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1-3

何とか視線に耐えて、作業を終わらせる。


「学生証お返ししますね。」

「ん。」

「それでは返却期間は一週間後になります。延長は2回までです。延長する場合は、本をお持ちください」

「はーい。」


佐倉に本を渡す。


「…」


用は済んだというのに、佐倉はそこに佇んだままだ。見られているが、佐倉の身長が高いせいで目は合わない。しかし、いくら目が合わないからといっても、気まずいことには変わりがない。しかも、先ほどのように何かしている訳でもないので、居心地の悪さは倍増だ。


「…あの、まだ何か?」


沈黙に耐え切れず、口を開いた。会話が始まっても困るが、この沈黙は辛い。


「名前はなんていうの?」

「え?私のですか?」

「当然でしょ。他に誰がいるの」


いや、誰もいないのは分かっているけど、名前を聞かれる意味は分からない。


「…東実希です。」

「あずまみき。東サンね。」

「僕は佐倉全」

「知ってます」


有名人ですしね。いい意味でも悪い意味でも。


「そっか。」


特に驚きもしないあたり、自分でも理解しているのだろう。

彼は女子生徒に人気なだけではない。その気さくな性格から同棲の友達も多い。また、ここら一帯の学校のファッションリーダー的な存在でもある。髪型などはよく真似され、身に着けているアクセサリーの店も流行る。他校からも注目を浴びているのだ。


「ねえ、東サン。」

「はい」

「…東サンは、その…ね?」


佐倉が言い淀む。佐倉のことはあんまり知らないけれど、彼のそんな姿は珍しい気がした。


「んーん。何でもない。この本、読んだら感想聞かせるね。来週に返すからまたおすすめの本を教えてよ」

「え!?」

「いや?」

「そういう訳じゃ…」

「じゃあ、お願いするね」

「まあ、はあ…私の当番の時であれば…」

「当番はいつ?」

「毎週この曜日です」

「分かった、ありがとう。それじゃあ、また来週に」


そういうとふわりと佐倉は笑った。

意外な笑顔だと思った。いや、彼の笑顔なんてそもそもあんまり見たことがない。というか隣のクラスといえど、佐倉を目にすることは少ない。


「あの、」


しまった、思わず引き留めてしまった。

佐倉は振り返り、こちらを見ている。


「頬っぺた…お大事に」


苦し紛れに出た言葉はこれだった。これじゃあ嫌味に聞こえてしまうかもしれない。


「うん。ありがと」


はにかみながらそういうと、佐倉は颯爽と図書室から出て行ってしまった。

なんだか、照れくさい。


それに、佐倉にうまい風に約束を取り付けられてしまった気がする。本気なのだろうか。遊びだろうが本気だろうがどちらにしても困る。彼は女子に人気なのだ。変に目をつけられたとしたら大変だ。さすがに、いじめられるとうことはないだろう。

図書室だけで会うなら人目もつかないだろうが、廊下などで話しかけられたらどうすればいいのだろうか。


色々と考え始めると思考は暗い方へと行ってしまう。そんな思考を遮ったのは下校時刻10前を知らせるチャイムだった。

鍵を貸さなければならないので、急いで片づけを開始する。片づけといっても、自分の持ち物を鞄につめて機械類の電源を切るだけなのでそんなに時間はかからない。しかし片づけに時間はかからなくても、ここから職員室までは遠い。そもそも校舎が違う。


片づけを済ませ、図書室の鍵を閉める。早歩きで図書室へと向かった。

その頃には佐倉のことは頭の片隅へと追いやられていた。





これで一話「出会いの味」は終わりです。

読んでくださってありがとうございます!

誤字脱字などございましたら、教えてください…

では、二話でお会いしましょう!

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