Re.戦乙女
『ヴァルキリー』というギルドを覚えてるだろうか。正直俺は忘れかけてた。
俺に喧嘩売ってアルがほぼ全員返り討ちにしたギルドだ。まあ支部だったから本部より弱いと聞いた。
ぶっちゃけアルも今より発展途上で素人の俺から見ても粗削りな部分が多かった訳だったわけだが結局のところ返り討ちにあって信用がやや落ちたらしい。
それでダンジョンが正式に俺の所有として認められ、一人の冒険者にではなくダンジョン経営者にリベンジするという軋轢や摩擦が生まれない名目ができたのだ。
「思い出せ、常勝だった我らが敗北した日を!」
「「「「「はい!」」」」」
「あの日から我々は血の滲むような鍛錬を積み平均的なレベルを上げた!」
「「「「「最低でもレベルを10上げました!」」」」」
「過去の栄光にかまけて鍛錬を怠ったことを恥じ、スキルも一から磨き上げた!」
「「「「「はい!」」」」」
「これからのことは聖戦と呼べない戦いになるだろう。我々は今、このときのみ一介の戦士としてあのタイタンにリベンジする!」
「「「「「はい!覚悟はできてます!」」」」」
「よし、では列に並ぶぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
そんな彼女たちの朝一で近所迷惑な宣誓をモニター越しに眺めている。あの時のような高慢な態度はなく、一つの戦いに挑もうとする戦士の顔つきだった。
なぜ素人がそんなことを言えるかだって?ここのダンジョンに来る人は一獲千金を狙う子供から老人まで老若男女問わず来る。一応、年齢制限を設けているがギリギリのラインでくる子も多い。
そして何よりも彼らの生活と命がかかっている。本気でダンジョンに挑もうとしているのだ。
ちょっと多すぎてフロアの拡張をせざるを得なかったが、調子に乗って悪事を多く働いたやつをこっそり誘導して消すにはもってこいだ。
なに、条約にもちゃーんと載ってあるし、ダンジョン宿屋や商店でそのことについての張り出しを行っている。
毎日通う冒険者はもちろん、始めてくる冒険者もきっちり頭の中に入れてる。
文句を言われても注意書きは目に入るとことにある上に映像は特別な水晶に録画してる。
偽造だっていうならダンジョンを閉鎖せざるを得ない。実はこれ一回あったんだ。そのことは後で語ることになるだろう。
律儀に順番待ちしている彼女達が殺気立ってて彼女たちの周りだけ人が寄ってこない。
確かにやる気のオーラが漏れてる人はたまにいるけお前らアマゾネス化しているぞ?
割と重装備のアマゾネス…………なんか違うと俺の何かがささやいている。
そしてよく考えてみよう。ひっっっっっっっっっっっじょうにどうでもいいことだった。
「ダンジョンの運営はいつも通り、さあ、どんなふうに攻略していくか見せてくれよ」
ある者は一人で、ある者たちはチームを組んで、ある作戦はこそこそと気づかれないように、ある作戦はどんどん倒せ、またある作戦は他人を囮に…………
俺も質の悪いトラップを仕掛けている身だが相手を驚かせたり、逆に相手の作戦に驚かされてりして結構『楽しい』んだ。
おっと、もう彼女たちの順番が来ていた。もちろん第一階層のスライムの雨ゾーンに入った時の対策はしてるよな?
「準備よし、傘をさせ!」
その合図とともに全員が傘をさした。しかも、俺の千本桜のような和傘だ。
これを大真面目にやった事に吹き出しそうになったが、実際のところこの攻略をやる人が増えた。
なんたって上から降ってくるスライムは当たらずそのまま流れるように落ち、地面に落ちたスライムを対処すればいいだけの話だからだ。
それを全員でやって落ちたスライムを淡々と対峙しながら侵攻していく。
お、第一層の宝箱を見つけたのにも関わらず興味を示さないな。早い段階だから安物しか入ってない情報もそれなりに広まってるから見切りをつけてるんだろう。
そして想定していたより早く第二層へたどり着いた。
流石に傘は仕舞い前方と後方を注意して進んでいる。ここの入り口は初めから三方向に分かれていてどこから狼が来るか分からないからな。
たまに前しか気にしなくて後ろから襲われる冒険者もしばしば。その時に重傷を負って撤退する人もよくいる。
おっと、狼が襲いかかったぞ。え、何あの狼、壁走りとか空中で回転して攻撃を避けてる。
いつもならここまでやらないのにちょっと本気出しすぎやしないか!?まあ強敵なのには違いないけど…………
生きるために必死、と言うことか?伊達に魔王に鍛えられた狼じゃない。
『ヴァルキリー』一行も流石に苦戦している。あんなに動かれたら対応しづらいよなぁ。
けれど、テキパキと動き狼を一体ずつ対処していっている。流石はプロ、手際がいい。
数が減ったところで狼が撤退した。この行動は後で数を増やして挟み撃ちにするという狼の作戦だ。
なお、この作戦は警戒度マックスの彼女たちに効かなかった。
しかし、罠の方にはたまーに、本当にたまーにだが引っかかっている。
よりによって片足だけちょっとだけハマるくらいの落とし穴だが、警戒しすぎてしょぼい罠に引っかかるのは何故なんだろうか?
ズンズンと殺気を放ちながら進んで四層を突破した。
他の冒険者より速いペースだ。難なくとはいかないがアルまでたどり着く。アルまで辿り着いて士気が衰えなかったのは彼女達くらいだ。
第五層からはゴーレムが現れる。ゴーレムは固く魔法に対しても抵抗がある程度ある。
あれ、そういえばハピはどこ行った?一応盗む役で出ていったはずなんだが。あの殺気に当てられて怯えてないといいけど…………
階段を下りて第五層に彼女たちが到着した。階段は長期滞在防止のため長時間いたら滑り台になって強制的に下の階層に行かせるギミックにしている。
サクサク進んでいく人のは関係のないトラップだ。ごく一部がこの滑り台システムをアトラクションとして楽しんでいるのは目をつぶっておく。
「ゴーレムだ…………」
「絶好の経験値稼ぎの魔物…………」
「「「「「「くたばれえええぇぇぇ!」」」」」」
ごめん、これだけは言わせてくれ。戦乙女じゃなくて悪鬼羅刹じゃねえか!
ほら、確かに経験値の稼ぎどころか見知れないけど先にこの階層で狩りをしていた冒険者すらドン引きして道を開けちゃったよ!
うわあ、ポップ率が低いゴーレムが瞬く間に蹂躙されていく…………
こんな集団からハピが盗みを行えるはずがない。いくらなんでもこれは…………女を捨てすぎているというか…………
うん、見なかったことにしよう。あとハピに機関命令だしておこう。どこかで泣いてるかもしれない。
ここにデスや三姉妹がいなくてよかった。あいつらがいたら大喜利のような突込みの嵐が炸裂してうるさくなってただろう。
さぁて、ボス部屋に待機しているアルさん?準備は良いか?
「シュコー…………シュコー…………」
OK、ハンマーの調子もいいようだな。相手は少人数だが前回より強くなっている、油断はするな。
「シュコー…………シュコー…………」
そろそろ彼女達の到着だ。健闘を祈る。
「シュコー…………」




