プロローグ
プロローグ
雲一つ無い空に、くっきりと満月が浮かんでいた。
(外が騒がしいな)
青年が窓の外を覗くと、そこかしこにちらちらと揺れる炎が見えた。
「父上、いったい何の騒ぎです?」
青年は、城の前の広場に降り立った。生ぬるい風が甘い薔薇の香りを撒き散らす。
「魔女の処刑だ」
王は青年をチラリと一瞥すると、広場の真ん中に積まれた木々の上に貼り付けにされた女を指した。
「魔女?」
青年は美しい顔を歪ませると、眉をひそめた。俯いた女の顔は、青年の居る場所からでは見えなかった。
「かの者は魔性の力を使い、城の秘宝を盗んだのだ」
王が手を開くと、そこには月の光に輝く美しいエメラルドの指輪がのっていた。
「それは僕がローザに……」
青年が顔を上げた瞬間、広場の中心に大きい炎が上がった。周りの民衆からどよめきと歓声が上がる。
「やめろ、ローザ――――」
青年は悲痛な叫び声を上げると、炎に向かってがむしゃらに走り出した。衛兵達に押さえつけられながら、青年は少女の名前を連呼した。しかし、その声は周りの音にかき消された。
――そしてまた、少女の囁き声も、誰の耳にも届かなかった。
「愛しています、永遠に……私のブルーアイズ……」
炎が少女の体を真っ赤に染め上げた瞬間、少女は月を見上げ、静かに瞼を閉じた。