Origin of Legend 動き出す歯車【天魔の力編】
登場人物
ヴェランド=レグルス (24) ♂
退魔の力を持つ謎の男。
七王退魔人の一人。
出会った少女にシーナと名付け、戦士として育て上げる。
重い過去を持つ。
シーナ 幼少期 (9) ♀
魔王軍の奴隷として扱われていた少女。
魔龍族の血を引いている。
名が無く、417番と呼ばれていた。
ヴェランドに出会い、マスターと慕い
一人の戦士として育っていく
シーナ 青年期 (17) ♀
成長したシーナ。退魔の力を手に入れ、
立派な戦士となる。
エリス (故) ♀
ヴェランドの師匠にあたる女性。
天使と契約した人間。
ゾルダート (?) ♂
七王退魔人の1人、かつ魔王軍の一人。
光の差さぬ聖地にてシーナと戦う男。
『』…マインド 《》…回想 〈〉…手紙
ヴェラ/??? ♂:
シ幼 ♀ :
シーナ ♀:
エリス ♀:
ゾルダ ♂:
----------------------
シーナ『そう、出会いは魔王軍が私の村を攻めてきた時だった』
ゾルダ 「フフフハハハハハハ! ひとつ残らず焼き払え! 魔人村でもなんでもかまわん、奴隷の100や1000が死んだところで魔王様は何も気にせん!」
シーナ『魔人村、魔族の血を引く民が住む村。私は魔要塞を築くなどの労働になると駆り出される奴隷だった』
シ幼 「あれ…なに……こわいよ……!」
ゾルダ 「要塞を築く土地がここに決定したんだよ、クソガキが」
シ幼 「……やめて……こわいよ……こわい………やめて……」
ゾルダ 「俺だってお前みたいなガキを殺す程、悪趣味じゃねぇよ。さっさと消えろ」
シ幼 「うっ、うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 (泣きだす)
ゾルダ 「ケッ、うるっせぇガキだな全くよ……オラお前ら! もっと焼き尽くせ!」
シーナ『当時純粋無垢だった私は目の前で行われる暴虐が善悪として悪い事である。としか認識できず、私は泣くことしかできなかった』
ヴェラ 「ゾルダートの奴…! 好き勝手をしてくれるな………! !? 君! こんなところで何をしているんだ!」
シ幼 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん…ひぐっ、ひぐっ…ぐすっ……ふぇぇぇぇん」
ヴェラ 「泣くな、私は君の敵ではない!」
シ幼 「ふ……ん、ぐすっ……うん……おじさん、だれ?」
ヴェラ 「おじさんって……私は君が思っているほど歳はくっていない。まぁ、
君から見たら私はおじさんなのかもな……私の名前は今はどうだっていい。君の安全を確保する方が先だ」
シ幼 「あん…ぜん…? おじさん、村を壊しに来たんじゃ…ぐすっ…ないの?」
ヴェラ 「人聞きが悪い、私は魔王軍ではない。むしろ民の救出に来たんだ、君。友達や他の人は?」
シーナ『その時、私は見回したが誰もいなかったのを覚えている。皆、虐殺されたが不思議なことに私は傷一つなかった』
ヴェラ 「そうか……君は、今何を思っているんだ? 小さい歳で、こんな状況でどうして澄んだ眼をしているのが私には不思議で仕方がない」
シ幼 「やっつけたい……みんなにひどいことしたやつを、やっつけたい……」
ヴェラ 「そうか………。倒したいか? 彼らを」
シ幼 「うん……でも……こわい……それに……私……こどもでなにもできない……」
ヴェラ 「今の君に戦う能力は無い。しかし………ほら」(手を差し伸べ)
シ幼 「……? なに…?」
ヴェラ 「私と来ないか? きっと、君を立派な一人の戦士にしてみせる。倒したいだろう、あいつらを」
シ幼 「………うん………でも………」
ヴェラ 「でも、は使うな。名前は?」
シ幼 「名前……? よ、417」
ヴェラ 「違う、数字じゃない。私が聞いているのは君の名前だ」
シ幼 「417なの……!」
ヴェラ『私は気づいた。この子には名前が無かった。魔王軍の奴隷としてただ数字で呼ばれ続けていたのだ』
ヴェラ 「名前が………君にはないのか」
シ幼 「……………ぐすっ…………うん………」(半泣きで)
ヴェラ 「そうだな…………私が、つけても良いか?」
シ幼 「ぐすん………つけて…くれるの…?」
ヴェラ 「あぁ、君の名前は………シーナだ」
シ幼 「し…いな? しー……な、しーな……シーナ!」
ヴェラ 「気に入ってくれて良かった。シーナ、君にこれを譲ろう」
シ幼 「う…、おも…い。おじさん、これは…なに?」
ヴェラ 「剣だ。おもちゃではない、君の身長と同じくらいだな、確かに重いだろう。だけど、いつか片手でも軽く感じる様にしてみせる」
シ幼 「これ……でつよくなるの?」
ヴェラ 「それだけでは強くはなれない。でも、それを初めに君は強くなるんだ」
シ幼 「う……ん……! よろしく、おねがいします!」
ヴェラ 「良い育ちを受けたんだね、では。剣の誓いをしよう」
シ幼 「つるぎ、の…ちかい?」
ヴェラ 「私たちの世界で行われる儀式のようなものだ。剣の柄と柄をあてがい刀身を交差させる。君たちの中で言う指切りだ」
シ幼 「うん……! 指切りならわかる。なにかやくそくをするの?」
ヴェラ 「そうだ。誓おう、私は君が一人前に戦えるようになるまで、必ず守り抜く。そして君は必ず私の命令には従うんだ。逃げろと言えば逃げろ、隠れろと言えば隠れろ、そして。私を見捨てろと言えば見捨てるんだ」
シーナ『その言葉の意味が当時の私には理解できず、ただうんうんと首を振ることしかできなかった』
シ幼 「こ、こうするの?」
ヴェラ 「そうだ………剣の誓いをここに………」
(間を開けて)
シーナ『そして私とマスターの生活が始まった』
シ幼 「マスター! 最初は何をするの?」(うきうきとした様子で)
ヴェラ 「まずは剣の握り方からだ。しかし練習から真剣を使っては危ない、これを使いなさい」
シ幼 「うぐっ、重い………こんなの持てない………んぐっ……」
ヴェラ 「そいつなら斬れる恐れはない、シーナ。そいつでまず私の頭を叩くつもりでかかってきなさい」
シ幼 「マスターの頭を……? でも、持てないよ……」
ヴェラ 「やってみるんだ、最初は重いかもしれない。だが、少しずつ変わってくるだろう」
シ幼 「はい…! マスター! んっ……おも…い……えいっ! やぁっ!」
ヴェラ 「ほう、9歳にして20キロを振り回すとは…。まだまだではあるが……(ここまで独り言のように)良いぞ、シーナ!」
シーナ『マスターは私の事を叱らなかった、甘いのではなく、私の行いを全て良い方向に伸ばすように指摘した』
シ幼 「ごめんなさい……マスター、大事なツボを…割っちゃった……」
ヴェラ 「シーナ」
シ幼 「ごめんなさい! 疑剣で特訓してたら…」
ヴェラ 「すごいじゃないか! ツボの置いてある高さは君の身長より50㎝程上だ。そこまで届くように振り回せるようになったのか!」
シ幼 「おこら…ないの?」
ヴェラ 「特訓の成果が出てるのにどうして叱らないといけないんだ、変わった子だなシーナ。ははっ」
シーナ『生活が始まって1カ月がたったころには私の腕の力はびっくりするほどに上がっていた』
ヴェラ 「シーナ。真剣を持ってきなさい、私を倒す気でかかってくるんだ。、この前の様に頭なんて言わない、どこからでも来なさい」
シ幼 「よし……あれ……? 軽い……? マスター! 真剣じゃない、これ」
ヴェラ 「いいや、真剣であっているよ。私が君に与えた疑剣がそもそも重く加工してあったんだ」
シ幼 「すごい……すごい! マスターすごい! 軽い、軽いよ!」
ヴェラ 「ははっ、私がすごいんじゃない。君の努力の成果だ」
シ幼 「いくよ! マスター! はぁぁぁぁっ!」
シーナ『私はマスターが大好きだった。いつも一緒で、一緒にいるだけで自分が強くなっている気がして、事実苦しい特訓もまったく気にならずに頑張ることができた』
シ幼 「マスター! マスターがいつも言ってる、退魔のちからってなに?」
ヴェラ 「そうだな……もう早いことに7か月も経ったんだな。よし、シーナ。少し離れていなさい」
シ幼 「はい、マスター!」
ヴェラ 「こう……はっ! みえるかい、これが」
シ幼 「すごく…綺麗、黄色に光ってる! それが…たいまのちから?」
ヴェラ 「厳密には、少し違う。これは退魔の力ではない、この力を使うことで退魔になるんだ」
シ幼 「むずかしい……どうやるの? マスター!」
ヴェラ『一緒に生活を初めて3ヶ月ぐらいの頃だった。私はシーナの後ろ首の紋章に気づいた』
シーナ『私は魔龍族の血を引いていた。村を襲われた時に無傷だったのも無意識のうちに強力な結界を張り出していたからだった』
ヴェラ『魔族、魔龍族には退魔の力は扱えない。言うまでもなく、自らを傷つけかねない力だから』
シ幼 「ねぇ! 教えて! マスター!」
ヴェラ『私も過去に一度、師に退魔の力とは何かと問うた時があった』
(間を開けて)
エリス 「ヴェランド。さすがの太刀筋ね」
ヴェラ 「そんなことありません、マスター。僕などまだまだです」
エリス 「謙遜するのね、あなたの太刀筋はきっとこれから先、私のもっと上を行くわ」
ヴェラ 「扱いが良くても退魔の力を僕は持っていません、結局魔王軍と前線で戦うにはまったく足りぬ力なんです」
エリス 「退魔、という言葉にこだわるのね」
ヴェラ 「それは…! そうです。僕の憧れる力ですから……」
エリス 「退魔の力とはもう一つ別の力があるの、知ってた? ヴェランド」
ヴェラ 「!? そんなものがあるんですか……、聞いたことがありませんでした……」
エリス 「ふつうの人間が手を出せる力ではないの。なぜならそれはそもそも人が手に入れることのできる力ではないから」
ヴェラ 「その力をなんと、呼ぶんですか……?」
エリス 「天魔の力、と呼ばれているの。天使と契約したら得られる力、退魔の力、そして魔族や魔龍族の悪しき血を引く力が混合された力」
ヴェラ 「てん…ま……。合わさる……そんなことが…ありえるのですか?」
エリス 「ありえる、かもしれないわね。あなたなら」
ヴェラ 「でも……魔族や魔龍族の血を引く人間なんて……」
エリス 「私が、昔殺めた人間は……魔族だった。そして私は……魔族の力を得た……」
ヴェラ 「マスター……それなら、マスターが天魔の力に一番近いではありませんか…?」
エリス 「人が自力で体に取り込むことができる力は1つまで。私の今の力は魔族の力、そして退魔の力…ヴェランド…」
ヴェラ 「できるはず…ないじゃないですか、僕がマスターを殺すなんて…!」
エリス 「私を倒して、そして…天使と契約をするの。そうしたらあなたは天魔の力を手に入れることができる…」
ヴェラ 「できません! 私はマスターを殺してしまうくらいなら……いっそ…僕が…」
エリス 「ならない、あなたが…天魔の器だと思っているの。全ての能力において…あなたはきっと私の遠く上を行く」
ヴェラ 「ですが……!」
エリス 「言ったでしょう。私の命令には従いなさいと。私が逃げろと言えば逃げなさい、隠れろと言えば隠れなさい、殺せと言えば殺せと…」
ヴェラ 「マスター………! 僕は……!」
エリス 「ヴェランド! お願い……あなたならきっと魔王軍を……」
ヴェラ 「マスター、最後に一つだけ聞いてもいいですか……………?
エリス 「えぇ……」
ヴェラ 「僕は、マスターの下の名前を聞いたことがありませんでした……」
エリス 「そうだったかしら……5年も一緒にいたのにね、私の下の名前は……」
ヴェラ 「…………ありがとうございました………マスター………。いや……、エリス=シーナ………」
ゾルダ『ヴェランドという名を知ったのはそう、俺が村を焼き払った4年前くらいだ。まだ魔王軍に入ってなかった頃』
ヴェラ『私は天使との契約を試みたがどうしてもできなかった。理由は簡単であった、そう。そもそもマスターは
退魔の力を持たず、実の力は天使との契約した力だったのだ』
ゾルダ 「へぇ、お前か? 毎日毎日天使との契約の本を読み漁ってるってのは?」
ヴェラ『ゾルダート=クロー。聞いたことはあった。六王退魔人の一人で、私の行きつけの図書館によく現れた』
ゾルダ 「天使との契約なんて良い事ねーんだぜ? 命の半分を刈り取られちまう」
ヴェラ 「なんだって!? お前、それは本当か!?」
ゾルダ 「嘘つく理由なんてありゃしねーだろ、80年生きることができても40年に削られちまうんだ」
ヴェラ『マスターは天使との契約のデメリットを私のために担っていたのだ』
ゾルダ 「まぁ、天魔の力を求めるには避けては通れねーんだけどな。お前の様な無能なポンコツみてぇな輩には関係ない話だ」
ヴェラ 「私は……その天使との契約の力を、師匠から受け継いだんだ。私の寿命に影響なく、力を手に入れた」
ゾルダ 「!? んだとテメェ! まさか……お前…退魔の力と同時に………って、なーんてな。六王の中にお前の顔なんて見たことねぇ」
ヴェラ 「なら、名前だけでも覚えておくんだな。私の名前はヴェランド=レグルスだ」
ゾルダ 「いちいち頭にくる野郎だな…くそったれ」
ヴェラ『天魔に関して調べているともう一つ分かったこと、それは。魔族の力を手に入れるのが必ず最後でないといけない事。
つまり私はマスターの天使との契約の力しかなく、天魔の力を手にすることは私には不可能だった』
シーナ『天魔の器に相応しき者。そうマスターが判断したのが私だった』
ヴェラ『私はマスターを貫いたあの日から4年の時を経て、退魔の力を手に入れた。そして、魔族の上を行く存在。魔龍族の血を引く彼女に出会った』
シ幼 「マスター! 私にもできる? そのぴかぴかっ! って!」
ヴェラ 「君にはまだ難しい、大きくなってからだ」
シ幼 「えー! マスターのいじわる!」
ヴェラ 「はははっ、そうだ。私はいじわるだ! ははははははっ」
ゾルダ『俺は元々、純粋に退魔の力を求めているただの人間だった。があいつに会ってそれは変わっちまった』
エリス 「ゾルダート、何の真似?」
ゾルダ 「あんた、退魔の力なんて持ってねぇだろ……。だってよ…あんたの肩には王退魔人の紋章がねぇじゃねぇか」
エリス 「そうよ…ばれていたのね……。私は純粋に天使との契約をしただけの人間」
ゾルダ 「なんでだよ! 命が惜しくねぇのかよ!」
エリス 「私の見込んだ最高の弟子が現れたの。ゾルダート、あなたには何かの焦りが見えるの。全然太刀筋がなっていない」
ゾルダ 「俺は…俺は…あんたが退魔の力を持つって聞いたからここまで頑張ってきたのに……」
エリス 「退魔の力は…確かに私には無い。でも、教えることはできるの。だから…!」
ゾルダ 「あんたを倒したら………俺は二つ目の力を手に入れられるって事だよな………?」
エリス 「……後悔しても知らないわよ」
ゾルダ 「くそっ! くそっ! なんでだよ…!」
エリス 「ゾルダート。あなたは私には勝てない。今のままでは。 どこに行くの……?」
ゾルダ 「知ってんだろ……あんた。天使との契約の力と退魔の力そして。禁忌の力……、悪魔との契約だ」
エリス 「やめなさい! 悪魔との契約だけは絶対にしてはいけない…。心を。全てを失ってしまうのよ!?」
ゾルダ 「強くなれるんだよ、心売りゃあよ……! こうするしかねぇんだろうが! じゃあな」
エリス 「ゾルダート! ……………待ちなさい! ゾルダート!」
ゾルダ『しばらくして、ヴェランド=レグルスという男が7人目の退魔人となったと知った。俺は悪魔との契約をしたが、心を奪われることは無かった』
ヴェラ『マスターは私のほかにもう一人の弟子がいると言っていたのを覚えている。それがゾルダート。シーナに会う少し前、私はゾルダートと再会した』
ゾルダ 「まさか、本当に退魔人になっちまうなんてなぁ。ヴェランド=レグルス。なんだ? 何しに来た。ここは光の差さぬ聖地、つまり俺の家だ」
ヴェラ 「私はお前に用があるわけじゃない、ここは私のマスターとの出会いの地なのだ」
ゾルダ 「へぇ、奇遇だな? 俺も同じ、ここで師と出会った。まぁ、誰かに殺されたみたいだが」
ヴェラ 「殺された? 誰に?」
ゾルダ 「知ったことか、俺は退魔の力と偽って天使との契約の力を隠していやがったあの野郎を許しはしない」
ヴェラ 「…………! お前……まさか………その者の名は……エリス……?」
ゾルダ 「! なぜ知ってやがるテメェ! ………てめぇ………まさか……な、ははっ」
ヴェラ 「…………マスターを殺したのは私だ……………ゾルダート、いや………兄弟子というべきか」
ゾルダ 「っ………てめぇだったのか、俺の……俺の力となるべきあの女をやりやがったのは………」
ヴェラ 「フン、魔王軍に成り下がったお前に言われる筋合いはない、私は確かに罪を犯した。が、その罪はさらなる罪を生まぬための罪なんだ」
ゾルダ 「悪魔と契約するためだ、心を奪われるって聞いて一時はどうなるものかと思ったが…この通りだ」
ヴェラ 「悪魔と契約したのか…?」
ゾルダ 「俺は、強くなりたいという意思一心で心の刈り取りを弾いたんだよ。すげぇだろ……? なあ? 悪魔にも勝る俺の狂気をよ…?」
ヴェラ 「狂っているな………マスターの面汚しだ……」
ゾルダ 「……フフフハハハハハッ……抜け、弟弟子」
ヴェラ 「ゾルダート、マスターの教えを受けたのになぜ悪に走った。そんな風に成り下がる事をマスターは教えたのか?」
ゾルダ 「ごちゃごちゃうるせぇんだよ………三下がぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヴェラ 「あの構え……やはり、マスターはエリス=シーナ……!」
ゾルダ『勝負は俺の勝ちだった、魔族の力を取り込み続けていた俺は一歩先を行っていた』
ヴェラ 「はぁっ…はぁっ……ゾル…ダート!」
ゾルダ 「なんだ? 負け犬の遠吠えもいい加減にしろよ」
ヴェラ 「そう……だな、どちらかというと…ゲホッ! ゲホッ! 命乞いというやつだ」
ゾルダ 「哀れだな、屑が。なんなら助けてやろうか?」
ヴェラ 「そうしてくれると……ありがたいが……お前は私を殺さないのか…?」
ゾルダ 「お前を殺せば確かに天使との契約の力を奪うことはできる。だが、あの女の力ってのが妙に気に喰わねぇ」
ヴェラ 「今……殺さないと…後悔するかもしれないぞ……?」
ゾルダ 「どのみち世界はやがて魔王軍に染まる。俺が手を下さなくても、死ぬだろうがよ、てめぇは」
ヴェラ 「させない……からな、必ず後悔するぞ………」
ゾルダ 「吠えとけ、雑魚が。お前にとって七王の肩書は錆びでしかねぇ。もしリベンジマッチしてぇってんなら、19日後。
魔の民の村を焼き払う。そこに来い、今度こそぶっ殺してやる。死にたくねぇなら一生ひそひそと暮らすんだな」
(シーナ12歳)
シ幼 「マスターはどうしてそんなに強いの?」
ヴェラ 「私にも、マスターがいたんだ。その人に戦い方を教わった」
シ幼 「わー! すごい! 私も会ってみたいな!」
ヴェラ 「はっはっは、シーナ。私のマスターはもう居ないんだ」
シ幼 「むぅ……残念……でも、私はマスターがいるから平気!」
ヴェラ 「そうだ、私もシーナ。君がいるから平気だし元気でいられる」
シ幼 「マスターの事大好き! マスターも私の事好き?」
ヴェラ 「あぁ、もちろん。私も君の事が大好きだ」
シ幼 「やったー! マスター、私もっと強くなりたい! マスターと一緒に戦えるようになりたい!」
ヴェラ 「そうだな、ならもっと稽古をしないとだ。よし、シーナ。かかってきなさい!」
シーナ『私が12歳を迎えたころから、マスターは度々怪我を負って帰って来ることが多くなった』
シ幼 「ま、マスター! 酷い怪我…! 死なないで! マスター!」
ヴェラ 「大丈夫だよ、シーナ。魔王軍から街を防衛していたんだ、死なないさ。剣の誓いを覚えているかい? 私は君が一人前になるまで絶対に守り抜く」
シ幼 「ぐすっ……うん……うん……!」
シーナ『そして私が15歳になった頃、マスターは話を切り出した』
ヴェラ 「シーナ、今日で私から教える剣術の稽古は最後だ」
シーナ 「えぇ!? どういうことですか!? 私はまだまだ未熟なのですよ…?」
ヴェラ 「なに、剣術が最後というだけだ。ここからは魔術を教えて行く、退魔の力もそうだが…魔術が扱えない限りどんな力も使えない」
シーナ 「魔術、ですか……私にもできるのでしょうか……?」
ヴェラ 「私の弟子なんだ、できないわけがない。それにシーナ、君は才能の塊だ。自信を持ちなさい」
シーナ 「は、はい! 頑張ります! よろしくお願いします!」
ヴェラ 「物心がついてきて随分とおしとやかになったね、昔の君は剣を振り回してツボを割っていたのに。はははっ」
シーナ 「む、昔の話です! やめてください! もう、マスターは意地悪です!」
ヴェラ 「さて、シーナ。始めようか、魔術の特訓を」
シーナ 「はい! マスター!」
ヴェラ『私がびっくりするほどにシーナは術の覚えが早く、私が7年かけて会得した技のすべてを2年ほどで彼女は完璧にこなせるようになった。
そして、私の最後の役目を果たす時がやってきたのだ。』
(シーナ17歳)
シーナ 「ん……何の音………? こんな夜中に………誰か倒れて………マスター…? マスター!? マスター!」
??? 「…………」
シーナ 「あなたですか、マスターを……マスターを殺したのは………!」
??? 「聞きたいことがあるならば自ら言葉を引きずり出すんだ」
シーナ 「よくもマスターを……くっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
??? 「良い動きだ」
シーナ 「くっ! 卑怯です! 顔を見せなさい! 臆病者!」
??? 「その程度か? 私を殺すにはまだまだ足りないぞ」
シーナ 「私のマスターは絶対に人を殺めてはいけない、そう教えてくれました…でも。私は…今はその教えが正しいとは思わない!」
??? 「フン、ならばその力を見せてみよ」
シーナ 「やぁぁぁぁっ! 私のマスターは心優しく、常に私の事を考え、そして全てを教えてくれました……なのに!」
??? 「そこまで思われて、師もさぞ満足だろう」
シーナ 「あなたが……、あなたがマスターを! よくも……! はぁぁっ!」
??? 「ぅっぐ……ぐぅはっ……ゲホッ! ゲホッ!」
シーナ 「……私の勝ちですね。マスターの仇。さぁ顔を見せなさい!………っ!? え………? マスター……?」
ヴェラ 「っ……く…はっ………」
シーナ 「そんな……マスターはあそこで倒れていたはずじゃ………ぐすっ、どういう…ことですか……? なぜ私を襲ったのですか!」
ヴェラ 「シー……ナ、君にしては珍しい……勉強不足……だ。これ…は鏡の己という1年前に教えた技じゃ…ないか……」
シーナ 「私が聞いているのはそんなことではありません! どうして私を………!」
ヴェラ 「私が敵だとわかっていたら……君は本気で戦えなかっただろう………? すまない…シーナ…」
シーナ 「答えてください! どうしてこんな事を…! お願いです! マスター!」
ヴェラ 「天魔の力……その力を……君に……」
シーナ 「てん…ま…? なんですか……ます…たー…ぐすっ……ひぐっ……それは…」
ヴェラ 「力について…君が知る必要はない………。シーナ…顔をよく見せてくれ………その瞳……どこかエリスに似ている……」
シーナ 「今から治療すればまだ間に合います! マスター!」
ヴェラ 「シーナ。私にとどめを刺すんだ」
シーナ 「できません! …そんな…大好きなマスターを殺すなんて……できるわけがありません……!」
ヴェラ 「会った時の事を……覚えているかい? ……私の命令には従うんだ。殺せと言えば…殺すんだ」
シーナ 「でも!」
ヴェラ 「でも、は使うなと教えたはずだ。いいかいシーナ……私の最後の課題を君に……………あり…が……t…」
シーナ 「マスター……? ます…たー………。うっ…うわぁぁぁぁぁぁん!」
ヴェラ《良いかい、シーナ。私が次に最後の課題と口にしたとき、ここの棚を開けなさい。それまでは
絶対に開けてはいけないよ。もちろん、壊すのもだめだからね? はっはっは》¹
シーナ 「うっ…ぐすっ……ひぐっ………最後の……課題………これ…が…手紙………?」
ヴェラ〈これを読んでいるという事はもう私は力の譲渡を完了したんだろう〉
シーナ 「んぐっ……力の…譲渡……」
ヴェラ〈君は魔族の血ではなく最高位の魔龍族の血を引いている。私の退魔の力、そして私のマスターのエリスの天使との契約の力と
君の血が1つになった時。天魔の力が完成される〉
シーナ 「魔龍族……私が………?」
ヴェラ〈退魔の力よりずっと強力な天魔の力、それをもってすれば魔王軍を滅ぼすこともきっとできる。
最後の課題は魔王軍を全滅させてほしい。魔龍族の血を引く君にしかできない事だ〉
シーナ 「私に……マスターを超える力が………? そんな……」
ヴェラ〈もう一つだけ。君の住んでいた村の極東に光の差さぬ聖地と呼ばれる場所がある。そこで、私の仇を討ってほしい
私の誇りを、護ってほしい〉
シーナ 「マスターの仇………でも私が…私がマスターを………」
ヴェラ〈君に罪はない。誰も悪くない。きっといつかまたどこかで会える。それまではお別れだ。そして謝らせてほしい〉
シーナ 「謝る……? マスターが私に……?」
ヴェラ〈私の名前をこの7年教えてこなかったこと。名前を呼ばれるときっと私に未練が残っただろう。だから今教えよう、ヴェランド=レグルス。
君にこれからの幸福が在らんことを〉
シーナ 「マスター………うっ………ぐすっ……! ありがとう、ございました……!」
エリス 「あれが、あなたの弟子なのね。ヴェランド」
ヴェラ 「えぇ、マスター。僕にとって最初で最後の最高の弟子でした」
エリス 「死者の私たちには見守ることしかできない」
ヴェラ 「いいえ、マスター。マスターもそうだったように…弟子のこれからを見守るのが最後の仕事なんじゃないでしょうか」
エリス 「そうかもしれないわね、ふふっ、それでは弟子のこれからを見守ることにしましょうか」
ゾルダ 「誰だ? 女」
シーナ 「シーナ………」
ゾルダ 「シーナ!? エリスの娘か……? 答えろ! 女!」
シーナ 「エリス…? 聞いたことのない名前です…。私に名前を付けてくれたのはマスターです……」
ゾルダ 「見覚えがあんぞ…………てめぇ、7年前村を焼き払ったときに生きてたクソガキじゃねぇか。何しに来た」
シーナ 「マスターの、仇を討ちに……」
ゾルダ 「マスターマスターうるせぇんだよ……ったく、ヴェランドを見てるようでイライラ来るぜ」
シーナ 「ヴェランド……」
ゾルダ 「そうだよ、天魔の力だとかなんとか夢の向こうにとらわれて死んでった哀れな奴だ」
シーナ 「……取り消しなさい………」
ゾルダ 「あ? 口のきき方に気をつけろよ………? シーナだかなんだかしらねぇが…エリスと同じ名前かと思ったときは
正直焦っちまったがよ、おい。抜け、苛立たせた罪だ。ぶっ殺してやる」
シーナ 「エリス……マスターの師にあたる方……。後悔しますよ………?」
ゾルダ 「その目が気に入らねぇンだよ! 消えろ、女ァ!」
シーナ 「行きます……! マスター、今。私は最後の課題に挑戦します」
ゾルダ 「!? あの構えは…!? エリス? ヴェランド? 何者だ、お前!」
シーナ 「私は…私の名は……シーナ=レグルス……!」
終