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2-2


「そういえば、何で東サンだけなの?」


しばらくおしゃべりをしたのち、佐倉はそう聞いてきた。

佐倉が疑問に思うのも最もだ。本来、図書委員は二人一組で活動する。今日の図書室にももう一人の委員がいなくてはならないのだ。


図書委員は週に一度活動があり、昼休みと放課後が潰されるために、帰宅部の生徒が委員になるのが暗黙の了解となっており、人気もない。そのため、私のクラスでは他の委員会に入らなかった帰宅部でジャンケンで決めた。そして、ジャンケンに負けたのが私と、男子生徒だった。しかし、その男子は塾に行っており、放課後の活動には来られない。そのため、放課後は私が一人で活動しているのだ。代わりに男子は昼休みを一人でやってくれている。それに、私はもともと本が好きだ。図書委員は少し面倒くさいが、本を読めるのは嬉しい。

そう簡単に説明した。


「大変だね」

「そうでもないですよ。そもそも人が来ませんから」

「ふぅん。確かに、人いるとこ見たことないかも」

「だから勉強とか好きなことできるので、結構楽しいですよ」

「自由でいいね。僕も図書室にこよっかなぁ。東サンがいるときだけ」

「…ハハっ」


佐倉のチャラい発言は割りと返しに困るので、取りあえず曖昧に笑っておく。異性と会話することが少ない私にはいい返し方が分からない。


それから、しばらく世間話をした。時々、遊びに誘ったり、口説くような軽口を言われたりもしたが、いたって普通の世間話だった。正直、佐倉と私でこんなに長く会話が続くなんて思いもしなかった。友達となら喋るが、人並みに人見知りな私は、積極的に誰かに話に行くことはない。

だから、佐倉との会話が楽しかったのは予想外だった。

もしかしたら、佐倉が私に合わせて会話をしてくれていたのかもしれない。


「もう、こんな時間だね」

「あ、そうですね。もうすぐ、図書室閉めなくちゃ…」


時間を見ると閉室10分前だった。図書室に夕日が差し込み、薄いオレンジ色に染まっていた。


「あ、目的を忘れるところだったや。」

「目的?」

「言ったでしょ。またおすすめの本教えて、って」

「ああ!」

そういえばそんなことを言われていた。すっかり忘れていた。

「せっかくですから、続きを読んだらどうですか?」

「え?あの本続きなんてあるの?」

「はい。」

「じゃあそれにする。どこ?」

「あそこの棚です」


おすすめコーナの横の棚を指さすと、佐倉は本を取りに行った。


「あ、あった」


本を手に取り、佐倉はふっと笑う。


夕日に照らされて、オレンジ色に染まるその横顔が、ひどく綺麗だった。あまりにも綺麗で、なんだか彼は人間ではないのではないかとさえ思える。きっと彼の顔が人形のように美しいせいだ。


「どうしたの?」


凝視しすぎたようだ。佐倉が不審そうに、カウンターへと戻ってきた。


「何でもないです。…本、おあずかりしますね」

「うん。」


本を学生証と共に預かり、貸し出しの手続きを終える。一週間前と同じように、佐倉はそれらをじっと見つめていた。


「返却は一週間後になります」

「また来週来るね。」

「はい。」

「じゃ、バイバイ」


佐倉は笑って、楽しそうに図書室から出て行った。

楽しい時間ではあったが、少し疲れた気がする。やはり親しくない人と長時間会話したからだろうか。

なんとなく、佐倉の夕日に照らされた横顔を思い出した。


「…帰る準備しなくちゃ」


思い出して、虚しくなった。


やはり、佐倉全は私とは遠い人だと感じた。





これで「金曜日の味」はお終いです!

お読みくださった皆様ありがとうございます。

誤字脱字などがあれば教えていただけるとうれしいです。

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