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爺や、結婚してくださいね!  作者: 小鳥
10歳の王女さま【お好みに育ててね、爺や編】
3/10

爺や、どうしてもシャツを着るの?

本編が始まりました。基本的に、主人公独白的ターンはいろいろ台無しか残念な描写が多いですが、ついになる話も書くときはちゃんと真面目っぽくなる予定です。基本的に主人公とオッサンのどうでもいい感じに進んでいきますので、かぁるい感じで読んでやって下さい。








 素敵過ぎる。


「…何時間見てたって飽きないよ…」



 目の前で、朝錬上がりの身体の筋を伸ばすように、薄手のシャツにうっすら汗をかきながら、上半身を伸ばして捻っている、白髪交じりの短髪の初老の男性を見つめながら、私は深く深くため息をついた。




 筋肉って、どうしてあんなに美しいんだろう。





 「…あ、違った。」


 訂正する。ダンカンさんってなんであんなにカッコいいんだろう。







 

 十歳のお祝いにと両親が新しく用意してくれた、この部屋の細工の美しいレースのカーテンがふわりと揺れる。それと同時に吹き込んできた風に混じって、城下の春祭りの準備用の焼き菓子の匂いがかすかに漂ってきた。




 ハイデルフ共和国、4の月初め。


 執事長に淹れてもらった紅茶を飲みながら、手元の本に視線を戻すと、おそらく鍛錬場の兵たちだろう、外からは号令に合わせて飛ぶ上官の渇の声や駆け足の音が聞こえてくる。


 もうすぐお昼なのに、皆がんばってるなあ。



 ダンカンさんも私とおんなじことを想ったのだろう、少し外に向かって視線を投げかけると、なにか想いを馳せるように顎鬚をしょりしょりと搔いている。


 …十四年前、私が“この世界”に新しく生を受ける四年前。

 所謂この世界には、大魔王と呼ばれる者が存在し、この国のみならず、世界に終わりのときが訪れようとしていた。



 けれども今は、そんな恐ろしい時代があっただなんて微塵も感じさせないくらいに、私たちのこの国には、穏やかでうららかな毎日が続いている。






「さあて姫様、どうしますか。今日は少し散歩でも行きますかな。」


「うむ、ダンカン。くつひも結んでー」


「はいはい。さっと、ソファーまで運びますよ…っと。」




 端から聞けば何を甘えたことを、と言われるようなことにもにっかと笑いながら、ストレッチの手を止めて上着を羽織る(着ちゃうんだ…薄シャツ最高だったのに…)ダンカンさんに、私は心の中でもう一度感嘆のため息をついた。


 ダンカンさんの為にこしらえてもらった、執事服とも文官服とも違う、機能性を重視した深い緑が基調の高い黒襟の厚手の上着が、無造作にボタンを留めるために引っ張られ、そのつど彼の体のラインをよりいっそう惹き立たせている。



 ───何度でも言う。素晴らしい。




 …うんいや、なんか流れ的に凛々しくいこうとか思ってたんだけど、もう無理です。私には無理です。



 ありがとう、神様!あ、この世界では感謝する対象は女神様だっけ。

 有難う御座います!女神様!どういった経緯かも、システムかも知らないけれど感謝します!もうほんと最高です、転生先をここにして下さって!






 


 …名乗り遅れました。私はクリサフィル・アゲルスカイド・ハイデルフ。…長いですよね、クリスで覚えてくだされば問題ないです。不便もありませんし。


 苗字からも分かるように、私は今生でこのハイデルフ共和国で王女という位置についております。

 …はいそうです。日本どころか、地球ですらないですよ、ここ。私の前世からの常識の尺度で言わせてもらうなら、完全なる“異世界”なのです。魔法とか、戦士とか、普通にあるんですよ、これ。

 

 あ、関係ないけれど、先週、10歳になりました。





 えっと、さっき私がいった“今生”というのは、実は私には前世の記憶がはっきりと残っておりまして、“過去”の自分の生い立ちから名前、趣味や性格までそっくりそのまま残ってしまっている状態なので、今は…所謂第二の人生というところでしょう。


 いえ、もっと本当のところをいうと、私もつい数週間前までは自分の前世の記憶なんてすっかり忘れ去って、立派に新しい人生を歩んではいたのですがね?なんの前触れもなく、突然パッと以前の自分の記憶が呼び起こされてしまったんです。


 思い出しちゃったんだからびっくりですよね、人生何が起こるか分かりません。いやこれほんと。



 その時は記憶が急に雪崩のように押し寄せて、頭の中で警報が鳴り響くような頭痛に半日ほど泣きじゃくりながら、混濁した頭と完全に麻痺した思考回路からパニックを起こし、家族から家臣の皆さんに至るまで多大なるご迷惑を掛けてしまいましたが、今では完全に落ち着いてます(その時の記憶トンじゃってるけれども)。


 それに一番ダメージの大きかった自分の死に至っては、もう完全に納得して乗り越えてますしね。悩んだってしょうがない、もう終わってることですし。


 でも前世のお母さんとお父さんには今でもたまに思い出しては、先立つ不幸に謝罪をしております。ごめんね、せっかく19まで立派に育ててくれたのに…辰巳は、有里ありさと 辰巳たつみは二人のこと、絶対に忘れませんからね。


 いつか、いつか自分が結婚して、子供が出来たら、こっそりともう一組のおじいちゃんおばあちゃんのお話を語り聞かせてあげるからね。







 ダ ン カ ン さ ん と の 子 供 に 。





 …。


 …はい、そうなんです。冒頭でもうばれちゃってるとは思うんですけど、私、ダンカンさんに絶賛片思い中なのです!


 今の私の両親も、すっごくやさしくて私のことを大切にしてくださるし、気遣いに溢れた家臣たち、冬こそ寒さの厳しいこの国だけど、取れる収穫物や、ご飯はとっても美味しいしで、この世界に生まれることが出来て毎日が感謝の連続なのですが、なによりも、なによりも、一番なのは!!




「姫様。そら、ちゃんと足を真っ直ぐ伸ばして下さいませんと、紐が結べませんよ。」


「うむ、ダンカン。こう?」





 ダンカン・ウォーレン。


 この国において、いやこの世界において彼の名前を知らない人間などきっといないだろう。




 この人との出逢いは今から4年前、私がまだ6歳のときで、ダンカンさんが鍛錬場の帰り道、確かお友達か部下の騎士さんとお話しているときに会話をしたのが最初でした。


 (当時の私はまだ前世の記憶なんてまったく無くて、ただ純粋に子供の好奇心と冒険心で毎日を過していた…と思う。

 前世の記憶を取り戻してからは、いきなり19年分の情報を脳みそに詰め込んだためか、5~6歳頃の思い出が曖昧になってしまっているんだよなあ、その時一緒にいた男の人も、今ではどれかの小隊の分隊長らしいけど。)



 あ、けれどもダンカンさん関連のことはしっかりとはっきりと覚えています!

 ダンカンさんは、遠めに見ても凛々しくて逞しくて、誇り高くて…そのがっしりとした腕に飛びつきたいと本能的に感じたのを今でもしっかりと記憶しております。(本能的というか、本能でしょうね、絶対。)


 懐かしいなあ。そのときはそのダンカンさんの“英雄的大物オーラ”に当てられて、話しかけるのが凄く気まずかったんだよね。…王女の特権使って引き合わせてもらうのはなんかいやだったし。

 

 なぜなら彼はかつて7人のことなる人種の英雄たちと共に『勇者一行』としてこの世界を救った大英雄なのだから、いくらこの国のお姫様でも萎縮してしまう。






 だけれども今は私の武術の先生ですけどね!!専属の!!!



 そう!毎日顔を合わせておはよう言って、


 毎日一緒に(どれか一食だけど)ご飯食べて、


 たまに一緒にお風呂入って(王女といえど、子供のうるうるオーラのお願いにはダンカンさんも勝てまいて!)


 たまに一緒にお昼寝して(たまに二人して本気寝してメイド長にこってり怒られるけれども)、


 たまに一緒に城を抜け出してくれる(見つかって…以下略)!


 だって私まだ10歳だから!本格的な武術鍛錬なんて筋肉壊しかねないし!

 やっさしぃ運動が今は一番だし!(ビバ子供!ビバ子供!転生とかよりも、ビバ子供の特権!王女特権は使いたくないけど、子供の特権は己の欲望の為ならいくらでも乱用しちゃうよ私!)


 まさにまさに!今や私の爺やとも呼べる存在のダンカンさんを、私は子供の特権を乱用しながらも、やや無理のあることでも、欲望に忠実に生き直そうと決心した次第であるのです!!








「はいそうです、と。…しかし今日は大人しくしてなければいけませんぞ。午後からはまた稽古事がありますからな。泥だらけになったら、湯のみせにゃならんですし。」


「えー…(ダンカンさん、駄々捏ねれば折れて一緒にお風呂入ってくれるんだけど、上しか脱いでくれないんだよなー…ひどいときなんか腕まくりだけにするしー…)」


「えー」


「…(え、なにこのかわいいオッサン)。」


「…(今のは少し恥ずかしかった)。」


「…」


「……ふうむ、抜け出しますか。儂が怒られれば済みますしなー。」




 小童の執事どもに儂に正面きって文句言える連中も、おりはしませんし。



 まあ、メイド長からは全力で逃げますが、そう言いながら当然のように抱き上げてくれた、ダンカンさんの片眉を上げたその表情と、近づいたときにした汗の香(さようならデオド●ント、ただしダンカンさんに限る)に、

きゅう、とときめいた精神年齢2×歳の私は、彼の腕を乗り上げるようにして首元にかじりついた。同時に息を思い切り深く吸い込む。



「さすが爺や!だいすき!世界一だいすき!」


「はははは、知ってますとも。」


「さすがは王国きしきし団長!」


「王国騎士騎士団大隊長ですぞー若干姫様の呼称では儂、降格しとります。」


「はい、大隊長!」


「うむ、よろしい。おりゃ!」



 きゃー(ぎゃー)!はははははは!





 ぶんぶんと身長2メートル超えの41歳に高い高いという名のハードなスイングをされながら、私はこの新しい自分の生活にまたも感謝するのでありました。







「爺ー(なでりなでり←鎖骨とか首の後ろとか)」


「はははは、儂が両手を使えぬからって、くすぐるとは卑怯ですぞー。うくくくく。」


「えへへー(あと三年…いや四年は誤魔化せる…!)」










お次は大英雄ダンカンさん。英雄が王女とはいえ少女の教育係りにになんかになったのか。…の予定です。

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