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爺や、結婚してくださいね!  作者: 小鳥
プロローグ【受け止めて、爺や編】
2/10

プロローグ~その弐~

 プロローグはこれにて終了になります。これからは折角の美少女を内面で台無しにする、それでも一途に恋をするお姫様の奮闘記が始まります。




 女神様、女神様、何ゆえこのような試練をお与えになるのです?


 わたくしは何か、女神様のお怒りに触れるような禁忌を犯してしまったのでしょうか?


 嗚呼、嗚呼。それならばどうかお許しくださいませ。お許しくださいませ。





 窓も戸も締め切り、窓という窓を布で覆った暗い寝室のなか。


 その美しい顔を両手でかきむしりながら嗚咽に咽る、一人の女エルフが寝台に腰掛けていた。




 女の名前はフィレル・エルンスレイド・ハイデルフ。


 ここハイデルフ共和国の王、アンデル・ヒューイット・ハイデルフの妻であり、そして現女王にして、世界でも唯一のエルフと人間ヒューマンの混血児である。


 彼女はもう十日以上もこの城、夫婦の寝室に一人閉じこもったまま、この世界の創造主たる全知全能の女神に懇願とも恨みとも取れるような、激情に駆られた祈りを捧げ続けていた。






 ここで少しフィレルの出生について説明をさせて頂くとする。



 彼女の父親は本国王都に巨大な勢力を構える、ハイエルフの貴族だった。

 この男…ロイハルはそれは美しかった。


 まあそれはこの世界に存在するエルフたちの全員に言えることではあるのだが、さらさらとした流れる銀髪と、その髪を後ろに撫で付けた髪型に、すっと切り込みを入れたような鋭利な眼差しは、多くの同胞のエルフのみならず、普段は彼らエルフ族を遠巻きにするヒューマンたちですらほう、と見とれるような人物であった。


 だが他の王都に住む他のハイエルフ貴族の例に漏れず、種族主義で自らの高潔な血と家名の名誉を重んじる、典型的なともいえる人物であった。


 ハイエルフ以外の全ての生物を見下し、軽蔑し、軽んじて生きていた彼であるが、そうあの日彼の人生を激変させるような事件が起こったのだ。


 事件…そう事件である。彼は、ヒューマン…人間の女に恋をする。


 何故だとか、何所にだとか、理由など彼にも解らなかった。だがただ一つ確かなのは、ほんの一目ほんの一瞬…その女を目にした途端に、彼の今までの数百年で彼という人物を成していた倫理観だとか、価値観だとかとかが粉々に打ち砕かれるような衝撃を受けたのだ。


 彼は女を手に入れ、二人での、彼女との残された限りある時間の全てを(人間…生き物たる所以のその定命であるが故の)、共に手をとり歩むためならば何もかもを捨ててしまえる男と成ってしまった。




 このことが同胞たちに知れると、最初は人間を選んだ彼に対し、一族は目を剥き激怒してロイハルを非難し罵ったが、しばらくすると彼が一族も、名誉も捨てて国を去ろうとしているという事実の方が、はるかに重大な問題であると気がついた。


 一族は女を受け入れることになる。これは過去数千年に渡る王都の貴族エルフたちにとっては晴天の霹靂ともいえる事態であったが、それでも当時右に出るものはいないとされるカリスマ的な指導者であるロイハルを失うくらいなら、多少の犠牲は…と取った、(まったく甚だ傲慢極まりないが)緊急処置ともいえる輿入れであった。




 もちろん二人には様々な偏見と差別が待っていたが、そんなことは硬い絆で結ばれた二人にとって取るに足らないこと…いや、ここで細かに語るほどのことでもないだろう。

 

 そして一族も種族も乗り越えた二人の仲はそれはそれは睦まじく、生活を始めて最初の年に、夫婦は待望の子が宿ることになる。



 そう、その赤子こそフィレルであった。


 彼女もまたエルフと人間ヒューマンの混血児という“リスク”を背負った人生を歩むことになるのだが、それは敬愛する母から受け継いだ持ち前の明るさと、どんなときでも希望を捨てぬ心を持つフィレルにとって、そんなものはなんの障害にも足りえなかった。


 フィレルはすくすくと成長し、生まれ持った魔導師としての才能を開花させ戦士としてめきめきと力をつけ、エルフの貴族の中でも確固たる地位を築いていくことに成功する。そして二百年も経つころには(さすがに人間である母は既に他界してしまっていたが)、彼女は王都でも並ぶ者なしといわれるほどの大魔導師として大成した。



 心身ともども充実した生活を送っていたフィレルであるが、そんな彼女もまた、ある種父親と同じ人生を歩むことになる。



 そう、当時ここ本国王都に観光という名の視察に招かれていた、ハイデルフ共和国の若き王子であるアンデル・ヒューイット・ハイデルフとの出会いであった。

 彼らはフィレルの両親と同じように、アンデルとの熱烈な一目惚れを経験することになったのだ。


 ……一族うんぬん、身分うんぬん、種族うんぬんの障害が二人に立ちはだかったということなど、これまでの話であらかたの想像はつくであろうので、まあ、うん控えるとしよう。



 そうしてフィレルは王都での血が滲むほどの努力で掴み取った、ハイエルフの貴族長の役目も、教会から羨望される存在である大魔導師としての地位も全て捨てて、この地図上でももっとも小国に位置する、ハイデルフ共和国の王妃として生きていく生活を選ぶこととなったのだった。








 …けれども、本当の障害というものは、二人の愛の前でもどうにもできぬものであった。


「あなた、愛しいあなた、ごめんなさい、ごめんなさい。」

「馬鹿なことを言うのではない、可愛いフィレル。そなたのせいではない、断じてそなたのせいではない。」



 三人目の子供を流産してしまったのは、昨年の冬であった。


 泣き崩れる愛しい妻を抱きしめながら、夫もまたこの世に生まれ出でることの出来なかった最愛のわが子に対し慰めをと、いずれその腕に抱かれるであろう女神に祈りを捧げ続けていた。



 この年は過去最大の寒波の年であり、あたたかい本国出身のフィレルにはとても辛いものであった。

 今度こそ、今度こそと希望を捨てずに歯を食いしばっていたフィレルであるが、宿す子供全てを失うという事実に、すでに心も身体も限界に来ていた。


 いま現在、この世界にはエルフと人間の混血児はフィレルしかいない。


 しかしそれは、エルフが人間と愛し合うことが稀ということでは、決してない。むしろそのような逸話は数多く存在するし、事実、王都を離れた森エルフなどは、数年に幾度か集落に人間の配偶者を招きいれることもままあることである。




 問題は、そんな俗物てき差別や偏見の問題ではなく、もっと生物の根本に基づくものであるのだ。


 寿命という概念自体が存在しない、精霊にもっとも近いといわれる生霊とも呼ばれる存在のエルフと、その大地に根を張り、呼吸をして、いずれ朽ちり還えってゆく人間とでは、そもそも子を成すことが非常に困難であったのだ。



「嗚呼、でもどうしてわたくしだけ?母様は、父様と結ばれたその年にはわたくしを生んで下さったのに。どうして、どうして…」

「フィレル…」

「あなた、あなた、ごめんなさ、…っ、ぁああ───…!」



 子がほしい。愛するわが子をこの腕に抱きとめたい。いずれ自分を置いて逝ってしまう、この誰よりも大切なこのひととの、共に歩んだ人生の証を、生きた証を。


 ああ、女神様。


 女神様。



 妻の瞳から流れる涙の一筋一筋に自分への深い想いを感じて、王もまた耐え切れぬというように嗚咽を漏らした。








 





 何もない、何所までも続く、その真っ白い空間のなか。


 白銀に輝く、波打つ髪をたゆたゆとなびかせながら、女は色が抜け落ちたように白い掌のなかで、さざめく、無数の命の鼓動を感じ取っていた。




 ああ、そんな…神よ、ご慈悲はないのでしょうか…




 空も、地面もない。そんな場所においても彼女、『運命の女神』は絶望するように天を仰ぎ見る。


 かの地にて腐食した思想と力がこの世界を包み、もはや自分たち“神聖なるものたち”の影響も段々と届きにくくなっている。


 この哀れな小さきエルフのささやかな願いを叶えることすら、すでに自分には途方もない奇跡であるということに、女神は深い悲しみに囚われていた。



 今、高潔なる魂をもつ人間たち、エルフ、ドワーフ、竜人たちが、その禍々しい魔の存在に立ち向かおうとしているのを感じる。きっと、彼らならばやり遂げる。あのおぞましい魔王をきっと打ち滅ぼすであろう。


 けれど…


 こちらは、待っていられない。この小さなエルフの精神は、すでに蝕まれ、痛ましいほどの悲しみに囚われている。



 様々な方向から声が聴こえる。


 めがみさまお助けください。めがみさま、母を、父を、息子を、娘を、あるじを、世界を…




 …出来ることをしてやりたい。


 今自分には、はるか大昔のような強大な力はないけれど、それでも自分を求めて祈りを捧げるこの愛し子たちの苦しみを、悲しみを、恨みを、ほんの僅かでも取り除いてあげたい。




 そよそよと流れる、今まさに死んでいった違う“軸”の女子の魂を感じる。


 『生きたい、生きたい。』


 『お母さん、お父さん、泣かないで。』




 柔らかく、包み込むように、そっと女神はその幼い魂を救い上げた。


 我らの“軸”とか異なる存在ではあるけれど、それでも、まだ見ぬ世界を想いながら母の身体の中で死んでゆく命と溶け合うことは出来るだろう。



 自分は“運命の女神”。これからの“運命”の切れ端を読み取ることが出来る。


 あの小さきエルフは、きっとまた子を宿せるだろう。だから、こんどこそは、今度こそはその鼓動が途中で終わってしまわぬように、この、まだ正にしがみつきたいと願う、この幼子の魂が彼女たちを救うことを願って…


 女神は掌に包み込んだ存在に微笑みかけると、いずれ訪れる、新たな命がかの者の中に宿るのを、ゆったりとした面持ちで待ち望むことにする。

















 ……ところで、この魂の最後の慟哭はなんのことだろう?



『なんでもします!なんでもしますから!どうかどうか、私のPCをっ、私のファイルデータを!お、お願…、こ、ここから遠隔操作で爆破してくださいいいいいいいぃぃ…』










本編自体は、続き物にしたり、思いついた話を短編っぽく載せたり、シリーズとして読んでいただける嬉しいです。ではでは、本編もがんばります。

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