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黄金時代

作者: 沙呉

一番輝いていたのは小学校時代という人は結構いると思う。


11月5日 改稿しました。

「だからさ、みんなまじめにやろうよ? 中学最後の合唱大会なんだよ?」


「やる気はあるけどさ、毎日毎日朝も昼も帰りも練習ってきつ過ぎるんだよ。私たちだって部活もあるし、遠い子は六時前に家出て来てるんだよ」


「部活部活って言うけどさー、私たち合唱部は大会の練習で音楽室が使えなくてこの時期部活出来ないんだからね?」


「ていうか家遠いのにちゃんと時間通り来る子がいて、近い奴が遅刻とかどういうこと?」


(うああああやばいやばいやばい! このままだとクラスが分裂する! もう! 優勝とかいいから穏便に仲良くやろう!?)

 私ははっとした。

 「穏便に仲良く」なんて、昔なら言わなかったことだから。


 今、私たちの学校は合唱大会二週間前で、色々問題の起こる時期だ。三年生の私たちには最後の大会となる。当然張り切ってしきる子がいて、それに追随するのが合唱部。

 もちろんこういうイベントごとに参加するのが面倒だっていう人たちも一定数いるわけで、女子校ということも相まって陰口が絶えない。

 指揮者は投票で選ぶからそれは人望がある子なわけだけど、笑顔と人徳で引っ張るタイプじゃなくて、きついことも言って率いてくタイプの子が選ばれたから、今のようなことになっている。

 成功すれば万々歳だけど、失敗したらその後のクラスの空気に耐えられなくなりそうだ。

 私は、特に文句も言わなければ擁護もしない。

 なんというか、保守的なのだ、考え方が。

 波風立たせず仲良く進めて、そこそこの結果が出ればいいと思っている。

 中学に入る前は、私も今の指揮者の子のように、ガンガン言ってクラスを引っ張る学級委員をしていた。まあ敵も味方も多いタイプだったといえよう。あの時代が懐かしい。

 おそらく、世の中の人間のある一定数の人にとって、人生の黄金時代は小学校なのではないだろうか。

 五十人の中で一番になれるくらいの足の速さ、頭の良さ、容姿。そんなものを持っていればたちまち人気者になれる。それは中学、高校へ行くと埋もれてしまうくらいの特技で。

 私のそれはリーダーシップだった。学年の初めに数十秒スピーチをして、投票を行えば当たり前のように学級委員に選ばれた。まず即興でスピーチを言える子がほとんどいなかったし、ピアノを習っていて発表会などで舞台慣れしていた私は有利だった。

 そういえば伴奏者や指揮者もやったことがあった。今じゃ考えられないけど。

 たまたま勉強もできたから、中学は私立の女子校に行った。そこで人生の転機(十五歳現在)が訪れる。私は戦慄した。

「英検二級持ってるんだ。前アメリカに住んでて」

「三歳からピアノやってて、コンクールでは――」

「――ちゃんバレエすごく上手いよね、発表会で主役やったんでしょ?」

 周りが凄すぎる。

 あと目立っていないけど教室の片隅でずっと聖書読んでる子とか、なんだかよく分からないアニメのグッズを鈴なりにかばんにつけている子。絶対パーマかけてるだろっていう巻き毛の子。これが都会というものか。私ってば田舎者だったんだな。

 私の地元からは知り合いがほとんど入って来なかったので、萎縮していたのもあるが、最初の学級委員決めに私は立候補しなかった。そうしたら、クラスの四分の一、約十人が立ち上がったのだ。ありえない。

 いつのまに用意したのか女子力の高そうな可愛いメモ帳に、綺麗な字で書かれたスピーチの原稿。私のが遊びに見える立派な内容に、笑みを浮かべて周りを見渡しながら話す演説技術。

 正直勝てないと思った。

 小学校では、やらなければならない仕事をやる人がいなかったから私がやっていた。学級委員とはそういう認識だった。

 でもここでは、何をやるにしても私よりうまくやれる人がいる。これでまだ中学校だ。これから高校に行って、大学に行って社会に出て。もっともっと凄い人たちがいるに違いない。そう思ったら、やる気なんてものは塵になって消えた。そのくらいショックだった。

 なんでも率先して意見を言って、進んで責任を負った。その分の義務は果たした。敵も多かったけど充実していた。

 クラスのリーダーだった私の黄金時代は幕を閉じ、今じゃ私は「その他大勢」だ。挑戦を恐れ、波乱の末の勝利より、活力のない穏やかな平和を望む。

 壊れていく調和に歯止めをかけられる駒じゃない。


 違う。

 

 違う!


 そうじゃない! 違うだろう? 自分!

 「その他大勢」だから何も出来ないんじゃない。何もしなかったから「その他大勢」になってしまったんだろう?

 周りが優秀? それがどうした?

 だからと言って萎縮してしまえば、本当に「その他大勢」になってしまう。私が不甲斐ない責任を! 周りに押し付けて!

 今だって、指揮者も他の子も、必死にいい方向に持って行こうと頑張っている。それを冷めた目で見て、部外者のフリなんて格好悪いにも程がある。

 

 私はすっと息を吸い込んだ。


「ねえ! ちょっと―-」


閲覧ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小説投稿初めて 間もないので、ほかの人の小説をみて勉強しているところです。 短編小説を見るのは初めてなので、短い小説の中で、物語りを完結させなければいけないので、難しいと思うのですが、すご…
2014/11/05 00:29 退会済み
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