2話 神様から勧誘されたら一度は断るタイプです
俺の思考は途絶え、死んでしまった……と思っていった。まわりは真っ暗で何も見えないが、確かに俺の意識はある。ここは一体どこなんだ?確か俺は死んだはずじゃ?すると、突然誰かが俺に話しかけてた。
「確かに君は死んだよ。とても痛々しい死に方だったね。」
「っ!?俺に話しかけている奴は誰だ!?姿を現せ!」
「やあ、僕の名前はアリス。君のすぐ後ろでずっと立ってるよ」
その声が聞こえた途端、まわりが明るくなった。改めて冷静に見回してみると何もない、本当に何もない白い空間だった。それにしても、俺の後ろに人がいたなんて気づかなかったな。声からすると女性、いや女の子だよな。つまり……僕っ子だ!本当に僕っ子なんて存在したんだ!?
「君は一体何者なんだ?どうしてここに?」
「僕はテミスという世界で神様をやっているんだ。ここにいるのは君に会うためだよ」
神様!どうりで死んでても話せる訳だ。にしても、ずいぶん子供っぽい神様だなぁ。でも、あれ?どこかで見たことのある顔のようなあれ?……気のせいか。
「なあ、神様。ここって天国なのか?」
「アリスでいいよ。ここは天国じゃなくて、なんていうか彷徨う魂が行き着く場所、みたいな?」
「魂?でも俺の体はちゃんとあるぞ?」
「だって、死んだ人と話すんだったらお化け屋敷にある人魂なんかよりも体があるほうがいいでしょ?まあ、このセリフ実はとある人の受け売りなんだけどね」
俺お化け屋敷に入ったことないからなぁ、ひとだま?って言われてもよくわかんないんだよな……まあいいか。でも確かに幽霊と話すよりかは死んでても人の体があったほうが話しやすいと思う。
「ところでアリス、君はなんで俺に会いに来たんだ?」
「君と話がしたかったからなんだ」
「まあ普通そうだろうな。で、また何で俺となんか?」
「実は君にお願いがあって。ねえ、君は異世界に行ってみたいと思う?」
本当に異世界なんて存在したんだ!まあ、俺の目の前に神様がいるんだから異世界があってもおかしくないよな。最近読んでたライトノベルもそういう異世界転生ものだから自分もこういう似たような体験ができるって嬉しいな。でもな~。
「そりゃオタクとしてはこういうシチュエーションあこがれてるっていうか、まぁ、やっぱりそういう思いは多少はあるけど」
「だったら異世界に行ってみない?きっと楽しいよ!」
「でもな~。んー、その誘いは有難いけど断っとく」
「えっ!?なんで?異世界に行ってみたいんじゃないの?」
「別に転生したところでやりたいことないんだよな。なんかある程度今回の人生で満足してるし」
まあ他にもやりたいことはたくさんあったけどそれは異世界に行ってまでしたいことじゃないしな。あ、でも異世界に俺が今読んでるライトノベルがあるんだったら是が非でも転生するけどな!
「で、でもこのことを聞いたら君も絶対行く!ってなるよ。君の友達にエルネスって子がいるでしょ?彼女はこの世界でいわゆる勇者を務めてたんだ」
……はっ!?あのエルが勇者!?いやいや、あいつは俺の幼馴染で小学生の頃から一緒なんだし、一体いつエルが勇者になってたていうんだ?
「正確にはあの子の前世がって言ったほうが正しかったね。彼女の前世はさっきも言った通りこの世界で勇者を務めていたんだ。勇者っていうのは特別な力をもった人のことを指してその役目は魔王の討伐なんだ。でも、彼女は魔王に負けちゃって殺されたんだ。そして来世でその能力の一部を引き継いだエルネアが生まれたんだ」
「つまりエルの予知能力は前世から引き継いだものなのか?」
「そういうことになるね」
「でも、なんでそれが俺の異世界に行く理由とつながるんだ?」
「今から僕の言うことをよーく聞いてね。いくよ……」
するとアリスは今から祈りを捧げるように手を組み合わせ胸の前に置いた。そして彼女の口から詩のような美しい調べが流れでてきた。
『彼女の魂は未だにこの捕らわれの身になっている。汝、彼女を助けたいのならばこの地に身をゆだねよ。そして為すべきことを為せ。道はおのずと見えてくる』
「え?どういう意味だ?」
「これ以上は教えられないんだ・・・ごめん」
ん~、アリスにもなんか事情があるようだからこれ以上は無理には聞けねえな。まあ、折角2回目の人生を手に入れられるチャンスがあるっていうんだし、これを棒に振るのも違うな。あと前世のエルっていうのも気になるしな。
「そのテミスってところにいったら全部わかるんだな?」
「うん、それは保証するよ」
「どうせ俺は死んだ身だし、お前がそこまで推すんだったら、俺も挑戦してみるわ」
「それじゃあ早速転生を・・・と言いたいところなんだけど、いきなり何もなしに行ってらっしゃいっていうのは流石にかわいそうだからね。簡単にいったらチート能力を渡すことになってるんだ」
「ち、チート!?」
本当にチートなんて存在したんだ!・・・さっきも俺、同じ反応してたよな?
「お、いい反応だね。そうだよ、って言ってもそんなにいいものじゃないんだけど」
「そうなのか?チートっていや、最強の魔法とか不死身とか普通そんなのじゃね?」
「実際そんなに使い勝手のいいものじゃないんだよ。そんなのがいっぱいあったらパワーバランスが崩れちゃうよ。まあ、例外もごく一部あるけどね」
「例外?それはどんなやつなんだ?」
「昔、次元魔法を操れる人がいたんだ。しかもその人は武術の達人で、とんでもないくらい強かったんだ。あの時は確か・・・500年くらい前に先輩が担当したんだっけ?」
「ふと思ったんだが、お前って・・・いったい何歳なんだ?」
「ショウ君!知り合ったばかりの人に年齢を聞くなんて失礼にも程があるよ!……まあ、僕はそういのあんまり気にしてないから別に答えてもいいんだけどね」
なんだ結局聞いてもいいのかよ。まあ神様に年齢という概念があるかどうか微妙っぽいと思うけどな。あっ、俺が転生したらやっぱり生まれた時からやり直しになるのか、それとも16歳なのかどっちなんだろうな?着いてからのお楽しみにするか。
「悪かった、今のことは忘れてくれ。ところでチートはいつもらえるんだ?」
「そう焦らないで。君がテミスにつく頃には確認できるようにしておくから。」
そして、アリスは何かを呟いた。するとショウの足元にあった魔法陣が起動し、突然強い光を放ち始めた。そしてその光は徐々にショウを覆い隠していく。
「そろそろ時間だ。じゃあ、お別れの言葉を言わせて」
「うん?」
『君はこれから様々な人と出会い、様々な苦労を強いられるだろう。だが、君なら必ず乗り越えられる。光を信じて進み、呪われた連鎖を断ち切るがよい。君に幸あれ!』
「最後に神様っぽいことを言ってみたかったんだ。はい、堅苦しい言葉はこれで終わり!せっかくの異世界なんだから楽しんでね~。バイバーイ!」
アリスがそう言うと、魔法陣の輝きが一層増し、ショウを覆い尽くした。そして・・・
「う、うわあああぁぁぁぁ!空中に放り出すなんて聞いてねえよおおおおぉぉぉ!」
〜アリス視点〜
よし、ショウ君は無事に行けたかな。ごめんね、君を利用するような形になって。今度会えたら精一杯謝らなくちゃ。いや、それだけじゃ絶対に足りない。だって僕は君に許されないことをした、また罪を重ねてしまった。でも、こうでもしないと助けることはできないんだから。もう後戻りすることはできない。それでも僕は……
「なーにうじうじ悩んでいるのよ!」
と僕は肩をたたかれた。何だ?と後ろを振り返ってみると知ってる顔があった。僕の肩を普段から叩くといえば、先輩神様のセシルさんだ。
「セシルさん、僕は・・・」
「あなたは確かに許されないことをしちゃったわね。それに謝れば済むっていう問題でもないわ」
「だったら僕はどう彼に償えばいいんですか?」
「まあまあ、話は最後まで聞きなさいよ。ショウ君って子はもうテミスに移ったんでしょ、じゃああなたができるのはあの子を正しい道に導けるようにするとか精々そのくらいでしょ?」
そうだ、僕には僕にしかできないことがきっとある。だったら僕ができる精一杯のことをあの子にしてあげなくっちゃ!
「僕は・・・僕はショウ君に償いたい、だから僕は彼を全力でサポートします!」
「その心意気よし!そうと決まったらとっとと地上に降りちゃいましょ!」
「え!?でも僕たちは地上に干渉したらいけないんじゃ?」
「何もかも先輩に任せなさいって!というわけでアリス、あなたの権限を一時的に没収するわね」
あ、あれ?セシルさんのほうに力が流れていく。これが先輩神様が後輩に使うことができる特権ってやつなのかな?
「これであなたの神の位と権能は剥奪されたわ。これであなたも普通の女の子としてショウ君のところに行けるわよ」
「あ、ありがとうございます!じゃあ行ってきますね~」
「うん、行ってらっしゃい。くれぐれも無理だけはしないようにね」
「はーい!」
そして僕も城島くんの乗っていた魔法陣を起動させ彼のあとを追いかけた。最後に一つ気になったのは、セシルさんが呟いてたような気が・・・まあ、僕の勘違いだよね。
広大な草原が広がる大地に、突如一人の少年がおちてきた。幸いまわりに人はおらず、誰にも目撃されることはなかった。それを追いかけるように一人の少女も空から舞い降りてきた。
「ん・・・無事についたのか?まさか空に放り出されるとは思わなかった」
「無事についたよ、ちょっと危なかったね」
「お、そう……って、アリス!?」
な、なんでアリスがここにいるんだ!?さっきお別れって言ったばかりだよな!?なんでついてきたんだ?あー、もうややこしくなってきた。
「えへへ・・・ついてきちゃった!」
「えへへじゃないだろ!神様の仕事とか大丈夫なのか?いや、それより神様はこの世界に降りてきていいのか?」
「先輩の神様から許可はもらったから大丈夫だよ。しかも今の僕は神様としての力はほとんどないし」
ふ、ふーん、神様って意外とゆるいんだな。
「ふーん、まあ知ってる奴がいたほうが俺も安心できるし。つーかお前神様なんだよな?その顔だったらこの世界の住人にばれてしまうんじゃ?」
「あ、そうかちょっと待ってて」
突如、アリスの体から眩い光が走り先程との顔とは、俺は初めて彼女を神様と意識した。俺って初対面の人にこんなひどいことを思う性格だったか?
「お待たせー」
「お前やっぱり神様だったんだ、ってなんだその恰好!?」
「似合ってない?気に入らなかったら変えれるけどどうする?」
「いや、そうじゃなくて今のお前、どこかでみたことがあるんだよな……あっ、エルの顔に似てるんだ!でも、なんでエルの顔に似てんだ?」
アリスは銀髪の童顔でまだ神様って言われても信じられるような雰囲気だったが、銀髪なのは変わらないけど顔が一気に近くなったからエルにこんな親戚がいるよ~って言われたら多分信じる。……いや、本当に何言ってんだ俺?日本にいるときは絶対こんなキャラじゃなかったぞ!?
「まぁいいじゃん、君の知ってる人の顔に近かったら馴染み深くていいでしょ?」
「いや、むしろやり辛いっつーの。はぁ、わかった。俺が言うことはもう何もねえよ。それより、これから俺たちどうするんだ?」
「さぁ?行き当たりばったり?」
「……はぁ!?」
こんなことで俺たちこれから大丈夫なのか!?
日本の神様と言えば作者は天照さんを思い浮かべます。皆さんは誰を思い浮かべますか?