7 過去の隠し味
主人公以外との性交をしたということが書かれています。また、性交をにおわせる文章もございます。苦手な方はお気を付けください。
物心ついたころから、両親は僕のそばにいなかった。父方の祖父母のもとに預けられていたからだ。
祖父は厳しい人だった。男は強くなくてはならないという古い考え方のもと、弱音をはいたり泣いたりすると、竹刀で強く叩いた。祖母はそんな祖父に何も言えず、ただ悲しげな眼で僕と祖父を見ているような人だった。
小学校でもいじめられていた。髪の色が原因だった。
ある日、誰かが僕の髪色が変だと言った。くすんだ明るい茶色の髪の毛は、母方の祖父のロシア人の影響だった。顔は他の人よりも鼻が高くて色が白いくらいで、髪の毛だけが浮いていた。
小学校5年生の頃に、祖母が亡くなった。僕は悲しかったかどうかも覚えていない。ただ、祖父からの折檻が強くなり、殴られない日はなかった。そして古い人間である祖父が家事などできるはずもなく家は瞬く間に荒れていった。
中学に上がる時には祖父も亡くなった。それから、僕は時々しか会っていなかった両親に引取られた。
上がるはずだった中学には行けず、知り合いのいない学校に放り込まれて、高いマンションのなかに入れられた。そのころから両親は帰ってくることは珍しく、お金だけを置いて行った。
そして中学では、環境が変わったおかげで自分の顔の良さを知ることができた。だからそれらを利用して多くの友達を作った。いじめられないためにはカーストの上位に行くのがいちばんだったからだ。しかしその友達は、もう名前も顔も覚えていない。
女の味を知ったのは中2の頃だった。誰もいない、あの無機質なマンションに帰りたくなくて、深夜に町を徘徊していた時に化粧の濃い女に誘われてついて行った。思春期でセックスに興味もあった。
セックスは気持ちがよかったが、こんなもんかと思うだけだった。
だけど、家に帰りたくない僕は、夜に出歩いては誘われるままに女の家に上がりこんでいた。
ある日、夜の街を歩いていると父親の姿を見かけた。女と腕を組みながら歩いている。家ではにこりともせずに、無口な父親のくせにその女の横では楽しそうに笑っていた。母よりも美しくない、真面目そうな普通の女だったのに。
その日は誰かと寝る気にもなれず、家に帰った。すると珍しく母親が家に帰ってきていた。
男を連れ込んでいたのだ。リビングでは、男と話す声がする。
「いいの?旦那さんと息子がいるのに」
「かまいやしないわ。旦那も他に女がいるもの。息子は…あの子、可愛くないのよ。髪の色だって汚いし。私あの髪大っ嫌い。」
「ひどい人だね。」
「んふふっ。でもその意見だけは旦那も同意したわよ。」
その会話を聞いて、僕は静かに家を出るしかなかった。
どこにでもありそうな現状だと思った。ドラマか、小説か、はたまた誰かが経験しているような状態だ。
そんなありきたりな悲劇の中で、僕には居場所がないのだとその時に初めて気が付いた。
「過去の隠し味」はこれでおしまいです
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