戦乙女の円卓・議題にあがる彼の苦難
ギルド『ヴァルキリー』は女性だけで構成された団体である。それは国の中でも大手を誇り戦う女性としては本部に大きな憧れを持っていた。
北町健五が活動している街にあるギルド『ヴァルキリー』は支部である。支部でも100人以上の団員が存在している。
『ヴァルキリー』本部に関してはどこに存在するのか、そもそも存在しているのかすらヒラ団員には聞かされていない。
それが世界7大不思議のうちの一つになるほどの噂だが各支部に存在する上位の幹部と国々のトップクラスの権力を持っている人物しか知らない。
その支部の一つから本部にある報告が入った。
その内容は『ある男に戦いを挑み大いに敗北した』というものであり屈辱的なものであった。
なぜ男に負けるだけで屈辱的なものとなるのか、端的に言えばこのギルドは女尊男卑の傾向がかなり強い。
始まりは冒険者の中で虐げられてる女性を救済するために設立され100年単位で伝統を保ってきていたが徐々に歪んで行き女尊男卑の傾向が強くなってきた。
最近では女性のギルドマスターも増え実力者も多くなってきたことによりその傾向が加速していく一方だった。
「まさかテイマーとはいえ一匹の魔物に負けるとは情けない。恥さらしめ」
「これってさー、アレだよね?アレだよアレ!」
「いっつも思うけど語彙力ないよねー。話術無理じゃん。なんでいつも交渉を任せてるのか理解できないよ」
「我が君、今回の件の処罰はどうします?」
円卓に七つの椅子があり、そのうち二席が空席になっている。四人がそれぞれ言葉を発した後、我が君と呼ばれた女性は口を噤んでいた。
「我が君?」
不審に思いもう一度問いかけるも何も反応はなく、そこから数分も沈黙の時間が流れる。
我が君と呼ばれる女性は微動だにせず黙ったままだったが大きなため息を吐き……
「くだらん」
と言い放った。
「く、くだらないですと?」
「私に二度も言わせるか。たかが一度の敗北程度で緊急会議を開くほどもない」
「ですが、ここまでの敗北は『ヴァルキリー』の歴史の中でもトップに入るほどの敗北で」
「だからどうしたい?」
「負けた軟弱者共を処罰し…………」
元々冷えていた空間がさらに冷えていく感覚、それに加え彼女に圧と刺すようにピリピリする空気がまとわりつく。
それは怒りとも取れるような覇気だが、それを発してる本人からは全くなんの感情もない。ただ椅子から立ち上がり何を映しているのか分からない瞳で見つめている。
「ひっ…………」
「だ、団長おこなの?」
「またか…………」
三人は怯え、一人は頭を抱える。それでも彼女はここを立ち去ることを辞めるつもりはなかった。
踵を返し円卓から離れてそこの会議室から出て行く。出て行って、ようやく場の空気が元に戻ってくる。
「はぁぁ…………団長こわぁい…………」
「そろそろ我が君を怒らせない術を覚えなさい。今回の件も貴女が招集をかけたはずよ」
「しかし、大いに敗北したとなれば我々の恥となる!叱責し鍛え直さなければ!」
「それだけの敗北をしたのなら心が折れて抜ける、それか鍛え直すはずよ?」
「えっちゃんのバーカバーカ!」
「馬鹿とはなんだ!」
「はいはい、この話は終了!解散解散!」
「い、いや、この件は何かしらの事をするべきだ!」
「団長がいいって言ったらいいの!ほっときなさいよー!」
止めようとするも三人は席から立ち上がり部屋から出て行く。残ったのは処罰するべきだと主張した女性のみ。
相手にされなかった悔しさ故か歯を食いしばって手を握りしめている。とはいえ、これはギルドの中ではいつものことである。
はぁぁ、と息を吐き自分を落ち着かせる。自分は正しいことを言ったが周りが賛同してくれなかったので仕方ない、と自分に言い聞かせて部屋を出て鍵を閉める。
次にこの部屋を開ける日は、そう遠くない。
〜●〜●〜●〜●〜
一方その頃、議題に挙がった例の人物はというと…………
「あっ…………あの馬鹿野郎ぉぉぉぉ!」
「主人!落チ着イテ水ヲ飲メ!」
「こんなのあんまりですよぉ…………」
「シュコー…………シュコー…………」
ダンジョン内でほぼ全員がパニック状態に陥っていた。
理由はある軍団がダンジョンに押し寄せて攻略を始めたからだ。いきなり端末が鳴り出したと思ったら数百もの反応がダンジョン前に集まってるではないか。
外をモニターで確認したところ、そのある軍団というのはある意味彼らが良く知ってる人物(?)である。
実は攻略軍団が突然現れる数時間前にあるやりとりがあった。その一部がこちら。
「はっはっはっ!魔王が来たぞ!」
「今忙しいから帰れ」
「飯食いながら言う台詞かのぅ?まあよいわ、すぐ帰るしすぐ来るからの」
「は?それはどういう意味…………」
「ケンゴよ!妾らはこのダンジョンを攻略して支配下に置いてやるからな!」
「は?おい待て!…………帰りやがった」
たったこれだけ、それも数時間も満たないほどの時間であの魔王はダンジョン攻略を行うという有言実行を行ったのだ。いや、まだ攻略はされていないが。
それにいきなり人間の街が近い場所にあるダンジョンとはいえ魔族の軍勢が現れたら嫌でも感知されるだろう。
確か人間と魔族は現在冷戦状態に止まってたと聞いた健五だが大胆すぎて呆れを通り越して逆に怒りが湧いてくる。
そろそろ本気で粛清しなければならないと割と本気で思い始めてきた。
「ダンジョンの難易度をノーマルからEXモードに変えないとマジで攻略されちまう。魔王直々にアルがいる階層まで来られたら勝機が…………」
「シュコー…………シュコー…………」
「…………アル、全武装の許可をする。死なない程度に頑張ってくれ」
「シュコー…………シュコー…………」
頼れる巨人は頷き彼から離れていった。彼の戦いを勝利にするために、そして己の限界を超える戦いを始めるために。
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