラノベとかでは近くの街に行って街とかに入って冒険者ギルドみたいなところに行くのが王道だよな。
「まずは近くの街でも行くべきだよな」
「あっ、ここの近くに街はなかったはずだよ。転生させるときに誰かに見られたら困るかなって思って降りる場所をずっと向こうに小さな村がポツンと、ぐらいだったような?」
このバカ神様……
「ごめんごめん、今の嘘だから。確かここから一番近い街はクルニアだったかな?それでも歩いて2時間ぐらいはかかるよ」
「それくらいなら全然歩けるな。で、あらためてこれからどうするんだ?」
「とりあえず街に行ってみようよ。あっそうだ、先にあれ渡しちゃうね」
「あれ?」
すると、アリスは腰に下げていたナイフを2本取り出し、その一方を俺に差し出した。渡されたナイフはいたってシンプルなつくりで日本で売っていても何も違和感のないぐらい普通のナイフだった。
「流石に丸腰で異世界生活を始めろっていうのは酷だと思うから、転生する際にはナイフを1本渡そうっていうのを先輩の神様が始めたんだ」
「せめてお金を少しとかそういうのにしてくれよ・・・」
お金とかだったらとても役立つんだけどなぁ。仕方ない、貰えなかったもんはしょうがないか。さて、せっかく異世界に来たんだからそれっぽいことをしたいな、まあ時間はたっぷりあるわけだしこれからどうしようかな~。
「ショウ君、せっかく異世界に来たんだし魔物とでも戦ってみる?」
「お、俺が戦い!?そんなの出来るわけないだろ。しかも、俺ナイフなんて使ったことないし」
「え、でもショウ君って確か古武術の使い手じゃなかった?」
「そんなもん魔物に通じるわけないだろ?」
実は俺の家系は例えば俺の爺さんが俺の家に伝わる古武術の現師範代だったり、まあ他の人よりちょっと特殊な家なのは間違いない。知り合いにおじいちゃんが古武術やってまーすなんて人見たことないだろ?
まあ、俺にとっちゃどうでもいいことだから説明しなかったんだけどな。こんど俺のことについてゆっくり話す機会があれば全部話すけど……
「まあ、もし魔物が出ても僕が倒すから大丈夫だよ!なんだって僕は神様なんだし」
「はあ、女の子に守られるなんて俺も落ちたな~」
「そんなこと言ってないでさ、せっかくだし歩きながらこの世界のシステムについて話すね」
俺とアリスはクルニアに行くことに決めた。それしか選択肢がなかったというのもあるが、大きな街に行けば情報を得ることもできるし、まあ下手なことをしない限りは死なないしな。
「じゃ、さっそくっこの世界のことについて説明するね」
「そういうのは転生させる前にやってくれよ」
「あはは・・・ごめんごめん、次からは気を付けるよ(説明するの忘れてた~なんて口が裂けても言えないよ・・・)」
「どうせ説明するの忘れてたんだろ、全く。それでこの世界のことについてって例えばどんなことだ?」
「ギクッ!ま、まあ例えばだけどど魔王とか魔物とか魔術とか」
「今更この世界の物理法則とか一般常識のことを話されても困るでしょ?」
いや、それって意外と重要な話じゃね?でも時間はまだまだあるっぽいしその時にでも聞くとするか。
「まあいいや、とっとと話進めていくぞ」
「はーい、それでまず何のことから聞きたい?」
「やっぱ、魔術のことだな。オタクとして魔術のことを聞かないなんて万死に値すると思う」
高校生男子のオタクでライトノベル好きで魔法や魔術のことに興味が無いっていうやつなんてまあいないだろ……多分……
「そ、そうなの?じゃあ、魔術のことについて解説していくね。じゃあまずショウ君に質問その1、魔術を使うためには何が必要でしょう?」
これは普通俺たち(オタク)の常識と合わせて考えていいんだよな?
「えっと、ラノベ通りだったら魔力だろ?」
「せいか~い!それじゃ質問その2、魔力とは何でしょう?」
「魔力とは何でしょうって聞かれてもな・・・無理だ、俺にはわからん。」
「答えはマナ、マナっていうのは生き物なら誰でも持ってる血みたいなものだよ」
血か・・・そんな考え方したことなかったな。魔術といえば選ばれたものしか使えない秘技、とか太古より受け継がれてきた奥義、とかって想像してたから魔力も限られた人しか持ってないもんだと思ってた。
「そのマナってもちろん俺にもあるんだよな?」
「もちろん」
「でも俺は日本で魔術なんて使えなかったぞ」
「でも、地球にも魔術をつかえる人はいるよ。例えばチャクラを開くのも魔術の一つだよ。あれは体の中のマナを整えてるんだ」
「へぇ、なんか意外だな。こんな身近に魔術があっただなんて」
「確かに地球では魔術師なんて必要ないからねー。でもその代わりに科学があるじゃん。れいぞーこはほんとにすごいよ!魔術で氷をつくるってすっごく面倒だから」
俺らの世界では科学に囲まれて生活しているようなものだったからあんまり恩恵とか感じなかったけどな。今思えば科学ってすごいんだな。
「一長一短って感じだな。あ、質問いいか?」
「うん、いいよ」
「魔物っていったい何なんだ?俺が知ってるのはゴブリンとかスライムとかそんなんだけど、この認識であってるか?」
「うん、それであってるよ。もちろんテミスにも地球みたいな動物もいるけど。ちょっと詳しく教えるね」
そうアリスが言うと突然俺の頭の中に情報が流れ込んできた。
魔物 マナ(魔力のもと)によって生み出された、人間にとって害となる場合がある存在のことを指す。
魔獣 マナにより動物が突然変異を起こし凶暴になった存在。本来の体の2〜10倍まで大きさが増し、強 固体は街を1つ破壊することができる。
魔族 太古から存在していた種族。人族と同じかそれ以上の知能も持っており、膨大な魔力を保持してい る。それにより人間から迫害された歴史を持つ。
「これでショウ君の疑問はバッチリ?」
「ああ。じゃあ次の質問。俺をこっちに送る前にチートの話になっただろ。こっちについたらわかるってお前は言ってたけど、どうやって確認するんだ?」
「あー、それに関してはちょっと待ってもらってもいいかな?実は確認するのを忘れちゃって、あはは……ごめんなさい!」
「わかった。待っててていうことは何処かでわかるタイミングがあるってことだよな?」
「うん、だから楽しみにしてて」
そうこうしている間に気付いたら俺たちは街の近くまで来ていた。歩いてる途中ではラノベやゲームでよくある中世っぽさは思っていたよりもないな~なんて考えてたけど、街の城壁を見た瞬間にあ、やっぱり異世界に来たんだなと思い直した。
街は城壁で囲まれていて、一か所だけ解放された大きな門がある。城壁は石が積み上げられてできていて強固なつくりになっている。門の付近には2つの列ができているが、片方はスムーズに受付が済んでいく。
ショウとアリスは兵士の指示に従いもう一方の混雑している列に並んだ。
こ~れは入るまでに時間がかかりそうだな。ディ〇ニーランドにしてもそうだけど、俺待つの苦手なんだよな。今のうちにさっき聞けなかった世界の常識についてでも聞こうか。
「なあアリス、この街はなんていう名前なんだ?」
「クルニアだよ。ちなみに国の名前はクロム、どこかの英雄の名前からつけたらしいよ」
「へー、クルニアか。ここは首都だったりするのか?」
「ううん、首都はメニフィス。クロムは王制だから王都メニフィスって呼ばれてるよ」
他にもテミスの大きさは地球5個分だったり、種族も人族以外にも5つあり、それぞれの大陸ごとでわかれている。つまりこの世界に大陸は6つあるということだ。
「あ、もうそろそろ僕たちの番だよ」
「見たらわかるっつーの。もしかして中に入るにはパスポートみたいなのっているのか?」
「うん、確か自分の身分が証明書証明できるものがいるよ」
「じゃあ俺たち並ぶ意味なかったじゃん!ま~た振り出しじゃんか」
「ふふ~ん、まあ見ててよ」
受付に立っている兵士はのはまだ若く、人あたりのよさそうな顔をしている青年だった。この仕事についてまだ浅いが3年もしていたら流石に慣れてくる。この日はいつもよりも人が多く、1人ひとりに時間を割いている暇はなかった。
次は男の子と女の子と2人組か。ここら辺では見たことないな、もしかしたら……
「君たち、この街に来るのははじめてかい?」
「はい」
「だったら何か身分を証明できるものは持ってないかな?」
(おい、いったいどうするんだよアリス!このままだったら街に入れないだろ!)
「実は僕たち、遠くの村から冒険者になるためにここまで来たんです。でも僕たちの故郷はとっても田舎で、身分を証明できるものは持ってないんです」
やっぱりそうか、最近の氾濫期の影響がこんな子供たちまで及んでるのか。全く、お偉いさんたちは一体何をやってるんだ?
「君たちもそうか、今は魔物も活発化してきて君たちのような子も多いからね。わかった、ここに名前を書いてくれ。それと、1か月以内に1000ディナか身分を証明できるものををもってきてね」
「わかりました」
「はい、これが仮身分証だよ。もし1か月以内に持ってこれなかったらそれを没収して街から出さないといけなくなるからね」
この子たちぐらいの年なら冒険者になって成功する可能性があるから、まあ何っとかやっていけるだろ。あとは君たち次第だね。
「「わかりました!」」
「君たちは冒険者になりたいんだろ?ギルドカードは身分証明書になるからね、申請した後の空き時間に持ってくればいいよ。冒険者ギルドはこの道をまーっすぐ行けばいいよ。大きな盾と剣の看板が目印だからね」
「ありがとうございます。ねえねえ、ショウ君早く行こっ!」
「お、おう」
「いってらっしゃい」
こうして兵士に見送られながら、俺たちは無事にクルニアに入ることができたのであった。めでたしめでたし?