準備期間も考えて
「みさきは何をお願いするのかな?」
「えっとねー、はいこれ! おっきなうさぎのお人形!」
「……ん?」
元気よく答えた娘に手渡されたそれを見て、母親は少し戸惑いました。
頬に手をあてて首を傾げている母親に、後ろで雑誌を読んでいた父親が「ん? どうした?」と顔を上げます。
母親は振り返って「ああ、うん、あのね……」と娘から手渡されたそれを父親にも見せました。それを見た父親も「へえ! もうこんなに字が書け……ん?」と、微妙な顔をして母親と同じように首を傾げました。
「う〜ん……」
「そうねぇ……」
やがて話がついたのか、母親の方がそれから顔を上げると、既に知育玩具へ夢中になっていた娘を呼び寄せました。
「えっと……みさき?」
「なあに、ママ?」
「うん、えっとね、その……このお願いはそういうのとは少し違うと思うんだけれど……」
母親の言葉に「ええ? そうなの!?」といった返事を予想した両親。
ところが、娘はにこりと笑うと、両親の予想とは違ったことを言いました。
「だってサンタさんには世界中からお願いがくるんだよ? 今からお願いしておかないと、ぎりぎりだったらサンタさん準備しきれないかも知れないもん!」
それに伝えるだけならきっとしてくれるよ! そう言いながら「サンタさんにうさぎのおにんぎょうってつたえてください」とつたない文字で書かれた短冊を、呆気にとられる母親から受け取って笹につるそうとする娘。
そんな娘の背中を眺めつつ、母親は「あなたに似てちょっと天然さんに育っちゃったのかしら」と言い、同時に父親は「君に似て計算高い腹黒さんに育ったのかな」と言いました。
「……腹黒?」
「ん?」
短冊を結び終えた娘は満足げに笑顔でひとつ頷くと、織姫と彦星にお願いしますと手を合わせました。
「なむなむです」
それを耳にした父親は、笑顔の鬼神がゆっくりと迫り来る現状にそれは織姫と彦星じゃなく俺に言ってくれと思いましたが、ああもうダメです鬼が目の前に。
その夜、父親の夕飯はご飯に笹かまがひと切れ刺さっているだけで、そのことを娘は少し不思議に思いましたが、お肉が美味しかったのですぐに忘れて満足に笑いました。