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第四十三話

メリクリ投稿です

☆☆☆


 二人のコンビネーションをもってしても、《創始者(ジェネシス)》と互角に戦うが限界だった。少なくとも今のうちは。

 というのも、男はマリナのコインの不思議な力によって自らの魔法を浴びてから、断末魔のような叫びを上げて強力な魔法を使うということは無かった。時折ジャブのようなそれほど威力の高くない魔法で応戦したり、後は剣による近接戦ばかりだ。

 それでも剣豪の少女二人と対等かそれ以上に渡り合えるのはさすが富豪

ウエルス

だろう。とは言え、いつまでも男が強力な魔法を使わないことはまずないだろう。だからマリナからすれば少しでも早く勝負を決めにいきたいのが本音だが、の男は簡単に隙を見せてはくれない。

 ならば、自分から突破口を開く。

「レイヤ!」

 彼女に言葉なんて必要ない。声をかけられた少女はマリナと目を合わせるだけで意図を読み取り頷いた。

「『アクア・フロウティラ』!」

 水魔法による散弾を放ったレイヤはさらに重ねて、

「『スプラッシュ・シャワー』!」

 少し広めの部屋の中に神秘の雨を降らす。但し、火災を鎮めた時のように強大なものでなく、目的を男の気を引くことと多少の威力を持たせ、陽動のために調節したものだ。

 一度男は『スプラッシュ・シャワー』を見ているはずだ。それが故に、レイヤが魔法名を発生した時に男は僅かに身構えた。

 その一瞬をマリナは待っていた。

 《創始者》がレイヤほ魔法に対応しようと意識を魔法と、部屋の中に降る雨をどうにかしようとした隙を狙ってマリナは足音を忍ばせ、かつ速く男の懐に忍び込む。

 男の対応は確実にもう間に合わない。だからといって、油断して決定的なチャンスを逃すということも何度か思い知らされた。だから今回こそはこれで終わらせる。はずだった。

 しかし、マリナの剣が男に届くより早く、間に入れられた剣によって弾かれた。

 彼女は最初、攻撃が男に見抜かれたのかと思った。だが、男はマリナを向くことはなく、魔法をボソボソと呟いてレイヤの攻撃に対応している。

 次に考えたのはサクヤの妹が兄との戦いを経て戻ってきたのか、ということだ。こんな早くにサクヤが負けるというのは考えたくもない。

 マリナがいきなり現れた剣の先を辿っていくと、幸いというべきかメグミではなかった。だが結局のところ、それ以上に驚かされる羽目になる。

「何で……!」

 今まで気配一つ感じさせなかった監視者(センチネル)が、レイヤの村を襲った時のように完全武装をして立っていた。

 自分が混乱しつつあることを自覚してマリナは一度距離を置く。

 魔法による雨が止み、レイヤが隣に並んだ。

「ねぇ、マリナ。あいつは?」

「分からないわ。あれのせいでトドメがさせなかった」

 彼女たち二人の正面に《創始者》と突如現れた監視者(センチネル)が並び対峙する。

 マリナの体感で戦闘が始まってからは三十分、城に入ってからは一時間弱が経っている。長期戦になるに連れてマリナたちの勝機は減っていく。

 かと言って迂闊に踏み込んでしまえばそれこそ危険極まりない。ここはとにかく我慢勝負になるだろう。

「もう来ないのか?」

 男は相変わらず二人に対して挑発をしてくるが、少女たちは平然と聞き流す。

「残念だが、俺も待ってやるほど優しくはない」

 次の瞬間、マリナとレイヤは眼前で起こった現実に目を疑う。 

「サモンズ」

 男がまた新たな魔法を唱えると、何もない空間に二体目の監視者(センチネル)が生成された。

「どういうこと……」

 驚愕して固まっているマリナたちを見て男は愉快そうに笑う。

「喜んでもらえたようで何よりだな。どうかねこの魔法は」

「これって、あの時の?」

 この状況では珍しくレイヤが口を開いた。

「ご明察。君たちが戦ったことのあるこいつらは全て魔法で生成された人形さ」

 そんな話はとても信じられない。初めて《創始者》と戦ったときのことは鮮明に覚えているが、男の護衛にいた数人の監視者(センチネル)はどう見ても人間の、それも手練れの剣筋だった。しかもマリナたちを追い込みさえしたのだ。

 信じられたい、というより信じたくない観念の方が強いかもしれない。しかし、男の衝撃的な発言はさらに続く。

「これだけではないさ。この世界には元々監視者(センチネル)なんて存在しなかったのさ」

「えっ?」

監視者(センチネル)という身分は、俺の作った魔法人形の位だからな」

「そんな!」

 レイヤですらもこの発言には大声を上げて、驚きを隠しきれなかった。ましてやマリナなど、理解が追いつかなすぎて声すら出ない。

「でも、監視者(センチネル)が人を助けたり、

喋ってるのを見たことがあるわ……」

 何とか絞り出したマリナの声はか細く震えていた。

「魔法で、話したり人を助けたりする機能をつけることができるとしたら?」

 ありえないことではなかった。実際、《革命者(アプセッター)》を取り押さえるという機能が付加できるのであれば、他のことだって理論上は可能だ。

 マリナは恐怖を覚えた。こんなことまで魔法でできてしまうのであれば、魔法で不可能なことなんてないのではないか。レイヤとの連携なら男に勝てるという自分の軽率すぎる考えを彼女は悔いた。

 これで尚更負けるわけにはいかなくなった。今男を止めておかなければ取り返しのつかないことになる。男に支配を許してしまった時にはこの世界は終わると言ってもいい。

 既にマリナの戦いは親の敵討ちだけではなくなった。レイヤの住むこの世界を守るため、なんてヒーロー、もといヒロイン染みたセリフを言える程できちゃいないが、全く関係のない人々を巻き込み、自分のしたいように支配するなど、誰しもが許しやしないだろう。

 隣に立つレイヤとアイコンタクトで呼吸を合わせる。二人は同時に飛び出した。

 まずは人形を倒す。告げられた事実に驚かされはしたけれど自分たちの為すべきことは変わらない。サクヤと約束したから。彼にばかり事を押し付けるわけにはいかないのだ。

 正直な所、こうしようとか、こうしたいとか、具体的な策は一つとしてないために、《創始者》にも出てこられれば終わりだった。だが、幸い男は少し離れて男が魔法で作り出した護衛二体が戦うのを静観ている。

 一人一体でレイヤと手分けするという方法もあったが、マリナは二人で一体ずつ順に倒していく方を選択した。その方が手っ取り早く、二人にかかる負担が少なくて済む。

 マリナが壁となって一体目の護衛に剣を振りかざし、背後に隠れて追走していたレイヤが飛び出てさらにもう一方から斬り掛かる。

 退路を断たれた護衛は抵抗も呆気なく、あっさりと倒されてくれた。

 続いて二体目は何度か防がれたものの、所詮人形の護衛はすぐに玄関が訪れて消滅した。

「マリナ、後ろ!」

 後ろ? 後ろに何があるというのだろうか。男は退屈そうに腕を組んで待機しているし、生み出された護衛も消滅したのを見届けた。だから何もないはずだ。

 直後、マリナは背中に激しい衝撃を感じて地面に倒れ込んだ。

「うっ……」

 一瞬にして意識が遠のいていく。残っている力で背後を見れば次々と増え続け、気持ち悪さを覚えるぐらいに作られていた。

「マリナ! …………ヒール!」

 レイヤの声がした途端に全身が軽くような錯覚にとらわれた。痛みは変わらずとも、意識が少しずつ回復していく。

 その間にも大量生成された人形たちが二人に押し寄せる。

 この状況では二人同時に命を落とすことになるのは確実だ。だったらレイヤだけでもこの場は逃げて、次の機会を待った方がいい。

「レイヤだけでも逃げて……」

 多分、声に出さなくてもレイヤには伝わっていたかもしれない。でも敢えて口に出すことによってレイヤを動かせたらと思ったのだが、彼女は苦しそうに顔をしかめながら動こうとしない。

「レイヤ!」

 この状況を作り出してしまったのはマリナだ。だからせめてその責任ぐらいは取りたい。自分が足を引っ張って、レイヤに迷惑をかける方が彼女にとっては辛いのだ。

「行って!」

 レイヤにとっても苦渋の決断だろう。それでも彼女が動いてくれた時はマリナも救われた思いになった。

 金髪の少女の表情は変わらないが、どこか意を決したような気がした。直後、マリナの身体がふわりと浮き上がった。

「レイヤ!?」

「マリナをここ残して行っちゃったら、あたしはぜっっったいに後悔する。なんであたしだけ帰ってきちゃったんだろうってね。それにさ、今しかないんじゃないかな? もうあたしたちの街は焼かれてるんだよ? そこに次の機会なんて無いよ。今滅びかけてるんだから、今止めるしか、ないんだよ」

 マリナは俯いたまま何も言えなかった。

 男に勝つことしか考えてなかったマリナだが、レイヤはもっと広い視野で物事を見ていた。そこにはここが自分の世界だといあ理由もある気はするが、彼女自身の性格にも関係しているように思える。

 どちらにせよ、この場における判断能力がレイヤの方が優れていることは事実だ。

「スプラッシュ・シャワー!」

 今度の雨はさっきの牽制とはまるで違う。

 さっきより確実に激しく、色の濃い豪雨はレイヤの全力をもってしての攻撃だと一目で分かる。

 そのために威力は充分だった。マリナとレイヤにはダメージが来ないように仕組まれた魔法の雨は避けられないように部屋全体に降り注ぐ雨を十秒近く受け続けただけで、同じく魔法で生み出された護衛たちは消滅していく。

 男だけは何らかの方法を使ってダメージを受けることを回避しているみたいだが、出口の方への道は開けた。

 マリナを抱えあげたレイヤはそこへ一直線に突っ走る。男が後を追ってこなかったのはどこに逃げても殺せるという余裕からか、とにかく幸い部屋から脱出に成功した。

 部屋をでしばらくしたところでマリナはようやく解放され、立ち上がる時に痛みを覚えて顔を歪めながら数歩よろめいたがどうにか耐えた。

 今後のことについては何も考えていなかった。城内にいる限りは男に居場所を感知されてすぐに追いつかれる。外へ出ようにもマリナの状態ではその前に男に追いつかれる。どっちにしても、レイヤの言う通りに男を今倒すしか方法はないのだ。

 しかし戦うにも、正面からではまた魔法によって監視者(センチネル)が生成されて同じことを繰り返すだけだ。どうにかして男の魔法を封じなければ勝つのは難しい。

 その時、音がして振り返れば、レイヤが膝を折って座り込んでいた。彼女の目は虚ろで汗まで掻いている。

「レイヤ!?」

 慌てて駆け寄ると、彼女は酷く疲弊していて肩を大きく上下させている。

「大、丈夫……。ちょっと……疲れちゃった、だけ…………」

「もしかして……」

 思い当たる節は一つしかなかった。今までそんな素振りを見せなかったのだから、疲労の原因は今使った最大出力の魔法しか思い浮かばない。

 つまるところ、マリナを助けるためにレイヤ自分の身を削って魔法を使い、逃げ道を作ってくれたのだ。

「うん……」

 気まずそうにレイヤは顔を背けた。

「魔法を使うと、普段の運動以上の体力を消耗するんだ。普通に魔法を使う分には慣れたのもあってへいきなんだけどさ、さっきみたいに全力で魔法を使っちゃうと力が抜けちゃうんだ。これが、魔法の代償だよ」

 知らなかった。《創始者》やレイヤが簡単に使っているように見える魔法にそんなデメリットがあったなんて。

 よく考えればマリナの使える能力も同じだ。一時的に戦闘能力を著しく向上させるが、効力が切れると激しい虚脱感に襲われる。同様に、マリナからしてみれば異世界の住民だけが使えるという魔法も自由に使い放題という代物ではなかったのだ。

 なのに男は魔法を使いまくっているにも関わらず疲れている様子はない。

 無尽蔵の体力でも持っているのだろうか。いや、人間である限りは疲れはするはずだ。人間であれば(・・・・・・)

 マリナは頭を振って思考を止めた。そんな恐ろしいこと、あってはたまらない。しかも男ならありえそうな話だからこそ余計に恐ろしく思えてくる。

 不意にマリナは疑問を抱いた。

 魔法でどんなことでもできるのであれば、マリナやサクヤ、さらにはレイヤを除去しなくてもこの世界を支配することぐらい容易なはずだ。なのに男はマリナたち固執し続けて何としても殺そうとしている。もっと言えば邪魔になり得る存在だったマリナとサクヤをこの世界に呼び出したのはなぜだ。

「まさか……」

 理由なんて、単純なものではないか。マリナや、サクヤの見た、現実に干渉できる夢。そして、異世界への召喚。これらは全て、実験だったのだ。

 昔から魔法による支配の計画は立っていた。マリナの時のは第一段階。しかし、予想外の事態が生じたはずだ。被験者であるマリナは元々この世界の人間ではない。《創始者》は別の世界の人間に干渉したのだ。

 ここから空白の三年間で男は、想定外の事態をも利用しようとし、さらに計画を第二段階へと移行する準備を進めた。その間に《創始者》はマリナのいた世界に何度も干渉し、別の世界の知識も得た。それならマリナやサクヤの住んでいたもう一つの世界の存在を知っていたことに納得がいく。

 そして、サクヤがここに召喚されたのが第二段階。というよりは、サクヤの妹を連れ去ることが第二段階の真の目的だろう。ここでもまた別の世界の人間を被験者にした理由までは分からない。自分の計画の素晴らしさを確証したかったのか、あるいはただの偶然なのか。

 とにかくこの時点で男の計画を遂行するための実験は成功していた。だが男はまだそこで計画を実行に移そうとはしなかった。さらに第三段階を用意していた。

 それは連れ去ったメグミの洗脳――確定情報ではないが、マリナはそう睨んでいる――。これもおおよそ成功だと言ってもいいだろう。

 念には念を重ねて富豪(ウエルス)は準備をしてきた。今や《創始者》は完全に世界を統べる力を手にしている。

 後は、実験で使った二人を消せば、計画は完璧に遂行できる。

 全てはマリナの推測でしかなかったが、おそらくこれが真実だろう。

 だったらやはりここで食い止めるしかない。しかし、レイヤは疲労で全力で戦えない。かという自分も鋭い痛みは残っていてまともに戦うのは不可能に近い。

 絶望的な状況にマリナは唇を噛み締めた。

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