終章
その日。一人の男が、新成田空港に降り立った。ひしめく雑踏のなか、男は荷物を手に悠然と辺りを見渡した。長身だ。短い黒髪に、灰色のスーツを纏っている。
サングラスの為に表情は判りづらいが、口元には笑みが刻んであった。
「三年ぶりか……日本は」
低く、呟いた。
「ここが貴方の故郷なのね――」
背後から投げかけられた、柔らかな声。
「あぁ、そうだ」
男は振り向いた。
「ここが俺の故郷。邪霊の五月蝿えなす国――日本さ」
ごとん。
男が腕を動かすと、手にしていた荷物――黒い大きな革製のケースが、地面に当たって鈍く音をたてた。
「迎えが来るって言ってたよね?」
「そう、連絡で聞いているが……」
後ろからの質問に、男は頷いて答えた。
「じゃあ待っていよう。貴方のご家族の方が、迎えに来るまで――」
××××××××××
その頃。
地下深く設けられた風水の砦では―――
『H.D.全修復及び全換装終了――』
オペレーター達の声が慌ただしく技術開発室(通称・T.D.U.R)内に谺する。
『霊的サーキット、RON形式にてDOM化、第二記憶媒体にDL・保存します』
『よし。作業が済み次第、会長に報告を入れる』
『報告書を纏めて速やかに提出します』
『それと、ついでに新しい術式の追加DLも頼む』
『了解』
『全てが完了する二時間後に、〈鱗核〉を起動するぞ』
『了解しました』
水晶色の龍頭は静かに覚醒の時を待っていた。
戦闘で破損、疲弊した箇所は、今やフル・チューンアップされ、美しい輝きを取り戻している。
主の手に握られるまで、それは眠りにつく。しかし、目覚めの日も近いだろう。
そんな予感が誰しもあった。
『〈鱗核〉起動!』
う゛ぅん――灯が点る。
ぉぅぅぅぅぅぅぅん……甲高い咆哮が響いた。
戦いを呼ぶ龍の声。
新たな戦陣へ主を導く、それは第一楽章の始まりを告げるファンファーレ。
――二階堂 辰魅に試練の時が迫っていた。
……この国の、いや、世界の未来を賭けた、大いなる戦いの試練の時が。
風水メイド神記
第一部・青龍の杖編
―完―