はじまり
ええと、たぶん最終話が日付変わってからになっちゃいますが。
幼い頃、土下座をするサンタクロースの後頭部を見下ろしたことがある。
額に畳の痕が付きそうなほど深く頭を下げたそのサンタは、なにが起こったのかわからず呆然とする4歳の俺にこう叫んだのだ。
「奴……というか俺は大変なものを壊して行きました。お前の夢です……すまん!」
某怪盗の三世が活躍するアニメ映画の大ファンである父親が眠っていた我が子を踏んづけてしまった、とある12月25日。
その日を境に、俺の世界からサンタは存在しなくなった。
調子に乗ってサンタのコスプレまでしてないけりゃ、どうにか誤魔化せたかも知れないのにな……と少しだけ、今では思っている。
あれから十数年。
そんな幼少時代の思い出を持って成長してきた俺の前で、彼女が「サンタはいるのよ!」と言い張っていた。
「お前なあ……もうそんな歳じゃないだろう」
引こうとしない彼女に呆れながらそんなことを言うと、彼女は一旦言葉を切り、ゆっくりとその表情を笑顔に変える。
「歳は関係無いでしょう?」
目の奥に鬼が宿っていた。俺より2歳上の彼女は、とにかく年齢の話を嫌う。急いで謝りなだめすかして、なんとか瞳の奥の鬼を追い出すことには成功したが、困ったことに彼女は完全にへそを曲げてしまったようだ。
「とにかく、サンタはいるって言ったらいるんだから!」
こうなってしまうと彼女は頑固で、俺が何を言っても聞く耳を持たなかったりする。そして持論を気の済むまで、延々語り続けるのだ。
本当に、困ったもんだ。
「あーはいはい。で? どこにいんのさ?」
「え? なにその投げやり感」
さらに、こちらに聞く気が無さそうなのを感じ取ると機嫌を損ねたりする。今も頬を膨らませてこちらを睨んでいる。まあ、歳の話さえしなければ、若く見える容姿も相まって怒っても全然怖くないのだけれど。
「せっかく、私がサンタについてとても良いお話をしようと思っているのに!」
やけに自信を持って言う彼女に、何がそこまでサンタにこだわらせるのか少し興味が湧いた。
「わかったよ……。じゃあ改めて聞くけど、そんならサンタはどこに居るんだよ」
すると彼女はにかっと笑って、その右手を自分の胸にあてた。
「みんなの、心の中に!」
どうしよう、良い話の予感が全くしない。
一瞬、そんなことを思ったのが表情に出たのか、彼女は人差し指を立てて振ると、ほんのりと柔らかな微笑みを見せてこう言ったのだ。
「サンタさん自身は、幼い頃サンタさんに何をお願いしたのかって、考えたことある?」