表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/64

魔界よ魔界、王は何処へ

「魔王様、この書類の件ですがよろしいで…………また寝てる」


訣別の日(周りが勝手に言っている)からかなりの時間がたったある日の魔界の昼下がりだった。


健五に振られた魔王ウェーンはすっかり怠け者になっていた。失恋のあまり燃え尽きて肺になったというべきだろう。


ショックで寝込むのは良いが、治った後でもこのように怠けてやる気を極度に無くした姿はあまりいいものではなかった。元々、書類仕事をするほうではないがこうなってしまうと威厳というものがなくなる。


このままではいけないと何度も発破をかけたものの立ち直るさ様子は一向にない。早く立ち直って我々の仕事をもう少しでもいいから楽にしてほしいんだが…………」


「…………途中から口に出ておるぞ」


「おっと失礼しました」


「その液体は口から出すな…………Zzz」


「な、なんとただの寝言…………」


起きてるかと思いきや実際は目を半開きにしたまま寝ていただけだった。なんとも器用な寝方である。


失恋という名の大きな挫折、人生でとある大博打に失敗した者が味わうほろ苦い挫折だ。


立ち直れるかどうかも本人次第なのだが、この調子だとまだまだ時間がかかりそうだ。


そもそも人間と魔族は根本的なものから違う。代表的な比較対象が寿命だ。人間は長くても80年で寿命が尽きるが魔族はその五倍、400年も生き続けるのだ。


それ故に戦争の恐怖や命の大切さなど、健五が言うと『道徳』の大切さを長年にわたって説いているのだ。


一方で人間は何世代も代替わりしているのに魔族絵の恨みや憎悪が晴れる様子がない。短い生であるが故に執念深いのではと長年民族の研究をしている魔族の専門家は言う。


「起きてください!仕事が溜まってるんですよ!」


「あと一時間寝かせてくれ」


「ほら、魔王様が大好きな千人組手ありますから!どうか少しでも動いてください!」


「そんな気分じゃないから後日に回せ」


「王が千人組手を後回しに下だと!」


「大嵐の前触れじゃぁぁぁ!」


爺やとバガンが執務室に乱入してきた。どうやら盗み聞きしていたらしく魔王が絶対に食いつく提案を蹴ったことがとても信じられない様子だった。


そもそも爺は一応裏の顔でもあるため盗み聞きしていてもおかしくはないが、何故バガンが居たのかは不明である。


しかし、心配していたことには代わりない。いい部下を持ったものだと誇れる。


「魔王様!いくらなんでもあんまりです!割とみんながうんざりしているけど無ければ無いで物足りないと言ってるんですよ!」


「そうじゃ、我儘言わないせいで仕事は捗るものの物足りないという人が続出して抗議が来てるのじゃ。これはこれで妙なことじゃが…………」


このような状況になるのは生きていてはじめっ手だった爺は困惑する。むしろわがまま放題のほうがいいと頼む家臣って何なのか。苦労の原因がないとやりがいがないというのか。


しかしこのままだと徐々に政治も士気も低下していくのは確か、解決策を見つけなければならない。


「はて、どうしたものか…………」


「爺や殿も仕事があるんじゃないですかな?」


「バガンこそも持ち場に戻るべきであろう。魔王様、何かあればこの爺やを呼んでくだされ」


そういって三人は執務室から出ていった。しかし、魔王はぼーっとしているだけで何もする気配はない。


「あー、暇だのぅ…………」


自分一人しかいなくなったと思い独り言をつぶやく。ここに大量の書類がある時点で暇ではないと人がいたらそんなツッコミをするのだがこの場にはそんな人物が誰もいないので言えることだ。


もう何事に関して全力だった彼女は文字通り燃え尽きていた。まさしく燃え尽き症候群である。


憧れの恋という一つの炎が消えたことで気力を失った魔王はただただ自堕落な日々を過ごしていく。


「でちー」


この鳴き声(?)が聞こえるまでは。








〜●〜●〜●〜●〜







「魔王様ー?書類のやつ終わりましたかー?」


いつも通り書類仕事が終わったかどうかの確認をしに来た一人の女魔族が執務室の扉をたたく。返事がないので無断で入室した。


普通ならおかしいところだが、ここ最近は魔王があんな調子なので許可を事前に得た状態なのだ。


「あら、いない?お手洗いに言ってるのかしら」


けれども扉から出たような形跡はない。そして開いた窓から入ってくる風でカーテンが揺れているることで事態を把握した。


何か残していないかと机の上をすぐさま探した。書置きのようなものが見つかったとはいえ解読しがたいものだった。


「『でち』?しかもこんなに大きく書いて何なの…………?」


この怪文書は四天王や幹部だけでなくどこからか話が漏れたことで民まで解読を解読を始めるも誰も読み解くことはできなかった。


しかし、魔王ウェーンは少なくとも魔界から出てはいない。特殊な道具が境を保護しているため魔王といえど無許可で通り抜けることは難しいのだ。


普段はあらかじめこっそりと職権濫用していたからこそ人間界に行けただけであって本来なら彼女も人間界に行けないのだ。


一応、人探しとして手配はしたがいまだに見つからない。


噂だと旅に出たとか、ある噂だと失恋のせいで深淵に行き自殺したと、誰も知らない土地に招待されたとかかなんとか。まあ、あくまで噂である。


「でちー」


それと同時にある与太話ができた。『魔王城で人形のような小人を見た』と。


しかし、魔王が行方不明という話よりインパクトが薄いため自然に聞くことはなかった。


「でちちー」


魔王はまだ見つかっていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ