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華と剣―fencer and assassin―  作者: 鋼玉
第一章 双恋双殺
13/50

十三、鵺哭と鵬声

高く乾いた金属音が響く。

交差された隠形せし刃とそれを阻む細い銀光。

そして交差される瞳と瞳。


「一体どういうつもりかねぇ? 」


紙一重のところで黒鵺(こくや)の刃を止めた主、紅蘭(こうらん)はその視線を険しくする。


「何故気付いた」


黒鵺の声は落ち着き払ったものだ。

まるで硝子を打ち鳴らすようなよく響く冷たい声。

先ほどまで喜怒哀楽の表情を見せていた顔は仮面の様なものに変化している。

その返答に紅蘭はフンと鼻を鳴らし、さらに問う。

「女の勘よ。あんたの思惑は何だい? ――風月」


黒鵺、いや、先ほど黒烏によって右肩を裂かれた風月は、今も血に濡れているにもかかわらず、しっかとその腕に握った刃を差しのべながら、僅かに眉を顰める。

確かに一月程度の付き合いではあったが彼女は、紅蘭の感が妙に鋭いことに気づいていた。

だが、彼女は些事と考えた。

それが失敗だったようである。

「決まっているだろう」

口元に笑みを浮かべ黒鵺は答える。

そこにはあのそそっかしい娘の姿は無い。


紅蘭の返答を聞く前に黒鵺は半歩下がり刃を振るう。

キッ

金属が軋む音が響き、紅蘭の右腕の刃と黒鵺の右腕の刃が合わされる。

一瞬後には銀盤の様な回転体が黒鵺を襲い、彼女は体をひねり回避する。

立て続けに金属音が響き、紅蘭は両手の得物をまるで舞うように黒鵺に浴びせる。

互いにゆったりとした襦裙(じゅくん)を着ているとは思えない速さ。


しかし黒鵺は別段焦るわけでなく手の平ほどの長さの薄い刃でその回転を防ぎつつ飛びさがる。

一際高い音が鳴り響き、両者は互いに跳び退り睨みあう。


小道の終りに差しかかり黒鵺の背後は広途(おおどおり)となっている。

黒鵺は刃を袖に戻し、紅蘭は両手に持った得物を構えつつ、くるくると回転させる。





「全くもって……勇ましいな」

何も持たぬまま両手を静かに構えつつ黒鵺は茶化す。

紅蘭の両手にあるのは先が鏃のように尖った細い金属の棒。

よく見るとその中程に輪があり、彼女はそこに指を通して回転させている。

その武器の名は峨眉刺(がびし)。寸鉄に近い武器で、その長さと回転による斬撃がそれと異なる。

その様子は随分と自然な様子で彼女もそこそこ腕が立つようである。



「それはお前も言えることじゃないかい? 」

紅蘭は声こそは余裕があれど、焦りを感じ始めている。

肩でゆっくりと息をつきつつどう攻めるか思案する。


「紅蘭、お前には無理だ」

その時彼女の背後に来ていた義慶が、何かを悟ったのか焦った様子で囁く。

紅蘭は目を見開くが首を左右に振り、答える。

「……早く逃げな」

その返答に義慶はその相貌を歪め沈痛な表情で頷き、駆けだす。



その様子を視界の端で確認した瞬間、紅蘭に致命的な隙が生じた。

「消えたっ?! 」

視界から消失した敵に彼女は己の過失を痛感し、あたりを見回す。

その瞬間――

「……その意思感服するが、利用させてもらう」

耳元で囁きかけられた声とともに彼女の脳天が激しく揺さぶられ、彼女の意識は沈んだ。


「紅蘭さん。貴方のことは本当に尊敬している」

そっと彼女を受け止め、黒鵺は、彼女を左肩にかつぐ。

「だが、こちらも仕事だ」

人一人を担いでも、顔色一つ変えずに静かに自嘲気味の笑みを浮かべる。

一瞬伏せ、前を見据えた瞳に宿るのは冷たさと熱さを宿す青き炎。

彼女は標的を追うべく音もなく地を蹴った。









その頃、義慶たちは小道を縦横無尽に駆け回り、街外れの廟まで来ていた。

何を祀っていたかさえ分からないほど荒れたそこで、戦えない娘たちを除いた義慶を含めた四人の男はあたりを警戒しつつ息をひそめる。


「……紅蘭の姐さんは? 」

「あきらめた方がいいだろうな」

心配そうに尋ねる小男に義慶は苦渋の表情を浮かべつつ舌打ちする。


あの風月といった娘……あの様なものが紛れ込んでいたとは迂闊だった。間違いなく彼女は暗殺者だ。

恐らくは先ほどの風変りな刀の男とぐるなのだろう。

あの場は紅蘭に任せるしかなかったが、胸が痛む。

頼むから死なないでほしい。

我儘なのかもしれないが心底そう思う。

紅蘭の恋人としてではなく、鵬の頭としての決断を間違いだとは思わない。

だが、願うぐらいいいだろう。


立ち上がり、大刀を手に廟の屋根の下から五歩ほど歩き出て、何気なく空を見上げた。




その時、空に浮かんだ月が蔭った。

「紅蘭! 」

月に影を作りつつ落ちてきたのは、先ほど足止めを引き受けた紅蘭。

力なく落ちてきた愛しい者に手を伸ばそうとした瞬間、あることに気づく。


――あの暗殺者も来ている!


気づいた瞬間紅蘭の襦裙の裾の数か所に穴があく。

濡れた音に乾いた音。

複数の音が連続的に響き細い何かが義慶に向かい大量に突き刺さる。


「くそっ! 」


攻撃を大刀の柄で防ぎつつ紅蘭を抱き止め地面を転がる。

黒鵺はその動きを追撃するように金票を投げつつ己の襦裙に金票を当て、そのまま廟の屋根を蹴り、夜空に舞う。


布の裂ける音とともに彼女の左足より細長い影が生え、猫のように体制を整えた彼女はまっすぐそれを捧げ持ち義慶に振りおろす。


「畜生! 」

それを大刀で防ぎ、体制を立て直し力任せに得物を思い切り振りぬく。

空間ごと切り裂かんとする一撃に黒鵺はその瞬間地面を蹴り宙返りをして飛びさがる。

避けきれなかった襦裙の裾がその一撃により抉られ持ち去られるが、彼女は全く引きずられること無く音もなく地面に着地する。

彼が立ち上ったときと、黒鵺が地面に降り立ったのはほぼ同時であった。

「っつ! 」

紅蘭を地面に寝かせ立ち上がった義慶は顔を顰める。

彼の左頬には長く痛々しい朱の線が入り、紅い血が溢れる。

左の大腿や、脇腹からも血がとめどなく溢れ、絶えることのない痛みが彼の動きを鈍らせる。



黒鵺は落ち来る紅蘭を月を隠す雲に見立て、狙いである義慶に攻撃を仕掛けたのだ。

この廟は崩れかけた構造上、屋根には登りやすい形状になっている。

その地形も利用したようである。

投躑されたのは棒状の金票(しゅりけん)

彼はそのうち数本は避けたが全ては避けきらなかった。

紅蘭を見捨てれば恐らくは避けられたが彼はそうはしなかった。


黒鵺はまんまと紅蘭を利用したのだ。

人質としてではなく、義慶を殺すための武器として。





痛みをこらえつつ、彼は目の前の暗殺者、黒鵺を睨む。

愛しい者を利用された怒りと見知った人間の変貌による戸惑いをこめて。

彼女は感情の読みとることのできない瞳で攻撃するわけでもなく、彼を見ていた。


彼女の襦裙の左側の裾は太ももにかけて裂かれ、そこに吊るされた剣の鞘が覗き、綺麗に結ってあった髪は適当に束ねられている。

そして肩口がいまだに血に濡れる右手には抜き身の黒剣がしっかりと握られていた。


「怪我はどうしたんだい? 」

「しているわけないだろう。あれは獣の血だ」


その様子を奇妙に思った義慶は静かに彼女に問い掛ける。

彼女は嘲るように笑いつつ答える。

「あいつは仕事だけは正確だからな」

彼女は囮となった黒烏の顔を脳裏に浮かべる。

一月ほど前の例の件がある故、今一信用できなかったが、仕事以外の感情がほとんどないというのも存外良いことかと考える。

作戦開始の合図と相手の油断を誘うため。まさか手負いが仲間とは思わぬように。

「さて、無駄口はこのあたりにしよう」


彼女の首が一瞬傾ぎ瞳孔が収縮する。

次の瞬間、一足飛びで肉薄した彼女と目が合う。

彼はその瞳の中に人外の光を見た。

「うわぁ! 」

義慶は感じた恐怖のままに大刀の刃を振りぬく。


その刃は彼女の左腕で受け止められる。

本来なら腕の一本や二本落ちてもおかしくない攻撃だが、彼女の腕は落ちない。

凄まじい金属の音が彼女の腕から響く。

どうやら服の中に何かを仕込んでいるようだ。

ただやはり衝撃は殺しきれなかったのか彼女は僅かに左の眉を跳ね上げる。

そして続けざまに刃を返し、迫ってきた大刀の石突きを回避して距離をとる。


「……さすがに大刀を受けるわけにはいかないな」

衝撃でしびれた左腕を軽く振って感覚を回復させる。

彼女は大刀使いと戦ったことはないがその武器についての知識はあるつもりだった。

……しかし、じかに受けてはいないものの金票を鎧のように仕込んだ腕で受け流しただけで金票が砕けるのはあまりに恐ろしい。


――さてどう攻めるか


心の奥底で冷静に思考しつつ彼女は音もなく地を蹴った。



暗闇を剣花が散る。

一方は殺意の刃を、一方は護りの刃を――ただ振るう。



黒鵺はただただ速く正確に。

右手が剣を振るう中、時折左手が動き、己の裾や袖を影に金票を放つ。

棒状のそれは剣と同じく黒く塗られており、黒烏と斬り結んだ時のように幻影の様な剣術の合間を縫うように義慶を苦しめる。

義慶は変則かつ闇にまぎれた攻撃に耐えつつ、手にした大刀を振るう。

時折傷の痛みか顔をしかめ動きを鈍らせるがその動きは洗練されたものである。

槍の穂先が刀になっているそれは重量による斬撃が主な武器である。

その重さ故操るには大変な力がいるが、彼は黒鵺の攻撃に対応できるほどその武器を操りきれている。


振り下ろされた大刀を黒鵺は回避するが、その代わり地面が大きく抉られた様子を目にし、その顔を引きつらせる。

『やはり、大刀は厄介だな』

やはり短距離武器と長距離武器、武器の差は大きい。

威力以前にやはりなかなか接近できないことが痛いようである。

技量は明らかに黒鵺が上だが戦況は拮抗している。


全てを引き裂かんとする鵺の爪。

全てを貫かんとする鵬の嘴。


ただ二人は無心にそれを振るい続けた。


一際高い音が鳴り大刀の柄と黒剣の刃が合わされる。

一瞬の拮抗。

刹那、黒鵺は目を細め小さく舌打ちをする。

丁度振り下ろされた大刀の刃の背に足を駆け、後ろに大きく跳躍する。


ザンッ


黒烏のいた空間が複数の刃により串刺しになった

突き出された刃のうち三本は先ほどから機を窺っていた義慶の仲間のもの。

「仲間が居ったことを忘れておったわ」

彼女は楽しげに笑いそれらの刃をすり抜けるように避けつつ、剣を握っていない方の手で、足で男たちを攻撃する。


その体術は先ほどの黒烏のものと酷似していたのはやはり、それを教えたのが同じ人物故か。

彼女が三人の男をねじ伏せるのには一分もかからなかった。


「大丈夫、標的以外は殺しはしない」


大刀を突き出そうとした義慶を遮るように言葉を紡ぎ、地に伏し呻く三人のうち、手近な男の首に静かに足を乗せ黒鵺は静かに告げる。

力の入れ方によっては脛骨がはずれ、男は絶命する。

義慶は止む負えず、刃を下ろす。

それを確認し、彼女はほんの少し爪先に力を入れ、気管がふさがれたその男は気を失った。


彼から足を放した彼女は、剣を静かに構える。


「随分と紳士的だな。いや女性に言う言葉ではないか」

「私とて無闇に人を殺すのは好まぬ」

大刀を下段に構え微笑む義慶に黒鵺は首を左右に振り皮肉気に笑う。

その答えに義慶は苦笑する。

「それにしては迷いが無いようだが」

その言葉に彼女は迷うさ、と吐き捨て、そして彼をまっすぐ見据える。

「貴方は標的だからな」

さらに問い掛ける義慶に彼女は僅かに表情を曇らせつつ笑う。


彼女は殺人を迷うが、やるとなると恐ろしいまでの力を見せる。

正確にいえば相手をどう倒すかという思考、それを実行する腕がずばぬけている。


生きたいから、いつか敵になりかねない周りを滅する手を常に考える。


それが殺意なき殺意の正体であり、弱さを憎みただ強くなることを願い実現した彼女の性質だ。





「一つ聞きたい。君が紅蘭の元にいた時のあの表情、あれは全て偽りか? 」

義慶はその瞳に穏やかな光をたたえ尋ねる。

彼は常に紅華楼にいるわけではないがこの一月、せっせと働く風月としての彼女を見ていた。紅蘭にどやされながらも、同僚の娘や鵬の仲間に楽しげな笑顔を向けていた、彼女。

それも演技だったのかと彼は思った。

「――あれも私だ」

ふ、と黒鵺は笑う。

無能な小娘、その点は演じていたが、その他は偽りなき己の姿である。


「そうか。それは良かった」

義慶はにっこりと笑い、その視線を険しいものへ変化する。

瞳に宿るは――闘志。

「だが、俺は君を許せないし、ここで倒れるわけにはいかない」

「そうだろうな」

彼女も笑い剣をまっすぐ刺突の形に構える。



二人はそのままゆっくりと開けた場所へ移動する。

一歩踏み出すごとに二人の間の空気は凍りついて行く。

そして二人は向かい合ったまま静止する。


「では」

「改めて」

溜息をつき、二人は同時に言葉を紡ぎ地を蹴る。



「尋常に勝負」

「御命頂戴致す」








その頃西の路地で――


黒烏と追っ手の三人の戦いは黒烏が圧倒的に有利であった。


振り下ろされた刃を流星錘の紐で受けつつ距離を取り覇玉は毒づく。

「おいおい、何だってんだあの強さ」

「さあどうなってるんでしょうかねっと! 」

一気に接近され振り下ろされた刀を逃げるように避けつつ昭庸も同意する。

その間にも黒烏には怒れる獣と化した蒼旋が両の刀を旋風のように操りつつ斬り付け、覇玉の錘が彼の骨を砕かんと闇に踊る。


「お前も戦えよ! 」

「あんな中に入ったら挽き肉になってしまいますよ! 」

そう、現在戦っているのは覇玉と蒼旋。

昭庸は得物の持ち合わせが無いので戦いの中に身を投じることができないのだ。

ただ状況を判断して二人に指示を出す、それしかできない自分にいら立ちを覚える。

さらに今の状況は正直言ってまずい。

相手の技量が一対三になっても毛ほどの問題が無いのは勿論、こちらの連携もかなりまずいのだ。


蒼旋は正に猪突猛進、ただがむしゃらに突っ込んでいくので連携もあったものじゃない。

まだ二十にも満たない未熟さが完全に仇になっている。

覇玉は十傑に名を連ねる者であれどその得物に癖があるので連携が取れないと厳しい。

そして彼、昭庸自身は得物も甲冑もなくあの中に飛び込むことなぞ死にに行くようなものだ。


冷静に状況を判断しつつ昭庸は黒烏を見やる。

「あの男。おそらくは覇玉と同等といった位でしょうか……厄介です」

刀術だけでなく状況判断能力、状況の不利への冷静さに彼は感嘆の意を覚えかねない。

何とかするには自分も戦わねばと彼は判断した。

とにかく蒼旋から刀を一本借りたほうがいい。


そう心の中で呟き駆け出した、その時――

彼の視界の一部が紅く染まった。


「蒼旋! 」

逆袈裟に斬られ蒼旋が崩れおちる。

斬られながらも黒烏へ向かおうとしたが、刀の腹で首を強か打たれ気を失った。

昭庸は素早く彼に駆け寄る。

繰り出される刀を掻い潜り、そして覇玉の流星錘に守ってもらいながら彼の小柄な体を抱え、安全な所へ移動させる。


――息はあるが、この怪我はまずい。


彼は医者としての判断を下し、覇玉の動きに気を配りつつ、袍を裂いて包帯とし応急処置を行う。

血気盛んだからと、無茶な戦いをさせていたのが仇となった。

仲間として自分は失格だと、昭庸は後悔した。




そんな彼の様子に気を配りつつ覇玉は黒烏を挑発する。

「さあ、とっととサシで決着つけようや」

「肯定。その技量、障害となる前に潰すべし」

黒烏もその挑発に乗り、刀を中段に構える。

彼は覇玉の話を夜哭から聞いていたが、正直見くびっていた。

確かに今は自分が押しているが覇玉の技量には若干驚きを覚えていた。

蒼旋の連撃を縫うように、絶妙の時期を狙って飛来する二つの錘。

それは実に面倒であった。

故に判断した。

己が主の障害になる前に殺しておこうと。

音もなく黒烏は覇玉に向かって駆け出す。

「ったく気味の悪い喋り方しやがって」

昭庸が動くまで時間稼ぎしないとな。

心の中で呟きつつ、紐を回し、睡を投躑する姿勢になりつつ彼も動き始めた。


気を失っても握りしめたままの刀の柄から一本、二本と指を引き剥がす。

「早く終わらせましょう」

静かに刀を握りまっすぐ黒烏を睨む。

そして丁度飛びさがってきた覇玉に語りかける。

「鵬の一員の名にかけてこの男を何とかしましょう」

「おう! 」

そして二人は夜哭党において夜哭に次ぐ暗殺者、黒烏と対峙する。


黒烏は望むところとばかりに刀を構え、地を蹴った。




その場所から少し離れた場所で――

広途(おおどおり)を勢いよく駆けていた馬から小柄な人影が飛び降り、近くの家の屋根に飛び乗る。

「いいのか? 」

馬に乗った方の人影は慌てて馬を止めそんな連れの様子を見上げ心配そうに尋ねる。

「うん。シュンは姉さま達の方へ向かって」

降りた方は闇の中でもわかるふわふわとした巻き毛を揺らし、小さく頷く。

「……わかった」

馬に乗った方、青年は屋根に飛び乗った少女の目を見て任せた、と心の中で呟く。

「無茶するなよ」

「わかってるよ」

屋根に座り込みこちらを覗きこむように見下ろす彼女の顔に笑みが浮かび、小さく手を振る。

「そっちも怪我しないようにね」

「ああ。じゃあ行くよ」

「わかった」

そして青年は手綱を操り、再び広途を駆けて行った。

少女はそれを見送った後、ある方向に目を向ける。



――青年の名は葵沃。

少女の名は芙蓉、字は鷹姫。

西の地より戻ってきた二人もこの街に着いたのだ。


葵沃はまだ知る由もない。

彼が再開を望んでいた少女、黒鵺が彼の仲間と交戦していることを。


そして、彼の決断の時が近いことを――

舜水と黎。

葵沃と黒鵺。

過去と未来。

未だ桔梗に乗せられた想いが知らぬうちに互いをつなぎ続けている二人。

しかし、皮肉にも二人は王の敵と狗。

王に歯向かう者に手を貸す者とそれを弑さんとする者。


運命が交差する時はあと一刻もないだろう。

――その時二人の決断は如何に。





長い文をお読みいただきありがとうございます。ちなみに黒鵺は女、黒烏は男。色々伏線を張ったり回収したりしています。相変わらず戦闘は妙な組み合わせ多し。大刀は三国志の項羽閣下の青龍偃月刀をイメージしてください。剣では勝てない相手のような気もしますが。御意見御感想お待ちしています。

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