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リベンジャーズ

ダンジョンの最後の戦闘階層であるボス部屋にその魔物はいた。


タイタン希少種、名はアルと主人から名づけられた。そして最もわずかな差とはいえ主人と付き合いが長い従者である。


必要とされたらそれに応じ、与えられた仕事を全うする。これこそが彼の使命だった。


ただし、魔王に限っては手も足も出なかった。主人との手合わせは主人が手を抜いていたにもかかわらず敗北した。彼は自分にまだ力と経験が足りないと心の中で嘆いている。


力を得るには敵を倒して経験値を得て地力を上げる。これが一番なのだが主人との手合わせや魔王の特訓を受けた以降の戦いはとても退屈なものと感じていた。


来る冒険者を蹂躙、また蹂躙と歯ごたえがない。それでも彼らの戦略を学んではいる。


そして今日、自分にリベンジするものが来たということを主人から聞かされ。初めて外に出たときに戦った生意気な者達らしい。そういえば常に戦えと迫ったものがいたなとアルは思い出した。なお、顔は覚えていない。


「シュコー…………シュコー…………」


その人物が含まれているかはどうでもいい、来る敵は倒す、ただそれだけだ。


ボス部屋の真ん中に堂々と立っている彼の耳に足音が聞こえた。一つではない、およそ六人で固まった集団だ。


カツカツと近づいてくる足音にもアルは動じない。


『さぁて、ボス部屋に待機しているアルさん?準備は良いか?』


「シュコー…………シュコー…………」


『OK、ハンマーの調子もいいようだな。相手は少人数だが前回より強くなっている、油断はするな。』


「シュコー…………シュコー…………」


『そろそろ彼女達の到着だ。健闘を祈る。』


「シュコー…………」


主人の声に彼はガスマスク越しの呼吸で答える。言語は理解できても喋ることができないのはもどかしい。この醜い顔のせいで嫌われるのも…………


ネガティブな方へ思考が進む。表情が見えない彼の心が繊細でかなりの恥ずかしがり屋であることは誰も知る由はない。


そうしているうちに敵がこの部屋まで下りて来た。


知能が高く、それゆえ記憶力もいいアルは全員の顔を覚えていた。あの時に愚かにも主人に喧嘩を売って主人が自ら手を下す必要がないと考えた結果、自分が出動して蹂躙した者たちだ、と。


まお、彼の主人はただこの喧嘩を買うのにめんどくさくて押し付けたつもりになっている。どうでもいい微妙なすれ違いが起きていた。


「…………久しぶり、と言って覚えているか?」


「シュコー…………シュコー…………」


「やはり何を言っているか分からん。今日はあの時のリベンジに来た」


そう言って剣の先をアルに向けて宣言する。


「あの日の事は忘れたりしない。キッチリと倍返しさせてもらうぞ!」


「「「覚悟!」」」


「再戦だオラァ!」


女子力が死んでる、と主人の呟きが聞こえた気がする。あの時は弱かったとはいえ美しさがあると思ったが、今は強くなったが色々犠牲にしたと言うところだ。


「シュコー…………」


しかし、戦わない理由にはならない。よく使うハンマーを構えて戦闘態勢に入る。


「逝くぞぉぉ!」


「今度は勝つぞぉぉっ!」


「遺書はすでに書いてますからぁぁぁぁ!」


「シュコー…………」


人と巨人の小規模な戦争が始まった。


アルは突撃する時になぜその言葉を選んだのか気になり過ぎた。


「ハンマーに気をつけろ!素早い動きをするが大降りだった!」


「はい!」


ハンマーは大降りでないと上手く扱えないとアルは思っている。もちろんそれは大きな隙と本人も捉えている。


しかし、隙が出来て攻撃されるなら『された後』を狙えばいい。


圧倒的パワーに強固な肉体を持つ彼だからできる事なのだ。もちろん、反応速度も必要だがまだ大丈夫だと考えていた。


しかし、彼女達の方が一枚上手だった。


「シュコー…………」


「動きはだいたい見切った!」


彼女達が素早く動き、アルから攻撃される瞬間に何度も攻撃をして即離脱。アルに服くらいしか傷らしい後は見つからないがわずかにダメージが蓄積していく。


こんなに動けば長期戦は彼女達が不利に思える。だが、それを難なく行い疲れを全く見せない彼女達にアルは焦りを覚え始めた。


早く仕留めようとして広範囲に攻撃しようと余計に大降りになり、そこの背後から斬られたり魔法で攻撃される。


もちろん、アルも巨体の割に身軽に動き回るが巨体故に捕捉されやすく当たる部分も大きい。つまり、乱れ打ちするだけでもよく当たり体力が削れていくのだ。


回復手段があれば話は変わってくるが、スキルによる自動回復や薬などは持っていないため当然ながらダメージは蓄積されていく。


だんだんと消耗していくアルの様子は明らかだ。まだどのようになるか分からないとはいえ彼女たちに希望が見え始めた。


「いける!前回より希望はある!諦めるな!」


「勝ったらおいしいご飯奢ってもらうんですぅぅぅぅぅぅ!」


「うおおおおおお!前のお返しだごらぁぁぁぁああああ!」


しつこく絡んでいた女がアルの顔面を殴る。威力が大きかったのかアルがよろけてしまう。


「好機!『アレ』をやるぞ!」


「「「「「了解!」」」」」」


『アレ』とは何なのかと疑問に思い体勢を立て直した瞬間、アルの周りに暴風が渦巻いた。


「我ら戦乙女の名を借りるものなり!」


「我が剣にて敵を切り裂き!」


「我が魔法にて敵を穿つ!」


何かの詠唱のように彼女たちは声を上げる。いや、違いなく何かの詠唱なのだろう。それもこれほどの実力者6人がかりとなれば威力も計り知れない。


すぐさま止めようとハンマーで全方位を薙ぎ払うも一歩後ろに下がられて空振りしれしまう。


「戦乙女の名のもとに我らありて!」


「我が目前の敵を打倒さん!」


「これが私たちの今の全力だ!惜しみなく受け取りやがれぇぇぇぇぇぇ!」


暴風、もとい魔力放出による余波がさらに激しくなり全員が一歩前に踏み出す。


「「「「「「『エアストリームフォース』!!」」」」」」


「……………………!」


アルは迎撃しようとしようとまたハンマーを振る。しかし、それよりも早く風の刃と共に六方向からの

高速移動によってアルの体が深く斬られた。


この攻撃には耐えきれず、赤い血を流しながらハンマーを手放して膝を地面につけてしまい動かなくなる。


「倒した、のか?」


「まだ呼吸はしているぞ。一矢報いたからといっても完全に倒れたわけじゃない」


確かにまだ倒せては、倒されてはいない。それでも、アルの脳裏に敗北の言葉がよぎる。


認められない、そんなこと認められないのだ。身体はまだ動くが負けられないという意思が、得体のしれない『怒り』が体を突き破らんと湧いてくる。


「----------------」


「なんだこのうめき声は…………」


彼のガスマスクが外れる。外の空気を直に吸うのは初めてだがどうでもいい。負けられない、主人の前で情けない姿を見せるわけにはいかないのだ!


「っ!まずい、バーサーク状態になるぞ!」


六人のうちの誰かがそう悲鳴を上げるように叫んだ。


「-----------------!!!」


それをかき消さんとばかりにダンジョン全域に狂戦士の咆哮が響いた。

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