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11 電話の味


その夜、私は美子に電話をして佐倉と仲直りをして恋人同士になったことを報告した。

美子は佐倉に対して恋愛感情は持っていないが、「ファン」だと公言している。どういわれるか少し心配していたが、「私の作戦のおかげね」と言われて、安心した。胸を張っている姿が目に浮かぶ。また、詳しいことは明日あって話そうということになった。


寝る間際に、ベッドに寝転がりながらスマホを見た。そこには今日佐倉と交換したばかりのメールアドレス、電話番号が登録されている。もちろんラインも交換してある。


今日はとても色々なことがあった。しかし、佐倉のことを知ることができ、自分の気持ちもはっきりとさせることができた。大きな進歩だと思う。

もう寝ようと思ったとき、手に持っていたスマホが震えた。見ると、佐倉からだった。

初めての電話で、少し緊張しながら通話ボタンを押す。


「…もしもし?」

「もしもし、東サン?僕だよ」

「あ、はい。あの、どうかしました?」


数時間ぶりに聞く佐倉の声に思わずベッドの上で正座をしてしまう。私はこの人とと付き合っているのだと思うと恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだった。


「…東サンって、僕に敬語つかうよね。」

「え?」

「普通にしゃべってよ。」


佐倉少しすねた口調がかわいらしい。そういえば、私はどうして佐倉に敬語を使っているのだろうか。もともと、少し人見知りな私は最初誰にでも敬語を使ってしまう。仲良くなるにつれて敬語は抜けていくのだが、佐倉には敬語のままだ。


「あと、名前で呼んでほしいな。僕も東サンのこと実希って呼びたい。」

「え、あの…はい、じゃなくて…うん。分かった。」

「じゃあ、はい」

「え?」

「名前、呼んで?」

「あ…全くん?」

「うん。…実希」


甘い会話が恥ずかしくて、一人で赤面してしまう。思わず、近くにあったクッションで顔を抑えた。付き合うとはこういうことなのだろうか。こんな恥ずかしいことを恋人たちはやっているのか。


(落ち着け…。)


心のなかで深呼吸をする。

電話の向こうで、全くんが笑っているのが感じられる。まるで私の動揺した様子を知っているようで、余計に恥ずかしい。

全くんは少し笑った後また話し始めた。今度は真面目なトーンだ。


「よかったら会えないかな。ちょっと話したいことがあるんだ」

「うん、いいよ。」


全くんの真面目な声につられて、少し気を引き締めた。


「よかった。都合のいい日にちとかあるかな?」

「明日は予定があるから、それ以外なら」

「うーん。じゃあ今度の土曜日はどう?」

「大丈夫だよ。」

「よかった。ゆっくり話したいから僕の家に来てほしいな。」

「分かった。直接向かえばいい?」

「…ちょっと我儘言っても…いい?」

「え?」


普通に話していたはずなのに、全くんは急に甘えた声をだした。この声を聴くと何だか逆らえない。甘やかしてしまいたくなる。全くんのこういったところもモテる要因の一つだろう。


「いいよ。」

「待ち合わせしたいな。」

「待ち合わせ?」

「待ち合わせって恋人らしいって感じがして…」


恥ずかしそうにそう言う全くんは女顔負けの可愛らしさだ。声だけでその可愛さが伝わってくる。

でも、全くんも待ち合わせはしたことあると思うけど、何が違うのだろうか。しかし、こんな可愛らしい我儘を断るわけにはいかない。


「いいよ、待ち合わせしよう。」

「ありがと!じゃあ、二時に今日と同じ駅前の広場でいい?」

「わかった、二時だね」


全くんが笑っているのが声で分かる。このぐらいで喜んでもらえるならいくらでも待ち合わせをすることができると思った。

私は自分が思っていたよりもずっと全くんのことが好きらしい。


「…それじゃあ、もう遅いから切るね」


すこし残念そうにそう言ってくれる声に、嬉しく思う。


「うん。お休みなさい」

「…お休み」


本当はもうまだ話していたかったが、また会えるのだからと電話を切った。

明日美子と会う時に、女の子らしい服を選んでもらおうと思いながら部屋の電気を消す。

暗くなった部屋で、自分の心音がいつもより大きく聞こえた。その鼓動を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じた。




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