後の大咆哮乱
アルの暴走を止めてひとまず地上に出る。ハピの心配もあるがダンジョン内だから大丈夫だろうと思い後回し。
「パニックになってる奴を抑えろ!力ずくでも抑えろ!」
「ウワァァァァァァァァァァァ!」
「暴れてるぞ!抑えろ!」
そこらかしこで完全にパニックを起こしてやがります。思った以上に混乱している。
おそらく咆哮を聴いた冒険者があまりの恐ろしさにパニックに陥り錯乱してしまっているのだろう。
今すぐにでもここから逃げ出そうと必死になっている。怖すぎて暴れる始末だが…………
この状況をどう止めるかなんて俺には無理だ。一喝できるようなカリスマもないし、ここは他の冒険者のように混乱を収めるのを手伝うしかない。
あ、『ヴァルキリー』のメンバーが鎮圧する側にいる。もうここまで戻ることが出来てたのか。まあ帰り道は簡単に通すよう誘導する設定にしてあるからな。
「ちょ、いだだだだだ!?」
「おっと、暴れるなよ」
混乱している冒険者にアームロックをかけながら正気に戻していく。攻撃されない程度に痛めつけるのがベスト。
母さんを止めるために学んだ技術が役に立つなんて世も末だ…………
事態は10分程度で予想よりも早く収まりパニックは収まっていった。
しかし、人々がなぜパニックになったか聞き始めて彼らはこう答えたのだ。
「地獄に住んだら化け物のような恐ろしい雄叫びが聞こえた。あの怖さは聞かないとわからない…………」
と震えながら伝えたのだ。
一応、ね?俺がダンジョンマスターやってるって大体の人が知ってるからさ、自然に視線が集まるんだよね。
そして何が起きたか一から説明しなきゃいけない状況になる。だが1人でやるのは面倒だから『ヴァルキリー』を巻き込んでな!
…………
……………………
………………………………
気づけば夜になってました。弁明弁明うるせぇんだよ!ここは追求する場だけどそこまでする必要ないだろ!
めっちゃ文句言ってくるから二度と来るなと言いそうになった。経営者ってクレーム対応やったらこんな心境になるんだろうか?
くそ、働いてなかった分の経験がないせいで上手く立ち回れない。結局は『ヴァルキリー』のメンバーに手助けもらったし。地味に説明がうまかったなあいつら。
分かり切っていたことだが、やっぱりこういう問題が出てきたか。
『クレーム対処』にいちいち俺がでるのも威厳とか社会的立場とか薄れていくから控えたいところだ。
うーむ、さすがに一人で考えるもじゃあ限界がある。一度、ギルドに戻ってギルドマスターあたりに相談しよう。
最下層の生活空間に居座られて内情がバレても別に問題はないから普通に人間を雇おうかな?
ああそうだ、一旦ダンジョンの入り口を閉鎖したからハピを回収しないといけない。幹部クラスは全員に端末を配っているから場所を見つけるのは簡単だ。
さて、どこにいる?そう思って確認してみるとダンジョンの生活階層にいた。よかった、どこかでショック起こして倒れてたらどうしようかと思ったぜ。
ひとまず戻ろう。どうせ「なんで探してくれなかったんですか!」とか文句を言われるのは確定だろうけどな。
「なんでダンジョンに入れないの?入れさしてくださいよスケルトンさん」
「残念ダガ今日ノ営業ハ終了ダ。マタ明日ニ来テクレ。アト我ハすけるとんデハナイ」
「そんなぁー!そこを何とかすけるスケルトンさん!」
「……………………ダカラすけるとんデハナイ」
閉鎖のため入口に立たせた死神は外でも舐められてる、ちゃんとメモをしておいた。もちろん改善点としてな。
戻ったら戻ったでとても面倒…………んんっ、大変なことになっていた。
ハピ、なんでそんなきらびやかなクッションの上に寝そべって不貞腐れてんの?
「つーん」
「…………………………………………」
そしてそれをメジェドさんが見下ろしているという、どう見てもハピが生贄にしか見えない件について。
しかも口でつーんって言っちゃうのか。
あとメジェドさん俺を見ながらぐるぐるとハピの周りを回らない。完全に生贄の儀式になるから。
「つーん、えっ、なんか地面光ってます!?何が発動するんですかぁ!?」
「ストップ!メジェドさんストップ!どう見てもヤバいやつだ!」
「…………………………………………」
ツンツンして寝そべっていたハピのクッションの下が光り始めて焦り始める俺たち。流石に止めたらメジェドさんが歩くのをやめて光も収まった。
ガチで生贄の儀式にしか見えなかったぞ…………
「うわーん!やっぱりあの布のお化け怖いですぅ!」
「メジェドさん、本当に何がしたいんだ…………?」
「…………………………………………」
泣きついてきたハピをあやしつつメジェドさんに聞いてみるが、やっぱり何も答えてくれない。金時でさえ体の震えだけで感情を読み取れるのに。
最も分かりにくい人物(?)ナンバーワンを譲らない姿勢は認める。
「うう、怖かったです。あの殺気立った女騎士たちも地獄の底にいそうな叫びも儀式も…………」
「よしよし、怖かったな。それとかまってあげられなくてごめん」
「もう激おこなんですから!着火しちゃいそうなほどですから!」
「焼くな妬くな」
ぐずりながら俺の頬を叩いてくるハピはじゃれついてるとしか思えない。何故かのほほんとした空気になっていた。
「タダイマ戻ッタ。封鎖シタコトデ冒険者ガ押シ寄セテ対処ガ大変ダッタゾ」
「人がいっぱいだったー!」
「たくさん魂とれそうだった!」
「デス、至急残りの一人を探してこい!」
「了解シタ!」
急いで走る死神の後ろ姿を見て威厳がないなと思ったのは俺だけじゃないはず。と言ってもちゃんと見ているのは俺とメジェドさんくらいしかいないが。
とりあえず明日もダンジョンを閉鎖しようかな。少し状況を見なければ…………
この日はギルド『フェニックス』のギルマス経由でトラブルによっていったん閉鎖するという旨の手紙を書き就寝することにした。
アルは翌朝まで戻ってこなかったが薬は使って傷を治していた。言いたいことはあったが、あえて何も言うまい。
この程度はまだまだ序の口で、さらにもっと余計で厄介な事をふさぎ込んでいたとある人物が持ってくるなんて、この日にそんな夢を見た。
正夢にならないといいな…………