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爺や、結婚してくださいね!  作者: 小鳥
10歳の王女さま【お好みに育ててね、爺や編】
6/10

爺や、勉強よりももっと楽しいことを教えて下さい。

異世界といえば、やっぱり誰でもの憧れ『魔法』と主人公のお話の段。






 前世の記憶が再びこの身に蘇った影響か、私には6歳から最近までの記憶が曖昧になっている。


 曖昧といっても、日常生活に影響するような記憶障害(ペンを見て「あれはなに」など)というわけではなく、自身に起きた小さな思い出やハプニング、それに数回出合った程度の人物の顔や名前がぼんやりしていたりする程度である。


 つまりは問題ないということだ。だって普通に人間成長していったら子供のころの記憶なんてどんどん薄ぼんやりしていくものだろうし。



 けれどもそんな私にも、記憶喪失(?)の障害を乗り越えてこの脳みそに焼きつかれている“思い出”なるものもある。



 8歳の頃。たしか季節は秋の終わり…もう冬が始まろうとしていた時期だった。


 その日私は家庭教師に言われて、この世界の礎になった過去の賢人たちの伝記やら何やらをこの城の恐ろしく広い図書室(というか研究室も兼ねてるっぽい)で延々と読みふけっていた。

 ちなみに周りには誰もいない。さすがに扉の前には護衛の兵士でもなんなり待機しているのだろうが、読書している王女を囲んで見守るなんていう非常識さはないと見えて、正直ほっとしていた記憶がある。



 当時の私は過度に自分に付きまとうSPさんもとい兵士さんに、若干ながらがっかりしていた。そのころの私にはもちろん前世の記憶なんてまだ無かったから、なんでこんな失望感みたいのを憶えるんだろうとずっと疑問だったのだが、今の自分にはわかる。


 私は護衛=SP=スーツでないことが、本能的に甚だ残念でならなかったのだ。


 (いや、だってただの鎧なんだもん。モブ装備なんだもん。階級的にはそれなりの人選んでくれてるんだろけどさ、違うんだよ。何が違うってあれですよ、スーツ。

 日本でも各国の首相とか天皇陛下の会談とか訪問のニュースもメインそっちのけで耳になんか透明の電話のぐるぐる見たいの付けたスーツマッチョメンばっか観覧してたし…

 あの人らってスーツに弐合いすぎ…いやあれか?スーツが彼らに似合っていたのか)


 …回想の途中だがちょっと今薄いストライプの入った一張羅的な紺のスーツを着込んだダンカンさんを妄想して、…なんでもないです。話を戻します。



 で…そう、そうしたらなにやら物音がした気がして、ふと周りを見渡すとどうやら窓のほうに人影があるのを見つけた。


 既に4冊目に突入していた私は気分転換、とばかりに椅子から飛び降りると、いそいそと声のするほうに歩いていった。いたのはサボりか休憩中か、数名の兵士と治癒師の見習い(制服が違うので簡単に判別できる)がたきぎを囲んで談笑しているところだった。



「最近ほんと寒くなってきたよなー俺そろそろ暖房器具ひっぱりだしてこないと。」


「だよなーあー毎年思うけど、うちの国って位置的か知らんけど夏と秋の時間短いよな。」


「あ、そういえば『ころみ亭』に新しいメニュー出来たって知ってるか?王都で人気の煮込み料理だってよ。」


「いくか?煮込み。」


「うーん…僕以前は王都にいましたけど、食事は比べ物にならないくらいここのほうが美味しいですよ。あ、でも王都の料理でも作るのはここの人だし、材料もそうですもんね。」


「どうする?」


「つうかちょっとお前もう少しこっち中入れ、風が火に当たって消えそう。へーなにお前王都の城勤めだったの?」


「いえいえ違います。寄宿舎です。全寮制なんですけど、皆ちょくちょく抜け出してご飯とか食べに行ってたものです。懐かしいなあ…」


「んーじゃあここはやっぱ無難にメシは食堂いくか。て、あーあー消える消える。」


「マッチは?」


「さっきの最後。あそうだ、なあお前魔法で火ぃ出せねえの。魔法使いだろ。」


「えっいや僕治癒師ですし、しかも見習いですし、破壊系の魔法はちょっと…」


「ぱっと火種で良いんだって、そしたら後は俺らが必死で育ててでかくするから。」


「ちょ、まじで消える消える!早く早く。」


「いや、ほんと無理なんですって、あの、ちょっ…もう、知りませんよ!?」






 ─そして冬というものは、空気がとても乾燥するものである。


 大惨事となったその光景に、この時の“思い出”はしっかりと当時の私の“トラウマ”としてこの身体に焼き付いたのであった。











 この世界においての『導流の器』という存在について説明をしておこうと思う。



 この世界の人間、エルフ、ドワーフや魔物などという種族の垣根に問わず、全ての生物に存在する身体の器官がある。それが『導流の器』である。


 『導流の器』は簡単にいえば、大方の生物が有する“心臓”と同じ機能を担う内臓である。

 

 つまり『導流の器』は血液の代わりに魔力を身体中に行き届かせる、ポンプのようなものだ。

 もちろん、生物の中には“生物”のカテゴリーに含まれない魔力を持つもの、身体がガスのように固体として確立していないものなどと多様ではあるので一概にこう、というみてくれはないく種族やそれを行使する魔道師の力量によってその一度に送り出せる魔力の質も量も個人差はあるのだが、基本的にその役割は同じである。



 いま説明したのはあくまで『導流の器』の基本的な知識であるが、『導流の器』の機能の優劣が影響を与えるのは、なにも魔法を行使する魔道師や治癒師たちに限ったことではない。


 人が感情の高ぶりを感じると、身体の血潮も滾るのと同様、魔力も感情や思考におうじてその強さを高めることができる。

 魔道師ならば“魔法”を強化し、戦士ならば“腕力”を強化する。


 ここで余談だが冒険者ギルドや騎士団などにおいてでは、精神を集中し、身体の隅々まで魔力をみなぎらせた状態のその生物にとってのベストの状態。その状態にいつでも為れる事が魔道師であろうが戦死であろうが、パーティを組む上での最低条件の一つである。



 つまり『導流の器』が鍛えられていなければ上級はおろか単純な“魔術の行使”も出来ないし、魔法を使わない、使えない戦士にとっても、体力腕力に非常に大きな影響が出るのである。



「“従って、『導流の器』の制御の仕方から学ばねば、良い魔術師にも、良い戦士にも成れず…”」






 ─耳に心地の良い、愛しい人の低い振動が鼓膜をくすぐる。


 ダンカンさんは私のすぐ隣に腰掛けながら、相当年季の入っているであろう数千ページはあるかと思う分厚い本をもうかれこれ一時間は朗読してくれている。


 区切りをつけながら、こちらが理解できるまで何度も噛み砕いて説明してくれる。

 ダンカンさんに寄りかかるようにページをめくる彼の手元を覗き込んでいる私に時折目線を落としては、もうあと数ページですから眠ってはなりませんよ、と頭を撫でてくれるその手にゆっくりと目を閉じて頷きながら、私は思うのだ。








 ───うん、わけが分からん。








 断言できる。

 魔法とか、無理です。あの、もうほんとに、無理です。




「…(咽仏…)。」


「“魔力の効力を高める即効性の─…”」


 憧れですよね、魔法って。ファンタジーですよね、一種の夢ですよね。

 …いや、でもだってね、私だって前世でファンタジー的な小説だって、ゲームだってしたことありますよ?でもね、(何回だって言いますよ)無理なんですってば。


 だって、



「“味はアユクサのように”…姫さま、もう少しですぞ。宿題を終わらせませんと、王宮魔道師に外出の許可をもらえませんぞ。」


「…わかっておる。」


 ───私、ゲームでは毎回必ずステータス的に完全に貴方のポジだったんです、ダンカンさん!だから冒頭のトラウマ云々のお話は、そこまで重要な要素ではなかったです!!


 レベルアップで頂ける能力ポイントだのの振り分け、全部“力”と“すばやさ”に完振りでしたもん!たまに“運”とか!

 まさに絵に描いたような脳筋の紙装甲勇者とかでしたもん!魔力系のドーピングアイテム、レア魔法スキルブックは考えることもせずに迷わずNPCに注いでましたよちからのたねとふしぎなあめをもっと下さい。



「…ダンカン、悪いがもう一度読んでくれるか。早く済ましてしまいたい。」


「…そうですね、では今一度…第一章15ページから…」


 そもそも最近特に良くその王宮魔道師の先生っぽい人に言い聞かされてるんだけど、エルフクウォーターの魔力の量とか関係ないんだヨ!私はなにも考えずにただ剣を振り回していたいんだヨ!ていうかもっとちゃんと言うと魔法ってこわいんだヨ!

 つうか意味わかんねえよ、なんで「燃え上がれ!」とか言ったら火が出んの!科学かむひあはーりー!

 


 というか、そもそも今は平和じゃないですか。ダンカンさんと+αな勇者一行がちゃんとこの世の脅威を拭い去ってくれたじゃないですか。私がそんな立派な魔道師になる理由ってない気がするんです、だって私って言うなればたった一人の王位継承者で、最終的にはこの国を継がなければいけないんでしょう?


 爺やのかすれたヴァリトンヴォイスに見も心も蕩けながら、適当に宿題用の教科書の内容を聞き流していると、つい先日も言われた講師の言葉を思い出した。



「姫様の潜在魔力は素晴らしい。その量も質も、これほどの才能は100人に一人…かつてこの国のあらゆる高名の魔道師たちでもきっと及ばぬことでしょう。」


「?そうか。」


「魔力のコントロールさえ身につければ、あとはどんな呪文でも思うがままでしょう。楽しみでしょう?20年もすれば、姫様はどの国の魔道師でも並びも出来ないレベルに到達できるはずです。」



(…いやいやいや守ってくれる騎士さんや、兵の方々がいるのに、“自分”が“最強”にならなければならない理由ってあるんですかい)

 まあ強くは、あるべきだと思います。そこはちゃんと分かっています。でもそれなりでいいと思うんです。


 国を継ぐ…その為の勉強だったら理解できるんです。だって私しがない日本のもと大学生でしたから。前世の記憶術をご披露するような機転もないですもん。だから所謂帝王学とかも、その…なんだっけ女神神話の朗読だってちゃんとします。


 それに国で開催される、武術大会や、騎士たちの英雄戦記とかから見るにこの国においての戦闘スキルの高さって名誉と同等に大切なものなのだろうと思う。だから、その国の王女が心身を鍛えるのも、まあ分かるんですけど…



 だからやっぱり一番に思うのはさっきも言いましたけど、平和じゃん?今、平和じゃん?いないよ魔王とか。見たことないよ魔物とか。いや魔物はいるんだろうけどエンカウントする機会も予定もありませんし。

 ちなみに私一応10年王女やってるけど、遭遇した記憶ないよ?王族の王道(笑)の暗殺者とか。(あったらがっつり守ってもらってきゃっとか言ってダンカンさんに抱きつけるのに…畜生)



 結論を言ってしまうと、必要かどうかも分かんないものを、必死に取得するヤル気も根性もない。ってだけなんです、私。



「はあ…ダンカン、次の章を頼む。」


「…“第四章…”。」


 けれどそれでも魔法の勉強(まあまだ基礎の基礎だけど)を投げ出さない理由は他でもない、ダンカンさん。


 単純な話。勉強…つまりは王女の義務を投げ出すような子供だと知れて、彼にがっかりされたくない嫌われたく好感度下げたくないという、ただそれだけの理由なのです。



「(くっそう眠い上に意味分からん…けれどこの章と次で終わりだ…終わったが最後じゃ。ダンカンさんの顔面にかじり付いて強制昼寝タイムに突入してやる…っ)なあダンカン、」


「やめましょう。」


「っ、は?」


 一瞬何を言われたのかわからなくて、ぽかんとダンカンさんを見つめると、ダンカンさんは立ち上がりぽいっと教科書をベットに放って私の頬に両手を添えました。



「姫さまが嫌ならば、やめてしまいましょう。なあに儂が適当に言い訳しておきます。」

「あ、でも…」


「城下にでもゆきますか?『ころみ亭』の焼き菓子でも。」


「!ゆくゆく!私はゆくぞ!ダンカン、ローブを持て!」


「はいきた、了解!」



 いろいろ疑問はあったものの先程の強制昼寝タイムのことなどすっかりどっかにやってしまい、私はじつに簡単に誘惑に屈してダンカンさんと手を繋ぎながら自室を後にしました。…いいのかな?












主人公は良くも悪くも、中身はただの(多少残念な)一般人。未知なるものに手を出すくらいなら、肉体的に理解できる(かもしれない)剣の道で開花したいよなあ~とか適当ですが考えております。

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