After Episode 消えた力と獅子の双子【天魔の力編】
登場人物
シーナ=レグルス (18~29) ♀
天魔の力を持つ少女。
ヴェランド=レグルスによって育てられた戦士で
魔王軍を討ち破る。ヴェランドが他界して以来
自身の下の名をレグルスと名乗っている。
ヴェリス=レグルス (9) ♀
シーナ、ヴェランドの娘。
エランドの双子の妹。
いろいろなことに興味津々で元気な女の子。
将来の夢はシーナの様な退魔人になること。
エランド=レグルス (9) ♂
シーナ、ヴェランドの息子。
ヴェリスの双子の兄。
やんちゃな性格でいつもシーナを困らせている。
将来の夢は騎士団に入ること。
ヴェランド=レグルス (32) ♂
シーナの師にあたる男。
シーナが17歳の時に力の譲渡のために他界した。
エリス=シーナ (故) ♀
ヴェランドの師。
天使との契約の力を持っていたが、ヴェランドに
力を譲渡し、この世を去った。
フォード=レグルス (35) ♂
ヴェランドの父親。魔王軍の力で13年石化していたため
歳をあまりとっていない。大精霊の宴にシーナを誘う。
ゾルダート (?) ♂
光の差さぬ聖地でシーナに敗れた男。
七王退魔人の一人で魔王軍の臣下だった
シーナ ♀:
ヴェリ ♀:
エラン ♂:
ヴェラ ♂:
エリス ♀:
フォー ♂:
ゾルダ ♂:
『』…マインド
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エラン 「ねぇ、母さん! その、いつも言ってるマスターって誰?」
シーナ 「そうですね……。そろそろ話してもいいでしょうか……」
ヴェリ 「私も知りたい! お母さん!」
シーナ『マスター。私は今、子供たちに囲まれて、最高に幸せです。あと、もう少しですね』
エラン 「魔王軍を倒した母さんより強いの!?」
ヴェリ 「私も会ってみたい!」
シーナ『今から11年前。私があの男に勝った時…もう一つの剣の誓いが生まれた』
ゾルダ 「くそっ……! うっ……っ……、がはっ……!」
シーナ 「私の勝ちで、よろしいですね」
ゾルダ 「あぁ……煮るなり焼くなり好きにしろ……」
シーナ 「いえ、私はあなたを殺すのが目的ではありません。あなたの命が無駄というわけでなく、私はマスターに教わりました。人を殺してはいけないと」
ゾルダ 「はっ……どこまでも甘い野郎だぜ………っ……シーナっつったか……聞いていいか」
シーナ 「……? なんでしょう」
ゾルダ 「お前の言うマスターってのは……ごほっ! ごほっ! 誰なんだ?」
シーナ 「あなたのよく知る、ヴェランド=レグルスです」
ゾルダ 「なるほど、な……だからお前の眼差しがどこかあいつに似てる気がしたんだろ……いや……。エリスの瞳にも………って、何思い出してんだろうな……」
シーナ 「……エリス……、どのような方だったのですか?」
ゾルダ 「変わった女だった………、てめぇの命削って弟子に託して逝っちまうような奴だった…………。でも、俺もそんな奴に戦い方を教わったんだ……」
シーナ 「………私のマスターも、ヴェランドも…そんな方でした」
ゾルダ 「まぁ……俺の話は良い………女、お前。魔王軍を潰しに行くんだろ?」
シーナ 「……えぇ、止めようとなさっても無駄ですよ……?」
ゾルダ 「ちげぇよ………………ぶっ潰してくれ、こてんぱんにな……俺は…魔王軍に入りたくて入ったんじゃねぇ、悪魔との契約をしたくて入った……悪魔と契約して手に入れた力でぶっ潰してやりたかった…間違ってるってわかってた………でも…俺にはかなわなかった……だからよ…。頼むぜ………」
シーナ 「! ……それは……」
ゾルダ 「っはは……やったことあんだろ……? 剣の誓い。俺はもう悪さもしねぇ、すべてを償うつもりで生きていく…、だから女。俺の家族を殺した魔王軍を……ぐすっ……ぶっ潰してくれ……剣の誓いを…………ここに…」
シーナ『私は魔王軍に乗り込み、あっという間に討ち破ってしまった。それほどに天魔の力は強大だったと改めて自らに震えてしまった。力に酔いしれたわけではなく、単純に己が怖かったのもあった』
エリス 「あれが、天魔の力なのね…凄まじいわ」
ヴェラ 「でも。シーナは悪いように使ったりはしません…なんて言っても…僕の弟子ですから、ははっ」
エリス 「ふふっ、どうして…あの子に私の名を?」
ヴェラ 「僕にもわかりません。ただ…………いえ……。わかりません」
エリス 「そう、でも……継がれているって、改めて実感するわ」
ゾルダ 「よっ、シーナ=レグルス。やっぱりここにいたか。1年ぶりだな」
シーナ 「……お久しぶりです…ゾルダートさん。はい、やっぱりマスターと住んでいたここが一番落ち着いて…」
ゾルダ 「そう、だったな。あいつはお前に力を託すために……消えてったんだったな……………すまねぇ」
シーナ 「? 頭を上げてください……」
ゾルダ 「魔王軍が破られたからって言って俺のしたこと、お前の友達を村と一緒に焼き払った事。許されるわけじゃねぇンだ」
シーナ 「たしかに、酷いことをされたのは事実です…が。あなたはもう悪いことをしないと、一年前に誓ってくださいました。償いとして毎日を過ごされているのですから。私は責めるなんてつもりはありません」
ゾルダ 「ったく……甘ェよ、お前は。 まぁ、ありがとな……」
シーナ 「それで、私に何かご用でしょうか?」
ゾルダ 「あぁ、お前…フォードって名前を知ってるか?」
シーナ 「いいえ……、聞いた事ありません…」
ゾルダ 「ヴェランドの実の父親の名前だ」
シーナ 「! マスターの…お父様……」
ゾルダ 「魔王軍が破られて一年、里がだいぶ落ち着いたって事でよ。ほら、ヴェランド宛てに手紙が来てんだ。帰ってこいと」
シーナ 「……今はもうマスターは………あれ……? どうして、ゾルダートさんが手紙を?」
ゾルダ 「七王退魔人の本部に一度届いてからそれぞれの家に送られるようになってんだ、んで俺が届けに来たってだけの話だ」
シーナ 「そうだったんですか……」
ゾルダ 「行ってみろよ、ヴェランドの故郷に。よ」
シーナ 「でも、やっぱり……!」
ヴェランド『でも、は使ってはいけないと教えただろう?』
シーナ 「………。ありがとうございます…、ゾルダートさん。行ってみます」
ゾルダ 「あぁ、別に礼を言われるようなものでもねぇ。気をつけてな、もう……多分会うこともねぇさ。元気でやれよ」
シーナ 「っ……少し、寂しいです……」
ゾルダ 「俺も俺で旅に出ようってだけだ、んじゃな」
エリス 「変わったわね、ゾルダートも」
ヴェラ 「奴なりの誇りもきっとあります、魔王軍に入った事は良くないことかもしれませんが、
ゾルダート自身すべてが悪で有ったわけではありません…。悪魔が心を刈り取れなかった程に
大きな信念を抱いていたと、そう言っていましたから」
エラン 「すっげー! じゃあ母さんが最強ってことなんだ!」
ヴェリ 「お母さんかっこいい! いつも遠いところにいるって言うお父さんはその、
お母さんのマスターのふるさとに居たの?」
シーナ 「いいえ。あなたたちの父親は私のマスターです……あなたたちが生まれた時から、遠い遠いところにいるんです……」
エラン 「ってことは、母さんの師匠が僕らの父さんってことなの!?」
ヴェリ 「すごい! お父さんはいつ遠いところから帰ってくるの?」
エラン 「ヴェリス! それは言っちゃいけない約束だろ!」
フォー『里に訪ねてきた少女。下の名前はうちの家系と同じだった』
シーナ 「ごめんください」
フォー 「っと、いらっしゃい。どちら様で?」
シーナ 「………その……ヴェランド=レグルス宛のお手紙を頂きまして……」
フォー 「あっれ、送り間違ってしまったかな…? それは失礼…」
シーナ 「いえ…、しっかりとヴェランド=レグルスの家に届いていました」
フォー 「となると、君は一体誰なんだ…?」
シーナ 「ヴェランド=レグルスの弟子、シーナ=レグルスです…マスターは1年前に……力を……その…私に……」
フォー 「譲渡したわけだ」
シーナ 「そうです……譲渡を…って、えっ? どうしてそれを?」
フォー 「私も元々は退魔人だったんだ、そんなに口ごもるんだから察することはできる。それに、君の魔力からヴェランドの色が良く出ている、私は魔力を視覚化できるみたいでね。安心してほしい、私はヴェランドの死について君を責めたりはしないさ。さぁ、あがってあがって」
シーナ 「私……天魔の力を…マスターから力をいただいて……」
フォー 「あぁ、わかるとも。はっはっは、私はそんなに察しの悪い人間ではないさ。シーナ君と言ったか。君は魔王軍の奴隷か何かだったんじゃないか?」
シーナ 「は、はい…そうです…。9年ほど前に村を襲われた時、助けてくれたのがマスターで…シーナという名もマスターがつけてくださいました…でもどうして私が魔王軍の奴隷だったと…?」
フォー 「天魔の力を完成させることができるのは、ほぼほぼ魔族の血を引いた者だけだからだ」
シーナ 「とても…詳しいんですね……」
フォー 「レグルスの名は…?」
シーナ 「ヴェランド=レグルス、マスターの名前でしたから……当時の私にはシーナという名しかなく、下がありませんでした…。マスターが、たった一人の家族でしたから……」
フォー 「そうか、だからレグルスと。なるほど、なら安心してくれ。君は私の家族だ、初対面で何を言うと思うかもしれないが、息子の弟子なら尚更だ」
シーナ 「その……ありがとうございます……フォードさん……その…ちょっと質問があるんですが…」
フォー 「はっはっは、私の容姿のことだろう? 私は今本当なら48歳なんだがね、実際は35なんだ」
シーナ 「わ、若返ったりできるのでしょうか…?」
フォー 「はははっ、馬鹿を言うね。私はヴェランドが11歳の時に魔王軍に連行されて石化させられてしまってね。ずっとそのまんまだったところを13年経ってヴェランドが24歳になって、私を助けてくれたんだ」
シーナ 「なるほど……だからとてもお若いということだったんですね……」
フォー 「皮肉な話ではあるがね。それで、ヴェランドに手紙を出した理由なんだが」
シーナ 「そ、そうでした……。マスターに何か用があってのこと、ですよね…?」
フォー 「まぁ、そういうことだ。私たちの里では大精霊の宴といって、10年に一度行われるお祭りがあるんだ。その大精霊の宴は、亡くなった人たちが遊びに来る。そういうお祭りなんだ」
シーナ 「亡くなった方が……!?」
フォー 「そう。宴が行われるのは10年に一度の3月の17日だ。今日は3月の15日。明後日に行われるんだけどね。エリスさんに逢えるから、ヴェランドを呼ぼうと思ったんだ」
シーナ 「そう…でしたか…………すいません……私……」
フォー 「どうして謝るんだい? 何度も言わせるな、君は悪くない。…………参加していかないか?」
シーナ 「私が……ですか…? いや………でも………」
フォー 「でも、こいつは使っちゃいけない言葉なんだ。ヴェランドにも良く言ったものだよ」
シーナ 「は……はい…! それでは……私も、その宴に参加させていただきたいです!」
フォー 「あぁ、もちろんだとも。ヴェランドもきっと来るさ」
シーナ 「フォードさん……あの……」
フォー 「君は私の家族なんだ。さんなんてやめてくれたまえ。はっはっは」
シーナ 「は……はい! ふ、フォードおじさん。一つ聞いても良いでしょうか……?」
フォー 「おじさんか、そんな歳でもないのに変な気分だよ、ははははっ。どうした、シーナ」
シーナ 「マスターの、お母様は………いらっしゃらないのでしょうか……?」
ヴェラ 「僕の母親は、僕が生まれた時には…もうこの世にはいませんでした」
エリス 「………何か、あったの?」
ヴェラ 「存在しないんです。僕の母は」
エリス 「存在…しない…?」
ヴェラ 「僕は生まれつき魔力が強かったと聞いたことがあります。母が僕を産んだ時に、
僕の体には余りがあり過ぎる魔力が暴走したんです」
エリス 「やっぱり、天性の退魔人だったのね」
ヴェラ 「しかし、魔力が僕の命を蝕みかねないと判断した母は天使と悪魔の並列契約をしたんです」
エリス 「へ……並列契約!?」
ヴェラ 「天使との契約の内容は暴走した魔力から僕の体を保護すること、悪魔との契約は魔力を抑え込むだけの力を取引すること、でした」
エリス 「並列契約をして……あなたのお母様は……」
ヴェラ 「死ぬ、というよりは…。同時に契約したという事、そして互いに拒みあう力を取り込んだことで、母は消滅してしまいました」
エリス 「……そうだったのね…………? ということは、あなたのお父様の言う大精霊の宴には……」
ヴェラ 「はい、そもそも死んだわけではないので…無に還るというのでしょうか…なんというか。会うことはできませんが……しかし、母のおかげで今の僕はいます。感謝して生きていこうって思うんです、
まぁ…もう死んでいるんですけどね、はははっ」
エリス 「…ふふっ、いつか私も会ってみたいわ。あなたのお母様に」
ヴェラ 「そうですね……僕も会って、改めてお礼を言いたいです。そうだ、マスター」
エリス 「? どうかしたかしら?」
ヴェラ 「言い忘れていました、僕の母の名前は……」
フォー 「……ヴェルダンディ、ヴェランドの名前はそこから来てるんだ。ヴェランドの名前は妻からとろうと思ってね」
シーナ 「そうだったんですか……マスターのお母様は…あぁ、いや……おばさんは宴にはやっぱり…」
フォー 「あぁ、来ることができない。悲しいと思っていた時期もあったがね、私にはヴェランドが残されていた。いつまでもめげていたらヴェルダンディに怒られてしまうからな。さぁ、長旅で疲れただろう。こっちへ来なさい」
シーナ 「ぁ、はい。この部屋は……?」
フォー 「感じないか?」
シーナ 「……マスターの部屋、ですか…?」
フォー 「あぁ、そうだ。この部屋は君が使うと良い、ヴェランドがエリスさんに弟子入りをし始めたと言っていた13年前、つまり君が生まれた時か、もしくは少し前か。そのころからこの部屋は何も変わっちゃいない」
シーナ 「……そう…ですか。ありがとうございます」
フォー 「一応部屋の掃除などは定期的にしているからね、何かあったら言うんだよ。私は夕飯の買い出しに行ってくる。また後で」
シーナ 「はい、また。………ここが、マスターの部屋……。よいしょ………マスターの匂いがする…」
フォー『里も宴の準備でにぎわい始め、シーナも手伝いに回り、まだ前日であるというのに過去最高の盛り上がりを見せた』
シーナ 「18時52分………」
フォー 「宴は19時からだ。時間が来ると、空からたくさんの光が降り注ぐ。降り注いだ光のどれかがヴェランドろう。宴は明日の19時までの24時間だ、死人も24時間しか滞在はできない」
エリス 「もうすぐ時間ね、私もあなたの弟子に会ってみたいわ。一緒に行ってもいいかしら?」
ヴェラ 「もちろん、一緒に行きましょう。マスター」
フォー 「時間だ、私はここで待っている。探してきなさい、シーナ!」
シーナ 「……はい! ……………マスターは………どこ……でしょう………」
ヴェラ 「……シーナ」
シーナ 「……! ………マス……ター……? マスター! ぅっ……っ、ぐすっ……ひぐっ……」
ヴェラ 「久しぶりだな、シーナ。こらこら、そんなに泣くんじゃない……元気だったか?」
シーナ 「ます……たぁ…! っ…ぐすっ…ふぇぇぇぇぇぇん」
エリス 「まだまだ年頃の女の子なんだから。自分が大好きで慕う人間に会えないなんてまだまだ辛いんだから」
ヴェラ 「そういうものなんでしょうか……シーナ、いつまでも抱き着いているんじゃない。顔をあげるんだ」
シーナ 「ぅ……はい……すいません……。?こちらの方は……?」
ヴェラ 「私のマスターだ」
エリス 「こんにちは、シーナ」
シーナ 「えっ!? マスターの……マスター…! エリス様ですか…!?」
エリス 「様なんてそんな。でも、ありがとう。会ってみたいって思っていたの」
シーナ 「私もです…! マスターのお師匠様にいつか会ってみたいって……」
エリス 「一度、手合せしたいわ。弟子の、弟子がどこまで教えを受けたのか…」
シーナ 「よろしいのですか!? そんな夢の様な事……」
エリス 「もちろん、真剣はあるかしら……? ヴェランド、あなたのを貸してちょうだい」
ヴェラ 「はい、こちらを」
エリス 「ありがとう、シーナ。準備は大丈夫?」
シーナ 「はい…! いつでも……!」
エリス 「……その構え……。やっぱり、ヴェランドの弟子なのね……とても嬉しいわ。………っ!……その真剣は?」
シーナ 「これですか? これは10年前に私にマスターがくれた真剣です…!」
エリス 「ふふふっ、そう…………。始めましょうか、シーナ!」
シーナ 「はい! よろしくおねがいします!」
エリス『私の真剣を、シーナに譲ったのね。きっと、その方が剣も喜んでくれる。ありがとう、ヴェランド』
ヴェラ 「久しぶりだな、父さん」
フォー 「あぁ、ヴェランド。元気にしてたか? って、お前はもう死んでるんだったな」
ヴェラ 「もちろん、元気にしてる。悪いな、何にも言わずに」
フォー 「どうして謝る? お前がやりたいようにやったんだ、私がとやかく言う資格はない」
ヴェラ 「はっはっはっ、父さんらしいな……」
フォー 「顔を見れただけで充分さ。息子の元気を見れて私はまだまだ長生きできる」
ヴェラ 「ははっ、長生きってそもそも父さんまだ35じゃないか。長生きも何もまだまだ長いだろ?」
フォー 「そうだったな、はっはっはっ! ……ヴェランド」
ヴェラ 「……? どうしたの?」
フォー 「私より、もっともっと。お前にとって割くべき時間があるだろう」
ヴェラ 「…………あぁ。ありがと、父さん」
フォー 「それに、私もお前の師匠と話してみたいんだ」
エリス 「……さすがね、シーナ」
シーナ 「そんな、私なんてまだまだ……エリス様の戦い方…やっぱり、マスターのお師匠って改めて感じました」
エリス 「また、いつか闘いましょう。あんまり時間を使い過ぎるとヴェランドに怒られてしまうわ」
シーナ 「マスターが…?」
エリス 「また会いましょう、シーナ。………ヴェランド、ありがとう。私はあなたのお父様に会ってみるわ」
ヴェラ 「えぇ、父さんも話してみたいって言ってました」
エリス 「よい時間を、ね」
シーナ 「マスター」
ヴェラ 「どうした、シーナ」
シーナ 「次は……10年会えなくなってしまうんですか……?」
ヴェラ 「そういう決まりだ…、私だってすごく寂しい」
シーナ 「こんなにマスターのことが好きなのに……切なすぎます……」
ヴェラ 「私もだ、だけど。死人は普通この世に還ることなんてできない…今こうして会えているのも一つの奇跡なんだ」
シーナ 「……私はこれからどう……生きていけば良いと……目的を果たして……、マスターのいない世界で…」
ヴェラ 「新たな幸せを見つけなさい。私を忘れろというわけじゃない、別の何かを」
シーナ 「………初めて会ったとき……私はただの男の人に出会っただけ、そう思っていました。でも、いつからか憧れに変わって…背中を預けてもらえるような戦士になるんだって。ですが…それすらも、変わって頭の中でいつもマスターの事ばっかり考えて……」
ヴェラ 「……シーナ……」
シーナ 「マスターが出かけた夜は寂しくて、張り裂けそうで……とても、とてもつらかったんです…でも…ちゃんと帰ってきてくれるから寂しくないって…そう思ってました」
ヴェラ 「すまない…シーナ……君がそんな気持ちだったなんて、私は気づけなかった…」
シーナ 「大好きで大好きでどうしようもなくて……片時も忘れたことなんてありません……ずっと一緒にいたいんです!」
ヴェラ 「シーナ、それは叶わないんだ。わかるだろう…?」
シーナ 「私は………マスターを……愛しています、とても……とても…どうしようもないくらいに…」
ヴェラ 「………シーナ……。私もだ、君の事を愛している。あの日天に還ってから、それこそ私も君の事を片時も忘れたことなど無い」
シーナ 「………マスター………もう……どこにも行かないでください……」
ヴェラ 「また……逢える。きっと。いや……絶対に」
シーナ 「っ……うっ……ひぐっ……うわぁぁぁぁぁん」
ヴェラ 「……おいで、シーナ」
シーナ『もし願いが叶うのなら、私の力がこの世の中で最も強い力であるなら。
たった一つのこのお願いを、聞いては下さいませんか。最後のお願いです、神様。
ずっと、マスターと一緒にいさせてください』
ヴェラ 「時間だ……シーナ。また、会おう…」
シーナ 「…………マスター………!」
ヴェラ 「君ならどんなことでも乗り越えられる、いつでも私は君を見守っている」
シーナ『マスターに再開したあの日以降。私は天魔の力を使えなくなってしまった。理由はわからなかったが、マスターに会うことができて、新たな命を授かったからだろう、そう思っていた』
フォー 「そうか、ヴェランドとシーナの子か。元気に生まれてくるといいな」
シーナ 「はい! きっと。マスターも喜んでくれていると思います」
フォー 「まさかこんなに早くおじいちゃんになるとは私も思っていなかったよ、はっはっは! 名前はもう、決めているのか?」
シーナ 「はい、女の子にはヴェリス。男の子にはエランドとつけようかなって」
フォー 「良い名前だ、私も君たちのこれからも見守ることとしよう」
ヴェリ 「おじいちゃんはその里に住んでるんだ! また会いたい、お母さん!」
エラン 「えー、僕は父さんに会いたいな! 父さんは来年また来てくれるんでしょ!」
ヴェリ 「あ、私も! お父さんにも会いたい!」
シーナ 「そうですね、来年の夏ごろで10年になります。あなたたちがお父さんに会うのは初めてですものね」
ヴェリ 「お父さんはすっごく強いんだよね、お母さん!」
エラン 「ばか、ヴェリス! 母さんが一番強いんだよ!」
シーナ 「いいえ、エランド。私が強かったのは前に父さんに会った時の話です」
エラン 「えー! でも、母さんは退魔人より強いんでしょ!」
シーナ 「私はあの日以来力を使えなくなってしまいました、剣術などはまだそれなりかもしれませんが、七王退魔人も今は私が抜けて六王に減りましたから」
ヴェリ 「残念……お母さんはもう一度退魔人になりたい?」
シーナ 「いいえ、私はもう戦うつもりはありません。仮にそんなときが訪れたら……あなたたちの出番です、エランド、ヴェリス」
エラン 「僕ら、まだ全然強くないよ! ヴェリスなんてこの前、疑剣でツボ割ってたんだから!」
ヴェリ 「あっ! エランド! 言わないって約束したのに!」
シーナ 「ツボを…割ったのですか?」
ヴェリ 「ごめんなさい、お母さん……」
シーナ 「…………ふふっ、ツボを割れる様にまで振り回せるのですね。成長です」
ヴェリ 「怒らないの…?」
シーナ 「えぇ、成長した子をどうして叱る必要があるんです? 変わった子ですね、ふふっ」
エラン 「母さん! ヴェリスに甘いんじゃないの!」
シーナ 「いえいえ、エランド。あなたも疑剣を使い始めて1カ月どころか1週間で自在に振り回せるようになったんですから。成長ですよ」
エラン 「へへっ、母さんに褒められた! やったー!」
ヴェリ 「エランド! なら私と勝負しよ!」
エラン 「また負けてもしらねーぞ!」
シーナ 「こらこら、喧嘩はしないように。ほどほどにするんですよ」
エラン 「母さん、お外にお客さん来てるよ!」
シーナ 「? わかりました、今行きます」
ヴェリ 「エランド、誰だったの?」
エラン 「わかんない、見たことない男の人!」
ヴェリ 「それって危ない人かもしれないよ!」
エラン 「すごく優しそうな人だったから大丈夫だと思う!」
シーナ 「はい、どちらさ…………え?」
ヴェラ 「久しぶりだな、シーナ」
シーナ 「うそ……どうして………マスター……?…まだ1年ぐらい先なのに……えっ!?」
ヴェラ 「どこかの誰かが天魔の力を命の代わりとして天使と契約して、私を現世に呼び戻してくれたらしい」
シーナ 「うっ………ぐすっ……マスター……! 会いたかったです………うわぁぁぁぁん」
ヴェラ 「すまなかったな、シーナ。初の取引だから、天界でも騒ぎになって話し合いが9年も続いてしまった」
シーナ 「そんなこと、ありません! もう…どこにも行かないでください!」
ヴェラ 「あぁ、どこにも行かない。ずっと君の傍にいる……!」
シーナ 「はい……! はい…! マスター!」
ヴェラ 「………シーナ、剣はあるか?」
シーナ 「もちろん………マスターからいただいたものですから……」
ヴェラ 「私はもう君の傍から離れない、そして…君も私の傍から離れないでほしい…だから…!」
シーナ 「剣の誓いを……」
ヴェラ 「ここに……」
エリス 「ふふっ、幸せになってね。ヴェランド」
ゾルダ 「先生」
エリス 「! ゾルダート! どうして天界に!?」
ゾルダ 「悪魔との契約が切れたんですよ、俺も死んだってことです」
エリス 「……そう…………まだ、私の事を憎んでいるかしら……?」
ゾルダ 「いえ……全く、あの時は……すんませんした……」
エリス 「もう、終わった事なんだから。いいのよ」
ゾルダ 「……………不思議な奴ですね、ヴェランド=レグルス。死んだのに、また蘇るなんて」
エリス 「あなたが悪魔との契約で心の刈り取りを防いだように、世の中の秩序に愛が勝る場合もあるという事じゃないかしら」
ゾルダ 「なるほど、俺にはわからねぇ世界だ」
ヴェラ 「君にはたくさん謝らないといけない。この9年…戻ってこれることは決まっていたのに
ヴェリスとエランドの事をまかせっきりだった…、他にも…七王退魔人の一人を投げてしまった」
シーナ 「全然気にしていません。どうか、謝らないでください今こうして一緒に居ていただけるだけで……私は幸せですから」
ヴェラ 「いや……でも……!」
シーナ 「ふふっ。でも、は使用禁止ですよマスター!」
終