17~18-1話 生き残り
軍靴が聞こえた。
また来たか、我らはもう、何も差し出せない。
どれだけの同胞が、この世の成らざるモノにされたか。
どれだけの資源を、我らの土地から搾取したか。
ならばいっそうここで、全てを捨ててでも戦おうか。
ならばいっそうここで、全てを終わらせて、子どもたちに過酷な未来を見せない。
それがせめてもの救いか。
◆
「兵長、村を確認出来ました、生き残りではないかと…」
「全軍、保護に向かうぞ。絶対に傷付けるなよ」
◆
奴らが来た。
皆構えろ!
女子どもは下がれ!
1000年東部に生き延びて来た我らの力を振り絞る時だ!
男ども!ここで死ぬぞ!
しかし、可笑しい。
以前の奴らとは面持ちが違う。白い鎧いの死神も居なければ、黄金の髪の商人でもない。
可笑しい、奴らは何故武器を掲げた。
なに?!何故武器を地面に捨てる?!
一人の青年が前に出た。
「えっと、こんちゃ!わしらは仲間やで!少しお話しせんか?
…てか言葉通じるんやろうか、いや生き残りやし、いや1000年もたちゃぁ厳ぃか?」
なんだそのふざけた言葉は。
どこの田舎もんだお前。
◆
ぽかーんとした顔で見つめられた。
精一杯の笑顔で応えてみせた。
「あれやっぱ言葉違うかな?白騎士の言語なんて知らないよ…」
身なりが比較的まともな中年の男性が近づいて来た。
「おめぇバーカにしとんか、おぉ?どこの田舎もんっぺよ?!」
「へ?」
「何大勢のふと連れで来てんだおめ!どってんすちまうびょん!」
「…ええと、はい?」
なんだこの田舎モン、喧嘩か?
よし全軍、ヤルぞ。
◆
「はえぐいってけ!西の白豚どもがど思ったでねが!ガハハ」
「いやはや!おずさん達も早どぢりすねでぐれよ!」
どうにか村人と誤解を解く事が出来た。ロッキー副官がどうにか村長と話をつけ、場を収めてくれた。
同じ言語を話しているのだろうか、当人達の独特な会話にどうにも付いて行けないと悟り、全て丸投げした。
ていか何ぜロッキー副官と会話が通じるんだ。
本人曰く、ウェストドラガン出身の中でも、ワジャ民族にルーツを持つ家系で、地元で離されている訛りに近いらしい。
大変助かった。思わず全軍突撃の号令を出しそうだった。
焚き火を囲い、宴を開催し、親睦を深める事にした。
◆
生き残りの民、彼らは東ワジャ生粋の民。
彼らと、歴史、現状について共有を図っていった。
しかし彼らには国という体系的な枠組みを持っておらず、原始的な暮らしに近い事もあり、口伝に近い歴史事実しか擦り合わせる事が出来なかった。
整理すると、彼らは始まりの王の歴史について知っている者は居らず、生まれた時から白い軍勢に支配されている記憶しかない。
しかし、彼らの中には白い軍勢に抵抗した、守り神、竜が一部信仰されていた。村野中で竜を象った祭具、彫刻などが見られており、悪魔祓いとしていた。
500年の歴史で、ナーガの歩みは無駄ではなかった。
白い軍勢は、強制栽培や定期的な人員の供給を強いて、抵抗すれば残虐な制裁を加えていた。
東ワジャの民は、強制栽培で、本来自分達が営んできた作物を作れず、やがては食料困難に落ちいていった。
また定期的な人員の供給も村にとって重いものだった。
定期的にマンパワーが失うことにより、村の生活は成り立たたない事が多くなっていた。
そして何よりも受け入れがたい事実は、
「あの白い悪魔は、彼らだったのか」
白い軍勢は、ワジャの民を悪魔に変える術を持ち合わせていた。
亜人の誕生原理を応用した魔法であり、元来亜人の祖は人間と同一だった。土地の魔力や周辺の魔物などから、長年影響を受けて、徐々に体が魔物に近い性質を発現する。これが、亜人の由来だ。
日出国の民の魔力量が少ない理由も恐らく同じ原理。
白い軍勢は亜人を研究し、ワジャの民を戦闘要員として活用した。
しかし、ここ数ヶ月、白い軍勢が村に来ることはなかった。
数ヶ月前の地響き以降、彼らは一度も来ることはなかった。
この村でも、他の村と連携し事実確認はしたが、少なくとも西の遠くの村まで白い軍勢を見かける事はなかった。
彼らは白い軍勢の脅威が居なくなった事に、何よりも喜ばしい事だが、しかし、いつ彼らが帰って来るか、気が気でなかった。
いつまたあの恐怖の支配が戻るか、恐怖の日々が過ごした。
そんな矢先に、田舎者が突然重武装で村に襲撃して、いよいよ終わったと思っていた。
おい待て、田舎者だと?
全軍、ヤれ。
◆
「…どうしますか兵長」
夜が更け、焚き火もその明かりを潰えようとしていた。
幸い月明かりがはっきりと村を照らしていた。
「本国に調査報告を送って、団長の判断を仰ぐ事になるけど…幻妖薫川を拠点にする。そして、東ワジャ民とある程度親睦を深めたら、更に西に行く」
「はっ」
副官は早々に団員達に指示を送った。一つの方針で十の行動をしてくれる優秀な副官だ。本国への調査報告、そして拠点作りの同時に生き残りの民たちの保護。丸々一つの国家をワジャ東部で立ち上げるみたいだ。
一つ気がかりなのは、生き残りの民、彼らは、黄金髪の商人、と口にした。
黄金髪の商人…彼らは、村人とは最低限のやり取りしかしなく、むしろ村人は彼らから無償の施しを受けており、悪い印象は持っていなかった。
白い騎士は、鎧の隙間からしか確認出来ていなかったが、髪の色は白だ。
そして、西大陸に到着した時に確認した、崩壊した街、そして港。
リバ大陸の西部の海域には、深きものが潜んでおり、海路による移動は困難を極める。
最近頭角を表した黄金の継承者、海洋の主、海洋都市クタランティスの造船技術でもあれば、深きものを潜り抜ける事は出来るだろう。
それを数百年前から実行出来る力、この500年で急速に力を付けた者、それが出来る者は一つしかない。
「世界を開拓するにもまずは地盤固めか…ロッキー、報告書に追加してくれ、
”中央の黄色い花を見繕って欲しい”ってね」
「…かしこまりました」
副官が司令部を退出しようとした所、その退路が、屈強なる戦士に阻まれた。
副官ロッキーは礼節を重んじる青年であり、屈強なる戦士に、畏怖の敬を示した。
戦士は副官の肩を叩き、ハイジに近づく。
「ちょうど退屈な時間をどう潰すか考えた所だ、俺様が処理しよう」
「…殿下」
魔力の躍動。
「貴様らは憂いなく西を開拓しよう、新たな玉座は、俺様が頂く」
王者に、久方の高揚感が沸き上がった。




