めげない挑戦者
勇者ボルトがボス部屋に来た。言葉の意味のまんまである。
最初その報告が入った瞬間えって声が出た。あれだけゴーレム層で戦っていたのに何の前触れもなくボス部屋に入るとは思わなかった。
実力的にもまだ未熟って人が変わったように自分で言っていたとま又聞きしたけどなぜ?殺さないと命じているが、死ぬことはたまにあるくらいだ。それにアルの噂くらい聞いているはずなのにどうして?
それよりもさらに驚くことがある。パーティーメンバー減ってない?前は4、5人くらい居たはずなのに勇者含めて3人まで減っている。
それなのに前に卑怯臭かったが色々あって負けたダンジョンボスに立ち向かうか?うーむ、全く心境が分からない。
もちろん会話はモニター越しで聞いている。
『そういえばお前を見るのは初めてだったな』
『シュコー…………シュコー…………』
『どんな火を噴く化け物と思っていたら案外普通のタイタンだって知った時は驚いた。何か道具を使ってたかトラップだろう?』
『シュコー…………シュコー…………』
『あの、雰囲気壊しますけど元々タイタンは喋りませんわよ?』
『それでも少し言っておきたいことがあったんだよ。それに向こうも待ってるし話を聞いて理解する知能は持ってるよ』
『シュコー…………シュコー…………』
『お喋りはこのくらいにして、さあ行くぞ!』
戦いに火ぶたは切られた。勇者一行は三人で固まって行動してバラバラにならないようにしている。そんなに固まって行動したらハンマーで薙ぎ払われないか?
そう思っていたが、シスターっぽい人が魔法で三人分の守りを固めてから勇者がアルの攻撃を受け流し、ハンマーを受け流され切った隙に魔法使いが攻撃の魔法を放った。
なるほど、下手にばらばらになった個別で行動するより固まったうえで自分の役割を全うしているのか。
見事な連携だな。あの時のような守る俺カッケープレイをしなくなったのはいい傾向だ。その方が明らかに強いもんな。
アルのハンマーをよく弾くなぁ。あの感じだとシスターの援護かな?あ、魔法使いの唱えた魔法が勇者に引っ付いてるから違うようだ。
けれどもさ、やっぱり人と巨人の元々のスペックが違うってのもはっきりとわかる。
勇者と呼ばれる人間の中でも特に優れている人物が仲間と一緒に戦うことでようやく張り合えているんだ。普通なら相手にしたくないような話だし、すでに情報は俺があえて漏らしたんだが…………
やっぱり己の限界を知るためなのか?
『くぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇ!』
『シュコー…………ッ』
おっと、叫ぶような声で勇者がアルに斬りかかった!仲間の援護でアルの顔面に魔法が放たれたため目くらましになったおかげでろくに防御できずアルが斬られた!
『ようやく、一撃!』
確かにしっかりとした一撃は入った。けれどもアルのHPの一万分の一すら減っていない。
分かりきっていたこととはいえ、なんかなぁ。たった三人でアルに傷つけたんだし後で褒美という形で何かしらの融通利かせてあげよう。
この10分後、彼らはアルの前で力尽きた…………
〜●〜●〜●〜●〜
「はぁぁ…………やっぱり駄目だったかぁ」
宿屋にある食堂スペースで一人で飯を食っている勇者ボルトは英雄の卵である。その潜在能力やセンスは人類の中で発展途上なままでも上位に値すると言っても過言ではない。
それ故彼は慢心していた。たくさん言い寄ってくる女を相手にしていい気になっていたのがつい最近のことのように思える。
初めての敗北はここを恐らく初めて見つけた時だった。
できたばっかりで簡単なダンジョンだと思いきや、階段を下りる最中でパーティーメンバー全員が炎に巻かれて大火傷してしまう。そのせいで一人パーティーから抜けてしまった。
あんなところに罠を仕掛けるのが悪い。今までずっとそう思っていた。
だが、その数か月後にリベンジする日が来たのだ。
それまで少しずつレベルを上げ、装備も譲てもらったものばかりだがきちんと整えた。そしてダンジョン攻略に挑んだのだが…………
魔物は絶妙な強さでなかなか先に進めないわ自業自得とはいえアクシデントで剣が折られるなどさんざんな目にあってきた。
だがしかし、それが彼自身を見直すきっかけとなった。
自分はどれだけ調子に乗っていたか、自分より強い人はたくさんいるのだと認識して自分の行動を考えるようになった。
少し変わりすぎではないかと思うが、これが勇者の名を持つ者がほとんどと言ってっも過言ではないほど通る道だ。なお、勇者ボルトがそれを知るのはもう少し先である。
「ふう、明日は休もうかな。そろそろ体を休めないとレベル上げの効率が悪いっていうし」
そして今日はリベンジして負けた。まだまだ伸びしろがあると実感できただけ収穫と言える。
やはり剣が一番性に合う。彼はこれからも嫌疑を磨く日々が続くだろう。
「あ、あの、勇者様でいらっしゃいますか?」
飯を食い終わて皿を片付けようとした時だった。口調が危うい見知らぬ少女がタイミングを見計らったように声をかけてきた。
「ああ、いかにも僕が勇者ボルトだ。何か用でもあったのかな?」
「あと、ええ、その、ちょっと協力してほしいなー…………なんて」
「ちょっとなら僕じゃなくてもいいんじゃないかな」
「い、いえ!勇者様がいちばんいいというか、その、あうう…………」
喋りたいことをうまく喋られないのは分かった。だけどこんな目的が不明瞭な協力はできないしこれからの予定も埋まっている。
断るまでにかかる時間はそんなになかった。
「悪いね、こう見えてることがいっぱいあるんだだから君にかまってる時間はないんだ」
「そ、そうです、か…………」
前の自分だったら何も考えず予定を変えてまで彼女に協力していただろう。彼はそんなことを思いつつ食器を片付けに行った。
「…………かみさま、上手くいかないものですね」
その判断が正しいのかどうかは、まだ誰も知らない。




