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華と剣―fencer and assassin―  作者: 鋼玉
第五章 流転黎明
48/50

四十八、夕影宴路

更新遅れてすみません

降り立つは再会の地。

そこでの新たな出会いは何を生むか。



――オレと一緒に旅をしないか


巷では白狼と呼ばれているらしい白髪の青年はそう言って屈託のない笑みを浮かべた。

裏のない純粋な言葉にかけられた方の黎と舜水は思わず目を瞬かせる。

『何を言っているのか、こいつは』

言葉には出さずとも二人の意見は一致していた。黎はただただ眉をしかめ、舜水に至っては耳に指をつっこみ聴覚に異常がないのを確認している。

「なあ、駄目か? 」

しかしそんな二人の様子なぞ構うことなく青年は念を押すようにさらに口を開く。駄目かと問いつつもその眼はきらきらと輝いており、同意を得られるものと思いこんでいる節があった。

『空気読めよ』

そんな彼の様子に黎と舜水は互いに肩を寄せつつ口のみを動かし溜息を吐く。

まあ、不器用故に身体を重ねることなぞ夢のまた夢の仲である。だが、男女二人でこうして旅をし、さらに同じ部屋に泊まっているところを見れば二人の関係なぞおのずと察しがつかぬものか。

「……すまん」

黎の肩を抱いたまま、目を伏せつつ心底申し訳なさそうに舜水は彼に謝罪する。もちろん本当に申し訳ないと思っているわけではなく、普通ならそこで諦めるだろうという目算であった。

しかし。

「ん、手前らの仲は邪魔するつもり無いんだがなぁ」

要は黎と舜水の仲は邪魔しないし、己も気にしていないよということ。

全く折れる気はないようで、頬を掻きながら青年は床に座ったままにへらと笑う。

「駄目だこいつ」

「……だな」

二人は顔を見合わせて互いに苦笑した。

年の頃は黎と同じくらいのはずであり、その色の抜け落ちてしまった髪を見るに修羅場をくぐりぬけてきているはずであるがとてもそうとは思えぬ様子。

そもそも連れて行ってくれでは無く、付いてこないかとは……おまけにかなりの自信家なのか。こういう人間に出会ったことのない二人は、付いてくるなという思いの隅に僅かに興味を抱き始めた。

青年もそれを悟ったのか、ますます表情を明るくして口を開いた。


「単純に興味があるってわけだ、国一と謳われる剣客に葵沃に……」

そこまでいって一端彼は何かを考え、すぐに黎のほうに向きなおって口を開く。

「黒鵺だっけ。夜哭が生み出した至高の暗殺者」

――刹那、空気が凍てついた。



懸念はしていたが……

黎と舜水の顔つきがみるみる険しくなり、指先がそれぞれの得物に伸びる。

「何が狙いだ」

口を噤んだままの黎に代わって舜水が青年に歩み寄り、襟首を掴みにじり寄る。

舜水の名前ならまだしも、黎の二つ名を知っているのは明らかに異常である。

二人がかりなら始末できる、という考えが舜水の脳裏を駆け巡り。

黎の全身を殺せ、という己の性が発する声が木霊する。

「あー、別にさっき言ったこと以外の他意はないぜ」

それだけで人を殺せそうな殺意を向けられたにも拘らず青年は笑みを崩さない彼。二人は同時に溜息を吐いた。

憎めない、というより憎むこと自体が阿呆らしくなる。

そう思いつつ舜水はゆっくりと青年の襟首から手を離し、首をしゃくった。

「とりあえず部屋入れ」

「お、じゃあ」

「ここで押し問答していても仕方がないということだ」

青年は立ち上がりつつ期待に満ちた目で舜水を見るが、横から黎に小突かれさらに背中に蹴りを入れられる。

「わあっているよ! 」

未だに酷い扱いであるが、答えた青年の声は楽しそうに弾んでいた。





「オレは嘉煕(かき)っつうんだ」

ちゃっかりと一方の榻を占拠しつつ青年は己が名を語り、卓の上に置かれた焼き菓子を頬張った。

「冷えても旨いな、これ」

「勝手に食うな」

「まあそう固いこと言うなって」

黎の咎めるような視線に嘉煕はそう言って彼女の肩をポンとたたいた。黎はその手を払いのけ舌打ちをし、舜水はどこか子供のように嘉煕に敵対心を表す黎の様子に苦笑する。

「黎、あんまり苛々すると綺麗な顔が台無しだぞ」

「っちょっと何言いだすかと思いきや! 」

このまま放っておいても延々と不毛な言い合いになるのが目に見えている。そう思いつつちょっとからかって見た舜水に黎は思わず赤面し、ぱしぱしと彼の肩を叩いた。

「手前ら本当に仲いいのな」

そんな様子を口の端に菓子の滓をつけたままで嘉煕はケラケラと笑う。それを理解しつつ、ついていくつもりとは根性が据わっているとしか言いようがなく呆れるしかない。

二人は顔を見合わせてまあいいかと互いにくすりと笑い、嘉煕に向き直った。

「仲が悪くて何が悪い……ん? 」

言う黎。そこまでいってふと俯いて何かを思案する。

「どうした? 」

「嘉煕……そういえばその名聞いたことがあるぞ」

そう言って再び嘉煕に向けられた視線はまるで射殺すかのような冷たいもの。

「貴様……元禁軍左軍帥、宋嘉煕だな? 」

「は?! 禁軍?! 」

その言葉にまず驚いたのは舜水。その顔色は心なしか青ざめていた。

(すい)、それは将軍のすぐ下の位を賜る武官であり二千五百の兵を率いる将。大逆人にとってはこの上なくまずい相手。現王がその外道ぶりに似合わず才あるものを取り立てるにしても、黎と同じくらいの年でその地位に昇りつめるのは異例中の異例だ。

「正解。よく知ってんな」

嘉煕はその言葉に満足気に笑いピンっと親指を立てた。黎はそんな彼の様子にやはりな、と呟きつまらなそうに鼻を鳴らした。

「黎、何で平気な顔をしている? こいつは」

二人の顔を交互に見て困惑した様子の舜水に黎は苦笑し、人差指で彼の頬をつついた。

「大丈夫だ。こいつも王に追われる身だよ」

彼女は嘉煕について聞いたことがあった。夜哭党に組み込まれて一年半ほど経ったある日に彼女が憎み、そして殺した相手から。




――過去、皓州の夜哭党の本拠にて

鬱蒼と茂る森の一角の特に枝の密に生い茂った大樹の枝に腰かけ夜哭は口を開いた。

「全く、困ったものですよ」

困ったと言いつつ彼の柔和さと狡猾さを秘めた顔は何時もとさほど変わらない。

その言葉に彼の上方の枝がガサリと揺れ、枝葉の間からやや苛立ちを含んだ声が降り注ぐ。

「で、仕事か? 」

木々の間から彼を睨みつけたのは当時黒鵺と呼ばれていた黎。

要件を早く言えと急かす彼女の指には金票が握られており、膝の上にも数本のそれが並べられている。

「いえ、まあちょっと愚痴を聞いてもらおうかと」

「嫌だと言ったら? 」

言い捨てる彼女はすでに視線を逸らし、手に握った金票の研ぎ具合を確認している。

「別に気にせず話しますよ」

「鬱陶しい」

彼は彼女の全く話に興味を示さないばかりか早く消えろとばかりの態度を欠片も気にせず何時も通り語り始めた。


「……宋嘉煕という男を知っていますか? 」

「知らんな」

一応は聞いているようであるが黎の返答は素っ気ない。

「おや、宮中のことは頭に叩き込んだほうが良いですよ……まあ左軍の帥の一人です。歳は貴女と同じくらいでしょうか」

その言葉に彼女の手の動きがぴたりと止まった。

「その若さで帥とは驚きだな」

その声色に僅かに驚きの色が混じるのを聞いて夜哭はやっと興味を持ってもらえたと微笑むが、すぐに表情を曇らせる。

「ですね。全く……戦闘狂という生き物は厄介だ」

「……どうした? 」

何時もの慇懃無礼な言葉ではない苛立ちを含んだ言葉。

彼女の問いに彼は静かに苦笑する。

「貴女から問うとは珍しい。それだけでも話した価値がありますよ」


そして彼は枝葉の間から除く曇天を仰ぎ吐き捨てた。

「裏切り。奴には正義も悪も無い……ただあるのは強さへの渇望のみだ」

王への忠誠が全ての彼にとってその嘉煕という男の存在は嫌悪に値する存在だった。

その男は禁軍左軍の副官という地位に昇りつつも、強さを求め同僚に剣を向けたのだ。

将軍の下には五つの師団が存在し、その長官が帥である。

宋嘉煕の暴走にて彼が属していた師団も含め、三つがその頭を失った。

残り二つの頭が残ったのは……単に取るに足らないと彼が判断したから。

「とんでもないな……東に行っている間にそんな変事があったとは。残念だ」

話を聞いて彼女は嘆息した。その言葉の端々にはその変事を利用することができなかった悔しさもありありと見て取れた。

そんな彼女の様子に夜哭は相変わらずですね、と彼女の愚かなまでの深き憎悪をせせら笑い口を開く。

「勿論、主上は禁軍と我々に奴の始末を命じました」

その言葉の裏には暗にその男を取り逃した悔しさが滲み出ており、黎は夜哭から逸らした顔を笑みの形に歪めた。

「は、良い様だ」

嘲笑すら含んだ黎の言葉、そこまで言われると夜哭も名誉に関わるらしく眉を跳ね上げ小さく吐き捨てた。


「相手も化け物ですよ。貴女と同等かそれ以上に……」


それ以降は何を話したのか曖昧であり、黎自身夜哭の存在など思い出したくもないのだ。

しかし彼女の記憶の中で夜哭がはっきりと明言した唯一の敗北であるそれは不思議と記憶に残った。



――再び現在

「まさか……こんなところで会おうとはな」

忌々しき記憶をそのような言葉で結び、黎は嘉煕に笑いかけた。やはり強さというものに惹かれざるを得ない舜水は彼の所業に感心した様子であり、対して嘉煕は後ろ頭をがしがしと掻き毟りながら照れくさそうに笑い口を開く。

「お前こそ、覚えてないかもしれないが何度か宮中で見かけたことがあるぞ」

街で見かけたときは驚いたぜ、という言葉に黎は何故奴が己のことを知っていたのか得心がいった。多分直に顔を合わせたことはないのだろうが夜哭について公式に夏官府を訪れたことは二、三度ではあるがあった。

「なるほど、な」

その言葉に舜水は黎の肩にポンと手を置いてにやりと笑った。故に嘉煕は彼女の顔を知っていたわけであり、そしてどこかで彼女が何をやらかしたのか聞いて興味を抱いたのだろう。そして彼女を追いかけた先に……大逆人の己を見つけたわけか。

「まあ、何というか色々素晴らしいな」

「だろ?! 」

皮肉を込めた言葉。しかし嘉煕はそんな意図を敢えて無視したのか目を輝かせ、身を乗り出す。息がかかるほどに近づけられた顔、二人は目を白黒させつつも同時に吹き出した。

「まあ、しばらく一緒に旅してみるか」

鵬と接触するのはしばし後にせねば、と思いつつ舜水は口角を上げつつ黎を見やる。

「そうだな……信頼はできないが」

本当に危険なのは正義も悪も何もない人間だ。夜哭の言葉は彼女も頷かざるを得ない。

今は悪意が無いが、いつかは己が強さを証明するために刃を向けるかもしれないという危険な相手。しかし彼女の表情は笑みを形作っており、舜水の言葉にこくりと首肯した。

「ひゃっほう! 恩に切るぜ」

その返答に嘉煕は満面の笑みを浮かべて二人に抱きついた。


「お近づきの印ってやつだ。まあ呑めや」

どうやら余り人の言葉を聞かぬ癖に社交辞令というものは弁えているらしい。

ひとしきり喜んだあと彼は、ふらりと街に出て行き片手に酒瓶を下げて戻ってきた。

白い歯を剥き出しにして笑って嘉煕は卓子の上に叩きつけるように酒瓶を置き、厨房から借りてきた貝殻の杯にそれを注ぎ二人に勧めた。

「洟州の月滴酒、特に北方のものか。悪くはないな」

「酒はあまり……」

杯から漂う強い酒気と甘い芳香。

酒を揺らして検分し満足そうに笑う舜水と、酒と聞いて眉を顰める黎。

基本的に意見が割れることがそうそうない二人だが、珍しく異なる意見が出た。

どうやら黎はあまり酒が好きではないようである。

「何だ小姐ちゃん、下戸かい? 」

「その呼び方はやめろ……酒は結構強い方だ」

毒の類は効きにくいし、と黎は呟いて杯を受け取る。どうやら小姐ちゃんという呼び方はあまり慣れないようである。

「酒は毒じゃねえよ、百薬の長っていうだろ」

自らの杯にも酒を注ぎ、さあ、と二人を促す。

その言葉に舜水と黎は己が手に持った杯を傾け、三つの口が同じ言葉を紡ぐ。


干杯(かんぱい)! 』


かちり、という音とともに杯をあおり、それぞれの喉を酒が伝い一瞬後に甘い芳香と酒が喉を灼いた。



強さ。

目的を成すための手段とする李舜水。

生き延びるための糧とする秦黎。

それ自体を渇望し目的とする宋嘉煕。

信念を剣にのせて共に朝廷に追われる明日をも知れぬ生命を選び取った者達。


こうして三人の大逆人は出会い、そして共に旅をすることとなった。

部屋に満ちる酒の匂い、溢れる談笑。この束の間の宴のような旅路、この先何があるのかはわからない。

突然現れた嘉煕の存在は二人の絆に少なからず影響を与えるだろう。

しかしこの時ばかりはそのような不安は不思議と無かった。



――深夜。

どうやら日頃の疲れが溜まっていたのだろう。酒も手伝ってか三人はぐっすりと眠っていた。静寂の中で寝息のみが刻々と時を刻んでいく。

丑の刻から寅の刻へさしかかる頃、黎はゆっくりと目を開く。

酒のせいか頭の内に広がる鈍痛と茫洋とした眠気に顔を顰め、身体を横たえたまま隣の榻に目を向ける。


榻から上半身を投げ出しこの季節にしてはかなり寒そうな体勢で眠る青年。

『全く信じられんな……こいつが』

再びまどろみつつも彼女は内心苦笑した。

聞いた覚えがあったから聞いてみただけ、唯それだけだったが……まさか大当たりだったとは。全く信じ難い。

破天荒という言葉の化身のような男。正義も悪も無く、ただあるのは強さへの渇望。

仲間としては面白いかもしれない……しかし警戒せねばならない。

『今なら殺せる……いや』

胸の奥のざわざわとした不安は睡魔に負け、彼女は無意識に隣を探り舜水の手をそっと握る。相変わらずこの程度の仲であることに複雑な思いを抱きながら、ごつごつとしているものの温もりのある手の平に彼女は安堵を覚える。

『私は、貴様の盾であり刃』

貴方が誓ってくれたように……私も誓ったように。

成すべきことなぞ決まっている。

彼女の想いに答えるかのように彼女の手が握り返され、黎は静かに微笑んで目を閉じる。

胸の奥に決意を抱きつつ黎は再び眠りの淵に落ちて行った。


***


彼女は夢を見た。

鮮血、轟く慟哭は己の声。

振るいし刃は届くことなく、己を刃が切り裂いてゆく。

そして彼女の眼の前で倒れ伏すのは――


彼は夢を見た。

涙を流し猛り狂う愛しい彼女。

泣くな、と言おうにもまるで己が身体が鉛に変じたかのように動かない。


彼女の視線が向く先は――


***


――嫌な夢だ。


ほとんど同時に目覚めた二人は、窓から差し込む光に目を細めて内心毒づいた。何故こんな夢を見たのか、お互い昨夜の酒のおかげで麻痺した頭でぼんやりと考えつつふと傍らの相方の顔を見た。

「おはよう」

「おはよ。なんか浮かない顔だが」

「そっちこそ」

互いに見た夢のことには触れず、舜水は黎の頬に口づけて黎はくすぐったそうに微笑む。

「まあ、酒のせいだろう……頭痛い」

「ああ、頭がぼうっとする……」

呟きつつ頭を押さえる。頭の芯から響く痛みはお互いあまり慣れぬようでうんざりした様子である。あの月滴酒、洟州の名物というべきものであり贈り物として好まれるが飲みやすさに反してかなり強い酒である。洟州に酒豪が多いという話も時折聞くがあながち嘘ではなさそうだ。

「そういや、奴は」

「寝てるよ。寝ぞうが悪いにもほどがある」

頭を押さえながら顔を上げる黎に、どこか楽しげに舜水は部屋の向かい側を指さす。一体どういう状態なのか、乱れた髪を適当に括りながら見やった黎は思わず噴き出した

確かに夜中もかなり妙な体勢で寝ていたが…………どうやったら頭を卓子に乗せてかつ足は榻に乗せたまま大の字の状態になるのだろうか。

かなり無理のある体勢ではあるが本人はいたって普通に熟睡しており、さらにその姿が笑いを誘う。

「なんだかんだいって一番飲んでいたからな」

「自分で持ってきておいてな」

正確に言うと嘉煕が多量に飲むようにさりげなく仕向けたというわけだ。

くすくすと二人は笑いながら、それぞれのやや足元がおぼつかないながらも立ち上がる。酒が残っていようと最近日課となっている鍛錬を欠かすことはない。しかしただ一点、何時もと違うのは旅荷物をまとめているところか。

『ま、これで振り切れれば問題ないし』

付いてきたかったら意地でも追ってくるだろう、なんだかんだいって二人旅に奴は邪魔だ。

一度視線を交わし互いの思いを確認した再び歩き出した。





――しかし

「置いて行くなんて酷いぜ二人とも」

南の門まで来た時、そんな明るい声とともに肩を叩かれた黎と舜水は心底うんざりした様子で舌打ちした。

敢えて夜話していた本来の目的地と異なる方向の門を選んだのに、あっさり嗅ぎつけられてしまった。どうやら奴の嗅覚は獣並みのようである。

「……どうして分かった? 」

「ん、敢えて言うなら勘だ」

舜水の問いに昨日の酒など全く残っていない様子で言い放つ嘉煕。

何が何でも付いて行くつもりらしい。

「少しの間だけだ」

「おう、わかってるよ」

黎はそんな彼を諦めの混ざった視線で見つめつつ、思案する。

こいつは己以上に信用できない、故に鵬に接触させるわけにはいかないだろう。

しかし鵬との接触はできるだけ早く為すべきだ。


ならば……

ふと視線を上げると舜水と目が合い、彼は任せておけとばかりに目を細めた。

……舜に任せるしかあるまい。

頷いた黎に微笑み、舜水は地平線の先まで伸びる街道と更に遠くにうっすらと見える山々の稜線を見据える。

冬の朝の冷気を含んだ風が三人の間を抜け、黒と白が風に揺れる。

そして舜水が次の目的地を告げ、黎はその目を驚愕に大きく見開いた。


――皓州へ


それは王から追われる彼らにとってあり得ない選択。

しかし、舜水の表情はその言葉が冗談でも何でもないことを語っていた。

突然のことに困惑する黎に彼は彼女だけに聞こえるようにそっと告げた。


『物はついで、会わせておきたい奴がいる』


こうして動きつつあった運命の車輪の動きは本格的になっていく。


長い文をお読みいただきありがとうございます。さて、今回は青年の名前と正体が判明。夜哭に軽蔑されるとは将来有望……じゃないか。当分ついて行くつもりのようで二人旅が三人旅になります。

のんびり更新ですがお付き合いいただけたらと思います。

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