序章
このお話は、元々GREEのコミュニティで書いた作品で、原題は「風水メイド戦記」でしたが、似た名前のコミックがあったので、若干変更しました。
コンセプトは、でっかい杖を振り回して闘う美少女メイドというものでした。
かなり前に書いたので文章は未熟であり、かなり読み辛く思いましたので、ちょびっとだけ加筆修正してます……が、あんまり変わりませんね(^_^;)
さて、この物語は「ガルガンチュア」五部作の最初のシリーズで、他に外伝も予定。第二部はそのうち執筆する予定で、GREEに書いてから他のサイト上に載せる予定です。
なお、どうもバグなのか一部に文字化けする部分があるみたいです。ですが、どうすりゃいいか作者にはわかりません。ごめんなさい。
――西豪寺京一の寝覚めは、あまりよいものではなかった。
「ほら、ご主人様!さっさと起きろ!」
ボスッ!!
そのメイドさんは、いきなりベッドの上に脚を乗っけて、ぐいと踏み込んできた。
「ぐほぅっ!!」
京一は、突然、腹にきた衝撃に、喚き声をあげた。
「あ、あの、二階堂さん…頼みますから、もう少し穏やかに起こしてもらえると……」
気弱に呟きながら、自分を起こしに来てくれたメイドさん――二階堂 辰魅を見上げた。
気の強そうな娘である。
栗色のロングヘア。 少々つり上り気味の、アーモンド型の双眸。桜色の唇。
なかなかの美人である。
おまけに胸がでかい。
そんな彼女は、純白のヒラヒラしたカチューシャと、エプロンに、長袖で、裾の長いスカートの濃紺のメイド服を着ている。
――美しい……
思わずうっとり眺めていると。
「もお!なにぼうっとしてるの!? さっさと起き上がりなさいよ」
ぐい、と京一の腕を掴んで、起き上がらせようとする辰魅。
(うわっ)
至近距離に、辰魅の顔がきて、どきどきする京一。
甘い、髪の香りが鼻先を掠めていく。
「しっかりしなさい!!あなた、生徒会副会長でしょ、寝坊ばっかりでどうするの!」
「だって、僕は低血圧で……それに…」
「言い訳は聞かない!男ならビシッとしてよね!」
「は、はぃ…」
「さ、早く着替えて。朝ごはんは出来てるから…」
「うん。ごめんなさい」
情けない表情で、辰魅に言った。
そんな彼の様子に、ため息を吐いて、辰魅は「それじゃあたしは行くわね。まだ仕事があるんだから。――京一くんもちゃんとガッコ行くんだよ?」
「わかってますよ。もうずる休みはしません」
「ったく、注射が怖いからって、学校休む高校生がどこにいるのよ。小学生じゃあるまいし…」
「うぅっ」
縮こまる京一。
「全く、こんなのが跡取りなんて――おじさまも大変ね」
そう言いながら、京一の部屋を出ていく辰魅。
名残惜しそうに、その姿を見ていた京一だったが、時計の針の進み具合を見ると、慌てて制服に着替え始めた。
「やばい!遅刻しちゃう」
遅刻したら、あの人に――生徒会長に起こられてしまう。
「怒られるのやだなぁ…」
×××××××××
―――私立清流館高校。
西豪寺 京一は、リムジンで登校した。
西豪寺コンツェルンの御曹司である彼にとっては、これが普通の登校なのだ。
清流館高校は都内有数のお
坊っちゃま、お嬢さま学校である。 みな家柄もよく裕福な家庭ばかりだ。 しかも容姿に優れた若者たちが多い。
京一も、見かけは非常に良かった。線の細い整った顔立ち。温和で優しい人となりは、それなりに人望を得ることに役立っている。
とはいえ―――
「西豪寺くん、もう会議は始まってますわよ」
「す、すいません、会長……」
どうにも頼りない性格が、周囲から信頼されない理由なのかもしれない。
やや遅れて生徒会室に入ってきた京一に、生徒会長の少女が柳眉を上げ、怒声をぶつけてきた。 京一としては謝るしかない。
「……今度から気をつけてくれますように」
生徒会長は情けない顔の副会長の見て、ふうとため息を吐いて言った。
「はい。すみません」
生徒会長―――桜留かのんは、やっぱりこの男はだめだな、と思った。
かのんは、美男美女の多いこの学校でも、とびきりの美少女だ。
長い艶やかな黒髪を、背中に下ろし、黒玉を思わせる瞳は、知的に澄んだ輝きを放つ。
長身、身のこなしが優雅で、すっきりとした印象を与えてくれる美貌の少女だ。
(もう少し堂々とした振る舞いをしてくれれば…もっと頼りにできますのに。顔は素敵なのですから、もっときびきびとして欲しいですわね―――)
内心そう思いながら、かのんは、
「それでは、メンバーが集まったところで、早朝会議を始めたいと思います―――」
と、会議の開始を宣言し、生徒会の面々を見渡すのだった―――
一方。二階堂辰魅は。
「あ〜忙しい」
邸の洗濯と掃除に追われていた。
と。
「辰魅くん」
「あ、執事さん」
西豪寺家に仕える年輩の執事が、洗濯物を抱える辰魅に、声をかけてきた。
「実は頼みがあるんじゃが…」
「はい、なんですか?」
「わしは夕方、旦那様の言いつけがあって、京一坊ちっゃまの迎えが出来なくなってしもうたんじゃ」
「はぁ……」
「たしか、辰魅くんは免許があったね?」
「えぇ、ありますが」
「それでは、悪いが坊っちゃまの迎えをたのめんかの」
「わ、私がですか―――」
「そうじゃ。どうじゃろう、たのめるかの」
「まぁ、いいですけど。あたし夕方は買い出しが……」
「ならついでにいってくるとよい。坊っちゃゃまなら別に怒りはせんじゃろうて」
「まぁ、京一くんなら文句は言わないだろうけど……」
「頼むよ、辰魅くん」
「はぁ……まぁ、いいですけど……」
あのリムジンをあたしが運転……本当にいいのかな……? ぶつけても史らないわよ……
一抹の不安を抱える彼女に、老執事は感謝の言葉をかけ、足早に立ち去った。
「…おっと」
洗濯の最中だった。
慌てて辰魅は、衣服の山を抱えて、洗濯所に急いだ。
×××××××××
東京。
いや、正確には新東京と呼ぶべきか――― かの〈大洪水〉によって、すさまじい被害を蒙ったこの都市も、いまではすっかり盛時の勢いを取り戻した観がある。
その街を、オレンジ色の闇が、天上から覆いつつあった。
高級リムジンをかっ飛ばして、二階堂辰魅は、清流館高校へと向かっていた。
「あぁ。なんかアタシ、セレブな気分……」
目指す高校に着いた彼女は、どうにか車をぶつける事なく、駐車場に止める。
「でっかい学校だな~」
周囲を見回して、しきりに感心する。
「んじゃ。校門のとこ行って、坊っちゃんを待つかしらね」
辰魅はメイド服のスカートを翻すと、珍しげに校舎を観察しながら、歩き出した。
「それにしても、これじゃあたしの行ってたガッコなんて、小さなテント小屋みたいなもんね……」
西日が窓から射してきて、京一の眸を灼いた。
「ご苦労様。ありがとう、西豪寺くん。手伝ってくれて……」
微笑しながら、桜留かのんが、お礼を言ってきた。
ここは生徒会室。
会長であるかのんには、放課後にも残ってやる仕事があった。京一は副会長として、彼女の手伝いを申し出て、かのんもせっかくだからと、作業を一緒にしてもらっていた。
「いや、会長一人じゃ、大変な分量だったし」
書類の整理だったが、一人なら二時間以上かかっただろう。しかし、二人で力を合わせたおかげで、一時間程度で終わらせる事ができた。
「ありがとう」
と、かのんはもう一度、言った。
「それじゃ、僕は帰りますね。爺をだいぶ待たせてるから――」
「お疲れさまでしたね。では、また明日、ごきげんよう」
部屋から去る少年の背に、かのんは別れの言葉をかける。
「……」
――― 一人、室内に残るかのんの、口許には、嬉しそうな微笑みが浮かんでいた。