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幕引 言葉の通じない異世界

 ギルドの扉を押し開けて、一歩、外へ出る。 茜色の空が、まるで燃えているみたいに染まっていた。 肌に触れる風は涼しくて、先程の戦いで火照った体には心地いい。ほんの少し、汗が冷えて背中に張りついた服が重たく感じた。

 でも、なんか……悪くない。 戦い終えたあとの余韻ってやつか。 あのおっさん――ギルドマスターとぶつかって、勝って。何かこう、言葉じゃ言い表せない達成感がある。

 俺は深く息を吸い込み、空を見上げる。 こっちの世界の空はやっぱ広い。色もちょっと地球と違う。どこか異質で、でも不思議と安心感がある。 少しずつこの世界に慣れてきてる気がしてた。言葉も通じねぇけど、まぁ、何とかなるって。


「ふー……喉乾いたな……」


 そんな独り言をこぼして、数歩、歩く。 そのときだった。

 背中に、衝撃。


「――っが、あ……?」

 訳がわからなかった。 一瞬、何が起きたのか本当に理解できなかった。

 でもすぐに、痛みが襲ってきた。 火でもつけられたみたいに背中が焼ける。 足が勝手に崩れ、膝がつく。 そして、視界が地面に吸い込まれるように傾いていく。

 倒れながら、誰かの気配を感じた。 すぐ後ろに、何かいる。 けど、そいつが何を言ってるのか――わからない。


「〆々……〆ヌヌ〆5、ヌ……」

 その出鱈目な言葉は、いつもと変わらない。 俺が、何を聞いても、何を言っても、通じない


「く……そ……」

 倒れた地面の上、拳を握りしめようとするけど、力が入らない。 背中から血が流れているのがわかる。じわじわと、温かいものが服を伝い、地面に染みていく。 ああ……これ、やばいやつだ。致命傷ってやつだ。まだ、何も始まってねぇのに。


「……う、そ、だろ……?」

 視界がにじむ。 霞んで、ぶれて、地面すらうまく見えない。 それでも、空だけははっきり見えた。あの夕焼けの空だけは、なぜか。

 俺、何もしてねぇぞ? ただギルドに来て、木剣で叩かれて、勝って―― ようやく、何か始まるって思ったところだったんだぞ。

 それが、これかよ。 こんな……あっけなく、終わるのかよ。


「っ……あ、は……」

 声が出ない。 息が吸えない。 指先が、冷たい。

 誰か……誰か、来てくれ。

 おっさん、あんたでもいい。 俺をここまで連れてきてくれた女騎士でもいい。 言葉が通じなくてもいいから、誰か……。

「……たす……け……」

 声にならなかった。

 涙が、一筋こぼれた。 何もできなかった。何も伝えられなかった。 誰の名前も知らないまま、誰にも名前を呼ばれないまま。

 こんな世界で、こんな場所で――


 

 でも、ほんの少しだけ。 最後の最後に見た、夕焼けの空が。 地球とは違う、こっちの世界の空が。 なんだか、優しかった気がするんだ。


 だから……


「……ま……いっか……」


 思わず、そう口の中で呟いた。 届かなくても、誰にもわからなくても、 最後くらい、そう言って終わりたかった。


 俺は、ただ静かに、目を閉じた。


 ――終わり


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