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第9話:鉱山へ

 ステラはノエルとともに屋根付きの馬車に乗り、鉱山へと向かった。

 もちろん、護衛と案内を兼ねるケンドリックも一緒だ。


「馬車だ!」


 ノエルが弾むような足取りで馬車に乗り込む。

 馬車が走り出すと、窓にかぶりつきで外の景色に夢中だ。


 ノエルの楽しそうな様子につい顔がほころんでしまう。


(広いといえど、屋敷の中ばかりだと息が詰まるわよね)


 この様子だと、ローワンはノエルを連れて出かけたことなどないようだ。


(本当に……少しは構ってあげればいいのに)


 ローワンへの不満がふつふつと湧き上がる。


(まあいいわ。これからは私ができるだけ連れ出してあげよう)


 鉱山の手前の事務所に着くと、壮年の男性が二人やってきた。


 一人は軍服のような制服姿で、もう一人は動きやすそうなオーバーオールに帽子をかぶった作業着だ。


「管理官長のクインと抗夫のリーダーのヒンギスです」


 そっとケンドリックがささやいてくる。

 ふたりはステラを見ると、恐縮したようにさっと帽子を取った。


「公爵夫人のステラ様だ。今日は鉱山の視察に参った」


 ケンドリックの紹介に、オーバーオールを着た抗夫のリーダーはぺこぺこと頭を下げた。


「は、初めまして奥様。抗夫のリーダーを務めております、ヒンギスと申します」

「鉱山の管理を任されております、クインと申します」


 制服姿のクインが丁寧に礼をする。だが、ふたりとも困惑の色を隠さなかった。


 ヒンギスがおどおどと上目遣いで見てきた。


「あの……何か問題でもありましたか? 奥様がわざわざ鉱山に足をお運びになるなんて」


 ヒンギスの懸念ももっともだ。

 女主人は屋敷の管理と社交を務めるのが一般的だ。

 領地の視察や管理は公爵、もしくは家令の仕事になる。


「実は私、鉱石に興味があって。鉱山を見学させてもらいたいの」

「鉱山は宝石の原石しかなくて……そんなに美しいものではございませんが」


 どうやらヒンギスはステラが宝飾品として興味を持っていると勘違いしているようだ。


(当然ね。鉱石を仕事として扱うのは男性ばかりだもの)


 宝石商の夫人など営業をする者もいるが、それも夫の仕事の補佐という役割だ。

 夫も連れず、一人鉱山に来たステラに戸惑っているのがありありとわかる。


「あの、鉱山の中に入られるので?」

「ええ。実際の採掘現場を見てみたくて……」


 そう言うと、ヒンギスは目を丸くした。

 傍らのクインも不安そうな表情になる。


「大丈夫。ドレスの裾はひきずらない丈だし、ブーツを履いているから」


 ようやくステラが本気だとわかったようで、ヒンギスが顔を引き締めた。


「わかりました。さっそくご案内します」

「ありがとう。お仕事の邪魔をしてしまって悪いけどよろしくね」


 ステラはノエルを見た。


「ノエル、どうする? ここで待つ? それとも一緒に行く?」


 声をかけると、ノエルがぎゅっと手を握ってきた。


「一緒に行く!」


(子守の侍女を連れてきた方がよかったかしら。でも、私もノエルといたいわ)


 胸がドキドキする。新しい場所、初めて会う人たち――自分がうまく振る舞えるかどうかわからない。

 受け入れられなかったらどうしよう、と思うと手が震える。


(自分一人のためだったら、ここまでやれたかしら)

(屋敷の家政を担当し、魔宝石に関しては報告を読んでいただけかも)


 ステラはきゅっと手を握って隣をよたよたと歩いているノエルを見た。


(この子を守りたい、幸せにしたい)

(そう思うと前に進む勇気がもらえる)


「奥様、こちらです」


 ヒンギスの声に、ステラは足を踏み出した。

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