勇者はもっと求めたい
「あぁん?まさか本当に居座るとは…………」
こちら北町健五、勇者ボルトがうちのダンジョンの近くの宿屋に泊り続けてます。
しかも毎日のようにダンジョンに入ってくるし、俺も勇者もちゃっかり儲けてるから悪くはないんだよなぁ。
ただ、何故ここに固執してるんだろうかと言うほどダンジョンに挑んでくる。
いやさ、毎回毎回ポイントを多く貰えるのはいいけど意味は他にやる事があるんじゃないの?ほら、魔王を倒すとか?
今となっては世間的には魔王を倒す理由がどんどん薄れていってるけど、英雄の器ってことは間違いないよ。
だったら他のところで?誰かを救うことはしないのか?
うーむ、、謎だ。地力を上げるにはうってつけかもしれないけど師範が来たとか情報は俺の耳には入っていない。有名どころが来たらすぐさま俺の耳に入る手筈になっているからな。さすがに誰も分からないように隠蔽していたら無理か。
俺だってすべての有名人を知っている訳じゃない。むしろ知らない人物のほうが多い。
「ご主人様~、また勇者ボルトが来ましたよー」
「毎日毎日懲りないな。さすがに宝箱のドロップ率下げとくか」
「ですねー」
戦うことはもちろんしているが主に宝箱の中身とって引き返すの繰り返しだ。調子がいい日はゴーレム部屋で経験値稼ぎをしているのを見かける。
油を売って得るのと変わりはないんだが、はてさてどうしたものか。
そもそも勇者って何するの?それこそ知らないな。もしかしたら忘れてるだけかもしれない。
「と、言う事で聞きに来たんだが」
「喧嘩屋、書物で読めばわかる」
「人の口から聞くのが一番かなーと思って」
ギルド『フェニックス』に足を運んでギルドマスターに聞くことにした。
だって、実際ギルド経由で話してるわけだし知り合いらしい知り合いってギルドマスターだけだもん。
リアルぼっちと言わずして何を言うか!
ちなみに、ハピとギルマスの孫を遊ばせるために来たわけでもある。一応、約束してるもんな。
ぶっちゃけついでにだったんだけど、そこは黙っておく方が美談だ。
「ダンジョンは、いいの?」
「ああ、任せてある。それで最近勇者が居座ってるんだけど、ダンジョンに入り浸りだと何かあったりするんじゃないか?」
「いや何も」
「何もって、じゃあ勇者って何のための職業なんだよ」
「その年の中で純粋な才能を持ち、のちの英雄になる職業、成長もはやく、即戦力になる、勇者ボルトは『ケツァルコアトル』に所属している」
なるほど、どうやら勘違いをしていたようだ。ゲームのように勇者という職業が世界を救う役割を担うのではなく、勇ましく強い者としての補正をかける職業だったということか。
話を聞く限りだと勇者から分岐して聖騎士や大賢者などの英雄がなる職業に分岐しやすいのか。そのまま勇者で一生を終える者もいるらしいが万能型として重宝されるんだとか。
確かに戦闘だけじゃなくて回復やサポートもできるイメージがあるな。そういう意味では未来の地盤固めのためにある職業ということか。
ごめん勇者ボルト、君のことを世界を救うから調子に乗ってるハーレム野郎と勘違いしていたよ。ハーレム野郎は間違ってないが。
確かに安定するダンジョンがあればどの職業が自分に合ってるか見極めやすいな。入れる回数は限られてるけど練習にはもってこいだ。そりゃあ居座るよな。
まあ…………未発見だった時期に勝手に入ってきたのはいただけないと思うがな。
「勇者ボルトといえば、少し前からおとなしくなってると、何か知ってる?」
「さあ?見えないところで何回か挫折したんじゃないか?」
初対面、と言っても一方的にモニター越しで見ていただけだが炎で焼け死ねみたいなことを言った気がする。実際に焼かれて自尊心がある程度ひびが入ったんだろう。
そのかいもあって今は勇者ボルトの株が割とあがってるしな。
「喧嘩屋、いいお茶が入った、飲もう」
「お、いいのか?それじゃあありがたく」
こうしてのんびりとお茶を飲みながら近状の雑談などをして時間を過ごすのだった。この茶うめぇ。
〜●〜●〜●〜●〜
ギルドを出るともう日が暮れ始めていた。随分長く話し込んでいたようだ。
ハピは俺の肩に座って蜂蜜のジュースを吸っている。甘い匂いが全体的に広がって振り返る人もちらほらいる。
そろそろ外で蜜を吸うのをやめないかと思ったその時だった。
「きゃっ」
「ん?大丈夫か、ちゃんと前を見て気をつけろよ」
「あと、え、その、ごめんなさい」
とたとたと横から走ってきた少女が俺にぶつかってしりもちをついた。もちろん俺はよろける事すらなかった。
「走ってくるほうが悪いんですよ。こんな人通りでぶつかりますというようなもんですよ」
「悪く言いすぎるな、言っちゃあ面倒だぞ」
「い、いい、いえ、私が悪い、ンですから」
もはや混乱の異常状態にかかっているんじゃないかというほどのパニック具合にこっちが焦りそうだよ!顔色も悪いし、こんな調子で本当に大丈夫なのか?
「えと、あ、は、はい、すみません!」
急いで立ち上がりとたとたと走り去っていった。なんか心配だが、そう簡単に情を入れたりないさ。
さて、今日もハピの蜜壺との格闘が始まるんだろうな。早く風呂入って寝たいぜ。
もちろん、翌日も勇者が来てダンジョンで鍛えることに励んだとさ。どんな道を歩むかちょっと楽しみだ。