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14 本気の恋の味


全くんと付き合ってから2か月が立とうとしていた。


彼との付き合いは私が思っていたよりも、ずっと順調に続けられていた。

夏休みの間は、時々一緒に出掛けたり彼の家でのんびりとすごした。家で過ごすときは、お互いの話をゆっくりと語り合うことが多かった。

学校が始まる時はいじめられやしないかとびくびくしたが、その気配は全くと言っていいほどなかった。それは全くんが夏休み中に手をまわしてくれおかげだと知れたのはつい最近だったりする。


全くんの髪の毛も、本来の色に戻りつつある。まだ、金色が毛先に残っているけれど、あと一か月もすれば無くなってしまうだろう。

私と彼の日々は、過ぎて行った。彼が望んだとおりの普通の日常だ。


ちなみに、全くんと私が付き合っているのは学校中に知れ渡っている。もちろん、全くんが有名人だということもあるが、理由はそれだけではない。彼は思ったよりも解放的な人物だった。

休み時間は、移動教室の時以外は私の教室にやってくる。ご飯も一緒に食べることが多い。その時に全くんは私に触れたがるのだ。それらは所謂「バカップル」と言われるようなスキンシップの仕方だった。顔から火が出るほど恥ずかしかったのだが、これが彼なりの甘え方だと思うと無下にもできない。


全くんは大人になったと思ったこともあったけれど、やはり子供っぽいところも多くある。彼はすぐに「好き」という言葉を使い、肩を頭にのせて甘えてくる。恥ずかしくはあるが、嫌だと思っていないあたり私も相当末期かもしれない。

そんなことをしていれば、当然学校での公認カップルになり、全くんに言い寄る女子はほぼいなくなったので、ある意味よかったのかもしれない。

美子は少しミステリアスなところが彼の魅力の一つだったのに嘆いていた。


「実希?」

「え?」


全くんに名前を呼ばれて、意識が戻った。物思いにふけっていた私を少し心配そうに見ている。


「考え事?」

「ううん。ちょっと思い出してただけだよ」

「そっか」


今日は金曜日なので私は図書当番で図書室に来ていた。相変わらず、来る生徒は少ない。真面目そうな男子生徒が一人、意外にも恋愛小説を借りていったぐらいだ。

全くんは私の横に座って、カウンターのしたで私の手を弄んでいる。

金曜日は一緒に帰るのが定番になっていた。いつの間にか全くんは私の横に座って待つようになった。


「実希」

「ん?」


手を弄んだまま、全くんが話しかけてくる。


「両親の離婚が決まったよ。」

「…そう。」


その話は前々から聞いていた。

一か月ほど前に、父親に言われたらしい。全くんも二人はさっさと離婚した方がいいと思ったらしく、口は挟まないと言っていた。


「僕、父さんについていくことになった」

「えっ…でも、」


お父さんは愛人もいるし、その愛人との間に子どももいるはずだ。全くんがお母さんを毛嫌いしていることは知っているが、それでもお母さんの方についていくのだと思っていた。


「大丈夫、ちゃんと父さんと話しあったから。」

「そうなの?」

「うん。ずっと嫌いだったし、父さんも僕のことを嫌ってると思ったんだけど…違ったみたい。」


何がおかしいのか、くすくすと全くんは笑い始めた。話し合いのことを思い出しているのだろうか。


「思ったより会話もできたし、話し合って父さんも不器用なんだなって分かったよ。文香さん、父さんの愛人とは今度の日曜日に会うことになってる、もちろん文香さんの子どもとも。父さん曰く、文香さんも僕を受け入れるつもりでいるらしいよ」

「お父さんはその人と再婚するんだね」

「僕もそうした方がいいと思うよ。もっと早くそうするべきだったんだ。」


笑顔が消えて、表情が陰った。


「…でも、ちょっと不安」


私の肩に頭を乗せる。これは甘えたいときの合図だ。私はそっと全くんの手を握りしめた。


「話し合ったっていっても、今までの時間が戻る訳じゃない。僕が一人だったことには変わりはない。

…僕が、父さんの家族を壊しちゃったらどうしよう?だって、僕は家族がどういうものかもよく分かってないのに。」


その声は不安で震えていた。

彼はやはりアンバランスだ。びっくりするぐらいに大人びる時があるのに、小さな子どものように縮こまる時がある。彼はとても不安定だ。

あやすように、頭を撫でる。あの時と一緒だと思った。違うのは私たちの関係と、明確になった私の想い、それと今までで知ることができた全くんのこと。


「私は、全くんのお父さんのことも、文香さんのこともよく知らないし分からない。けど…今の全くんは知ってるよ。今の全くんは、そうやって人のことを考えられる。「壊しちゃうかも」って思ってるのがその証拠だよ。上手くやっていけるかどうかはやってみないと分からないけど、全くんがやろうとすること自体にも意味があると思う。」

「・・・」


私の言葉に、全くんは静かに耳を傾けていた。


「もし何かあったら、いつでも私のところに逃げておいでよ。」

「逃げてもいいの?」


ちょっとおかしそうに、全くんが言った。私も少し笑って答える。


「逃げることも必要だよ。」

「…じゃあ、何かあったら実希の元へ逃げるよ。だから、」


顔を上げて、私を見る。優しい目、優しい表情、大人びた顔。


「実希も、何かあったら僕の元へ逃げてきてね」



(ああ、私は彼のことが好きだ。)



胸がいっぱいで、言葉に詰まった。代わりに大きく頷いて見せる。

そんな私を見て、全くんは子供っぽく笑った。そしてゆっくりと、私の唇にキスをおとした。


何となく、甘いような味がした。




これで本編はお終いです!!

「本気の恋の味」読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!

感想、ブックマークなどありがとうございました。とっても励みになりました

おまけを一話投稿して完結にしようと思います。

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