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第三十四話

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 迎えた当日。三人――正確にはサクヤとマリナの二人――は緊張の面持ちでレイヤの住む村の入口に集まった。マリナに関しては、今日は鎧を着けないで動きやすさを重視した服装で来ている。

 ここは初めて男と相見え、惨敗した場所。今や元通りにまで復元されたが、あの時は村を完全に焼かれた。

 そんな因縁の対決も今日の一戦で運命が決まる。言わなくても三人ともが分かっていることだ。

 ちらりと横目でサクヤが二人の様子を窺えば、レイヤに関してはこんな状況になっても尚普段通りの彼女を崩さないでいる。

 だが、今はそうやって開き直った方がいいかもしれない。緊張したところでこれから起こることや、することは変わらない。だったらちゃんと向き合った方がいいだろう。

「本当にいいのか、二人とも」

「何よ今更。ここまで来たんだからやるしかないわよ」

「そうだよサクヤ。そんなこと気にしないで」

 念のための最終確認に笑顔を見せながら返すマリナとレイヤ。二人の返事に満足したサクヤは強く声を上げる。

「行こう!」

「ええ」

「うん!」

 富豪(ウエルス)の城への道は、これまでにも何度か辿ったことは合ったが、いつも以上に長く感じた。その間、無言でひたすら歩き続けたから余計にだろう。

 それに、なぜだか街も、人は歩き回っているのに《創始者》が襲撃してきたときのように静かに思える。


『お兄ちゃん、助けて』


 不意にサクヤは夢に出てきたメグの言葉を思い出した。今考えると、異世界に来てからメグの本音を聞いたのはこの一度だけだった。

 その一度を、しっかり叶えてやらないと。それが兄としての役目だから。

「待ってろよ。今日こそは必ず、救い出して見せるから」

 前にも同じことを誓ったような気もしたが、サクヤは改めて誓うと、胸にかけているメグの赤いペンダントを握り締めた。


「着いたな」

 サクヤの言葉に返事はなかったが、代わりに息を呑むのが伝わってきた。

 前はメグに教えてもらった通り裏門から侵入したが今回は違う。もう逃げも隠れもする必要がないために彼らがいるのは正門の前だ。

 ここに来るのはサクヤにとっては二回目のことだ。最初に来たとき、確かこの世界に来て二日目ぐらいだった気がする。マリナを探していたら偶然この城に辿り着き、好奇心に煽られて城壁に沿って歩いていたらここに出たのだ。

 右も左も分からないあの時は本当にマリナの存在が救いだった。だから彼女に頼っていた。

 ここは、そんな彼女と二度目に出会った場所だ。

 今は、その時とは違った意味で城門が実際の大きさよりも巨大に思える。

 こんなにも大きかっただろうか。眼前の壁だけではなく、そこから滲み出ている富豪(ウエルス)の威圧感。今更になって足が竦み萎縮してしまう。門を見ていると、敵の存在そのものがとてつもなく壮大なものに思えてしまうのだ。

 ――何を今更。

 分かってる。出発する前にマリナからも言われたことだ。だけどどうしても足の震えが止まらない。

 そんなとき、彼は両肩にそれぞれ違う大きさの手が乗せられるのを感じて我に返った。

「大丈夫よ。サクヤは一人じゃない」

「そうだよ! あたしらもいるんだから三人で一つだよ!」

「マリナ……レイヤ……」

 二人の穏やかな表情を見ていると、僅かだが自然と肩の力が抜けていくのが分かった。

 門より内側は何が起こってもおかしくない世界だ。自ら三人を呼び寄せておいて男が何もせずにただ待っているはずはない。そんな場所にこれから入るのだ。それは確実に単独でどうにかできるようなレベルではないのは明瞭だ。三人で協力していくしかない状況の中で視野が狭まった時、死に直結する。

 でも、その心配はない。なぜなら……。

 サクヤは自分についてきてくれる二人の少女を順番に見やった。

 この二人は、最高の仲間だから。

「行こう。そして、今日で奴との戦いを終わりにしよう」

 二人の答えを聞くより先に、少年は城の敷地に足を踏み入れた。

 城壁内の庭にはいくつかの噴水があり、石畳の道の上にはお茶ができるようにテーブルとイスが置かれている。

 そんな正門から、というのはさすがに警備がしっかりしていた。従って、三人を出迎えたのは全身を銀色の鎧で身を包んだ監視者(センチネル)の警備兵たちだ。

 ま、当然だよな。と、一人で勝手に納得してからサクヤは二人に声をかける。

「行くぞ!」

 三人は抜剣して各個で応戦を開始する。

 次々に襲いかかってくる監視者(センチネル)は兜で顔は見えなくなっているが、そのために余計無言を貫いているのが薄気味悪い。剣を振るときも、逆にサクヤたちに斬られる時も一言も発さないために、人間以外と戦っているような、そんな感覚に陥る。

 だが、サクヤにとってはその方が好都合かもしれない。『斬る』ということ自体に抵抗が少なくなり、思う存分暴れられる。

 それに、いくら監視者(センチネル)と言えども、この数ヶ月、いつも剣を打ち合っていたマリナやレイヤに比べれば全然弱い。

 だから一掃するのにあまり時間と体力は取られなかった。

「こっちは終わったわ!」

 一足先に敵を片付けたマリナが声をかける。

「あたしも!」

 続いて聞こえたレイヤの声を聞き、サクヤは最後の一騎の鎧の隙間に剣を刺し込んで完全に屠り終えた。

「これで全部だ」

 最初の関門を突破した三人は死体を他所に、城の入口に集まる。

「本番はこれからよ」

「ああ、分かってる」

「うん」

 言葉を交わしながらサクヤは二人の仲間を交互に見たが、彼女たちはさすがに息は上がってなく、まだ穏やかな表情でいられる余裕がある。

 これならまだ全然大丈夫そうだ。

 三人はアイコンタクトだけで言葉を交わすと、本当に頼もしい仲間と出会えたことに心底感謝しながらサクヤは扉を開けた。

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