まずはチュートリアル
「魔族代表……?」
「はい、そうです! あなたにはわたしたち魔族のために戦っていただきます」
「え、俺は人間を守るチート勇者になって美少女ハーレムを築くんじゃないの?」
「なんですかそれ、ちょっと夢見過ぎじゃないですか?」
ノーナは、ゲラゲラと笑った。
「そもそも、俺、人類なんだけど……っていうか、それはつまりキミは、人間じゃないの?」
「キミとかキモいからやめてください、ノーナでいいですよ、呼び捨て希望」
「あ、はい」
「それと私は人間じゃないですよ。さっきいったじゃないですか、女神です女神! ちゃんと聞いとけ?」
「女神……」
ノーナはその豊満な胸をえっへんと張った。
出会った瞬間よりもこの世界に来てから俺に対する彼女の態度がちょっと雑なんだけど、さっきまでは猫被ってたってことだろうか。
「今は魔族の民によって信仰されてる、すっごーい存在なんですよ? 魔族救ったら私とパコれるんですよ? 素敵でしょ?」
「なるほどー」
結局よくわからないのだけど、とりあえずわかったような返事をするのは悪い癖だ。
俺はよく知らない世界でよく知らない魔族とやらのために戦うらしい。
まぁ彼女とパコれるならいいよね!
「そもそもこの世界がどうなってるのか知りたいんですけど教えてもらっていい?」
「その微妙に敬語混じりな所も童貞っぽくてすっごくキモいですよね、いいですよ!」
なんとなくディスりながら彼女は俺の質問に答えてくれた。
「でもこの世界のことをわたしに聞くなんて冴えてますね。なにしろ、わたし実は、この世界を作った女神なんで〜!」
「えぇ、マジで?」
魔族の神なのか創世神なのか、設定があやふやで反応しづらいから誰でもこうなる。
「なんですかそのローテンション。これがマジなんですよ、超マジなんです! だからもっとテンションあげましょ?」
「えっ、じゃあノーナって今何歳なの? 実は超おばあちゃん?」
「えへへー、女性に年齢聞いちゃいけないのは異世界共通ですよ〜」
ノーナが白目をむいてものすごい表情を作ってくれたので、俺は本当に聞いちゃいけないんだなと悟った。
「まぁ、私は永遠の存在なので年齢とか概念ないので、お気に召すままですよ?」
俺はただ黙って頷いておく。
「で、創世神がなんで今は魔族の神様やってるの?
「よくぞ聞いてくれました! それが本題です! わたし今めっちゃ困ってるんですよ」
「困ってる」
「わたしは、まぁこの世界作ったんですけど、わりかし放置してて気づいたら人類がやたら繁栄しちゃってて……アイツらついに、神の領域にまで踏み込んで来やがったんです」
マジファックですよねー、とノーナはいう。
「それで、わたし、ちょっと神の座奪われちゃいまして。今は魔王になってるんです!」
「なるほど」
魔王のために働いてもらうってのはつまり、自分のために働けと、そういうことらしい。
「まぁしかも、現状の魔族ピンチなんですよねぇ、このままだと人類に屈服されちゃう的な? なので壮語さんには魔族代表として世界征服してもらって、わたしに神の座を返してもらいたいと」
あっけらかんとノーナはいった。危機感ねえな。
「そもそもだけど、この世界を作った女神だっていうなら、自分でどうにかできないの?」
「えへへ〜、そういう権限も全部取られちゃったんですねぇ」
「うわー」
「わたしだって最初は自分でなんとかしようとしたんですよ? でも、神の座取られちゃうと以外にできること少なくて。わたしの息のかかった人類に謀反企てさせたり、魔族使ってあれやこれやとかしたんですけど、あいつら神の力使って改心させちゃって……」
ウケるーとノーナは笑うがそれ全然笑えないらしいことは表情からあきらかだった。
「なので、これはもう異世界人に頼るしかないな、と! 異世界人ならこの世界の理に縛られないので洗脳もされないわけですし壮語さんを召喚したわけですよ!」
そう意気込んで拳を突き上げた彼女は、はぁ、と溜息をついてうなだれた。
「疲れました。こんな感じの説明で納得ですか? これ以上とかちょっとダルいのであとはまぁ適宜理解してください」
「なんて投げやりな」
「えへへ〜、だから神の座奪われるんですよ〜」
「……」
俺が言おうとしたことをノーナ自身にいわれてしまった。
「さて、ではチュートリアルをはじめます」
「チュートリアルなんてあるの!?」
「違いますよー。便宜的にわかりやすくするためにチュートリアルって呼んだだけです。失敗したら普通に死んじゃうので気をつけろ?」
もちろん死んだらリセットできません、と笑顔の彼女にちょっと薄ら寒いモノを感じた。
標題はだいたい嘘。チュートリアルは次回です