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第三十六話

 どうなっているのか確認すると、いつの間にか静かに動き出していた鎧がサクヤに向かって剣を振り下ろし、レイヤの声に早く反応したマリナが間一髪で剣を当てて弾いてくれていた。

「あ、ありがとうマリナ」

「そんなことはいいから早く剣を抜きなさい!」

「は、はい!」

 命令系で強く言われたことによって反射的に敬語で返事をしてサクヤも応戦する。

 さらにレイヤも加勢して前衛二人、後衛一人の逆三角の陣形を取ると、マリナが切り込む。

 鎧の動きはマリナに対応できてはいなかったが、剣を出して弾いた。しかし、完全に隙ができている。サクヤはそれを見逃さず、横に回り込んで鎧の銅の部分を薙いだ。

 しかし、弾かれたのはサクヤの方だった。予想以上の硬さにサクヤは顔を歪める。どうやら鎧の方には傷一つなく、ダメージは与えられていない。

 鎧とはそういうものなのだからこれが普通の結果と言われれば確かにそうだ。となれば鎧の弱点をつくしかない。

 だとすれば鎧の継ぎ目だ。そこなら攻撃は通用するはずだ。

 一番狙いやすい継ぎ目はどこだろうか。高さ的に考えるならば脚の付け根あたりが丁度いい。だがそのためには、また別の方向に注意を引かなくてはならない。

「マリナ、もう一回頼む!」

「わかったわ」

 同じようにマリナが攻撃を受け止められることを分かった上で単純な単発攻撃を繰り出す。予想通りそれは簡単に止められたが、これで鎧は動くことはできない。

「これでどうだ!」

 剣を握る手に力を込めて声を上げ、全力で脚の付け根に斬りかかる。

 これで鎧は倒れる、予想だった。だが、結果的にはさっきと同じようにサクヤの剣の方が弾き返されて鎧は無傷のままで立ち塞がったままだ。

「ダメかよ……じゃあどうしろって」

 もうどうしようもないのか。眼前に立っている鎧は完全なるものだ。どこを狙っても致命傷どころかかすり傷すら与えられない。

 だが、その時にレイヤがすっと前に出てきた。

「あたしにやらせて」

「ちょっと待て、あの相手に何をするつもりだ?」

「大丈夫。任せて」

 剣を鎧の方に向け、目を閉じて集中力を高める。

 このポーズは見て、ようやくレイヤの意図が理解できた。彼女は魔法を使おうとしているのだ。

 確かに物理攻撃は通らないと知らされた。だからと言って魔法が通るとは思えない。だが可能性がないとは言いきれないため黙ってレイヤを見守る。

 次第に光が彼女に集まり、魔力が蓄えられていく。

「『アクア・フロウティラ』!」

 放たれた水塊は、以前に彼女から見せてもらった時よりも明らかに大きさを増し、確実に上がった速度で鎧にぶつかっていった。

 すると、通用するはずがないと思っていたサクヤの予想に反し、水塊が当たった瞬間に鎧は力を失ったように一瞬で崩れ落ちた。

 予想外の鎧の脆さにサクヤは拍子抜けする。

 しかし、それ以外にも驚くことはあった。

「この鎧、中に誰も入ってないのか?」

「そうね、確かに剣を打ち合ったときに監視者(センチネル)の打ち筋ではなかったわ。どこか機械的な感じがした」

 ――そんなことはもう少し早く言ってくれよ。

 などとマリナに内心で愚痴りつつもレイヤの魔法によって崩れた鎧に目を遣る。

 まずはどこから話をすればいいのやら。この鎧のことについてももっと深く考えなければならないし、レイヤの魔法についても聞きたい。

 その問題は、レイヤが口を開いたことによって解消された。

「多分この鎧は魔法だよ」

「魔法?」

 マリナが首を傾げて訊く。

「うん。だって人じゃないのに鎧が剣を持って動くなんてありえないよ」

 サクヤも、人ではない鎧の正体は思いつく限り、レイヤの言った魔法という言葉が一番しっくりくる。

 もしそうなら物理攻撃は通じず、魔法では脆いというのも納得できなくもない。

「レイヤは鎧が魔法だと気づいてたのか?」

「んー、なんとなく、かな? サクヤを襲っているのを見たときにおかしいと思ったんだよね。この鎧には表情がなかったから」

「表、情?」

 マリナはレイヤの言葉を反芻した。

 レイヤの言っていることが分からなかったのはサクヤも同じことだった。

 表情と言っても、鎧には兜というか面までしっかり装備されていて顔――実際には無かった――が見えない。だから表情など分かるはずもないのだ。

 しかし金髪の少女は、

「あたし、どんな人でも人間なら顔を見なくても、自然とその人がどんな表情をしてるのか見えちゃうことがあるんだよ。でもこの鎧からは見えなかった。もしかしたらあたしの勘違いに過ぎないと思って言わなかったんだけどさ」

 本当にそんなことが人間にできるのだろうか。そう思っているのはきっとマリナだって同じはずだ。

 でも、それなら言葉が通じないはずのサクヤから表情だけで言いたいことが伝わっていたことも理解できる。それだけでなく敵の意図だって読むことも可能性なのではないかという疑問が浮かび上がってきた。

「さすがにそこまではできないよ」

 そう言いながらもサクヤの表情を読んで否定した。

「あたしが分かるのは何が言いたいのか(・・・・・・・・)であって何がしたいのか(・・・・・・・)じゃないんだよね。だからさ、あ、何か隠してるなーとか、嘘ついてるなーとかなら分かるけど、その人が何をしようとしてるかまでは分かんないんだよ」

 自分の力が完璧ではないことに対して申し訳なさそうにするレイヤだが、サクヤたちはというと、目を丸くしたまま動けなかった。

 表情を見なくても表情が分かる、というのは相手の背中の様子や心情を察してという解釈でいいのだろうか。前から思ってはいたが、レイヤの洞察力は群を抜いたものがある。本人はその才能に気がついていないようだが、これは戦闘においても大きなアドバンテージになるのは間違いない。

「それでも充分すごいよ。魔法だって前に見た時よりも威力が上がってたし」

「えへへ、そうかな? 結構特訓してたんだ。何で魔法が使えるようになったのかはあたしにも分かんないんだあけどさ、初めて使った時の感覚は今でも覚えてるからね」

 心から嬉しげに話す少女を見ているとサクヤの方まで純粋に頬が緩む。

 レイヤだって、サクヤたちの知らない場所で努力を欠かさないでいたのだ。その結果がこうして大きく威力を上げ、使いこなせるようになっている。

 そんな仲間の力を励みにしてサクヤも男に勝つことを何度も自分に言い聞かせた。

「行きましょ。まだ私たちは目的の場所にも辿り着けてないわ」

 マリナの言う通りだ。まだ三人は男と戦う以前のところで留まっている。あまりこんなところで無駄な体力を消耗したくはない。

 再び歩き出した少年たち三人の顔には、緊張感が戻りつつあった。

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