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第四十六話

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 火の海の中にただ一つ白く聳える城は異様な光景だった。

 何度見ても城が醸しているオーラに慣れることができない。

 サクヤは竦みかけた自分の両足を強引に進めた。メグを助けることができたのにここで立ち止まるわけにはいかない。

 だが、歩みを進めるにつれて不安が増していく。マリナたちはまだ無事だろか。戦況はどうなってるだろうか。

 無言で歩く二人の間には緊張感こそあったものの、言葉など必要のない安心感や信頼感もあった。

 サクヤがマリナたちと別れた部屋への道は、一度目に来た時には罠が張り巡らされていて、とてつもなく遠く感じたが、改めて歩くと実はそこまで広くはなかった。

 ちらりとメグの様子を伺うと、妹と目が合った。足を止め、大丈夫だよ、と目で訴えてくる。頷いて妹に答えると見えてきた目的の場所まで移動した。

 扉のない入口を潜った先が戦場のはず……だった。しかし、実際にサクヤたちの見たものは、戦場となった跡

だ。

 特に部屋が荒廃した形跡はない。多少荒れてはいるが戦闘になれはそんなものだろう。だが、最もサクヤたちを驚かせたのは、その部屋がもぬけの殻だったことだ。

 サクヤが呆気に取られてメグが口を開いた。

「魔法合戦になったみたいだね」

「え?」

「見て、ここら辺の床が焦げているのに濡れている。《創始者》の魔法は炎系統だから焦げるのは分かるけど、濡れてるってことは多分、水系統の魔法でも使ったんだろうね」

 水魔法と言われてすぐにレイヤが浮かんだ。事実、彼女しか水魔法を使う人をサクヤは知らない。

 つまり、ここで繰り広げられていた戦いは熾烈なものだったことを象徴している。だが、この部屋彼女たちの姿がない。

 戦闘はもう決着が着いたのだろうか。いやそんなはずはない。何しろ男の実力派言うまでもく、レイヤたちだってあっさりとくたばったりはしない。

 サクヤは頭を振り、それ以上の思考を止めた。今考え込んで答えの出る話ではない。

「ねぇ、魔法が無くなったらレイヤさん、怒るかな?」

 唐突に口を開いたメグの質問の意図がわからずサクヤは首を傾げる。

「どういうことだ?」

「言葉の通りだよ。魔法が使えなくなると、レイヤさんは怒るかな?」

「レイヤはそんなに気の短い奴じゃない」

「……なら、良かった」

 たったそれだけ言い、何も説明しないで踵を返そうとする妹は兄が慌てて引き止める。

「ちょっと待てよ。何をしようとしてるんだ。説明ぐらいしてくれ」

 するとメグは動きを止め、サクヤに向き直り毅然とした態度で、さらに衝撃的な言葉を放った。

「この世界から魔法という存在を無くす」

 またしてもサクヤの脳の理解が追いつかない。

 確か魔法はこの世界に元から生まれ育つ住人だけがある条件を満たせば使えるものだったはずだ。使えなくさせる、なんてそんなことできるのだろうか。

「《創始者》の魔法はできないことがほとんどない。でもそれは装置によって生み出した能力でしかないの。『魔法』という存在はこの世界からしたら私はお兄ちゃんみたいにイレギュラーな存在なんだよ。……私に魔法が使えるようになったように」

 悲しげに顔を伏せるメグだが魔法だって術者の使い方次第だとサクヤは思う。男みたいに破壊のために魔法を使うと悪に染まり、メグがサクヤに使ったように、人のために魔法を使うと善となる。

 だから何も魔法自体を否定してようとは思わない。悪いのは《創始者》の考え方。

「メグが悲観することないさ。魔法だって人の為に使えば必要な物になる」

「お兄ちゃんは本当にみんながそう考えると思う? 魔法なんて便利な物があれば絶対に《創始者》のように我が欲望のために使う人は必ず出るよ。人間って、そういう生き物だから」

 普段は穏やかな妹からの予想外の辛辣な言葉にサクヤは押し黙った。

 残念ながらメグの言っていることは正論だ。みんなが人の為に、というのはただの理想郷でしかない。だから世界というのは成り立っているのだろう。それが例え、身分という位で束縛されていても、人は欲を満たすために生活しているのだ。

 サクヤの見てきたこの世界はそんな世界だった。

「でも、メグだって今度は自分の意志で魔法が使えるんだ。それを手放してもいいのか?」

 さすがにこれにはメグは即答はしてこなかった。やはりメグも魔法を使えることに憧れ、愛着と言ったものがあるのだ。

 人なら誰しも魔法を使うことに憧憬を抱くことはあるだろう。だが、魔法は本来なら実在しないからこそ憧れなのだ。実際に存在しない力を手にしてしまったその時人は欲に溺れる。

 その欲が良くも悪くも、一度手にしたからには手放すのが名残惜しくなる。今のメグも同じ状態だ。

 それでもメグは言い切った。

「いいよ。魔法なんて夢だったんだよ。また元の生活に戻るだけだから、その方がいいんだって思う」

 言葉から強い意志と覚悟が感じられた。有無を言わせぬ毅然とした口調で答えるメグを、信じることにした。

「そっか。ならその装置とやらがある場所に案内してくれ」

「うん」

 メグ強く頷いた。

 走るメグに先導され着いた部屋は、あまり離れていない場所にある、物置のような狭目の暗い部屋だ。

 だが、中に入ると物置なんてレベルではない光景に思わずサクヤは目を疑った。

 部屋いっぱいに無数のコードが足場を埋め尽くし、伸びた先には数台のコンピュータが配置されている。何せここは科学技術など全く進展していない異世界だ。二人が住んでいた世界では珍しくもないよくある光景だが異世界であるここでは異質だと言っていい。

「何でこんなものがここに……?」

「知りたいか?」

 突然背後から低い男の声が聞こえて二人は反射的に振り返った。

 暗い部屋に目が慣れていたために逆光が眩しくサクヤは目を細めたが、慣れていくにつれて入り口に立っている男の正体が明らかになっていく。

 因縁の敵であり、メグを連れ去りもう一つ人格を強引に植え付けた憎き敵。そして、今一番会いたくない人物、《創始者》だった。

「やっぱり支配は解けたか」

 男はサクヤの横に立つメグを見て言った。

「もうあなたの命令は一切受けない!」

 メグも男を睨み返す。

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